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第43話 部屋の移動


「さーて、チビども。今日は新入りがこの部屋に来る。約束を覚えてるか?」


 オーブが大部屋に移る日、既にマックスがオーブ用の寝具を運び込み整えてから部屋の子どもたちに問うた。はーい、と元気一杯の声と手があがる。


 大部屋には二十人ほどの子どもたちが生活を一緒にしていた。年齢には差があるけれど、十歳未満の子が多い。自分で年齢を把握している子の方が少ないと私は聞いていた。


「誰が来てもいつも通り!」


 フラヴィが元気に答えて、そうだ、とマックスが頷く。フラヴィが嬉しそうに笑った。


「どんな奴か気になるのは解る。話しかけたい気持ちも解る。でも新入りは此処のことをよく知らない。知らない場所は怖いだろ? まずはよく見たいと思うはずだ。此処で自分と同じような奴らがどう過ごしてるのか」


 マックスはよく通る声で子どもたちをぐるりと見回しながら話す。ひとりひとりと目を合わせているようでもあった。全員がマックスを見ている。人を惹き付ける方法を知っている人だと私は思っていた。


「今日来る新入りは前にも此処に来たことがある坊主だ。でも自分みたいな子どもがいるってことに安心するより、知らない場所を嫌がった。だから目を覚まして早々にひとり部屋に移した。そいつにはそいつの馴染み方がある。あの坊主にはひとりでまずこの場所そのものに慣れてもらった。次はこの部屋とお前たちに慣れる番だ」


 良いか、とマックスはひとりひとりに指示をするみたいな表情を浮かべた。子どもたちの中にも緊張感が漂った気がする。


「あの坊主は此処のことをよく知らないから、驚くようなことを仕出かすこともあるだろうさ。気に入らないことだってするかもしれねぇ。でもな、知らないだけだ。知っていけば慣れる。でも知る速さも違う。痺れを切らすな。待て。できるな?」


 最後の問いかけは信頼に満ちていて、思わず私も頷きたくなった。子どもたちは皆、力強く頷いている。おーおー、とマックスは満足そうに笑った。


「頼むぞ。それじゃ準備してくるな」


 マックスが出て行くと子どもたちは遊びに戻る。テレーズやイヴォンヌも今日は来ていて、オーブを迎え入れる準備をしていた。子どもたちの相手をしながら、それでも扉の方に注意を向けているのが判る。


 子どもたちも、いつも通り、と言いながらそれが難しい様子なのは見ていてすぐに判った。私が此処へ来た時にはいつも通りではなさそうだったけれど、私は子どもたちとは歳も離れているしマックスが今したような予告もなかった。


 それに私の方がきっとその“いつも”を知らない。一番そわそわと落ち着かないのは私のような気がしてきた。


 大部屋の扉に鍵はかかっていない。この大部屋だけで全てが完結しないからだ。それに子どもたちを閉じ込めておく意図もない。保護しているだけで、縛り付けるわけではないから。ただいつでも子どもたちの世話をする使用人がいて、大人の目があった。ほとんどの子が経験するマックスの“治療”が施される処置室を通らないと地上には行けない造りになっているのも、抵抗感があるだろうと思う。


 それでも念のためにビルやマックス、トマがオーブが脱走しないように逃げ道を塞いで一番奥の大部屋へ向かわせる手筈になっていた。オーブは個室以外はあまり知らない。マックスの処置も痛み止めを打たれた中で行われたから記憶がないことも考えられる。


 基本的には地上から一本道で、等間隔に灯りが下げられている地下は構造上、横道に逸れることが出来ない。他の部屋にも鍵はかかっていないものの今日は誰か彼かがその扉の先にいる。それでも中に踏み込むことはないはずだ。大人で物凄い力持ちのマックス相手でも向かっていくオーブだけれど、私以外の人が部屋に入れば逃げようとする素振りを見せたと記録にはあったしビルも話した。そういった情報から立てられた計画だ。


 扉が開くのを今か今かと待ち構えて、私は視線を向け続ける。オーブはどんな表情をするだろう。私はどんな顔をして出迎えれば良いだろう。此処に私がいることで、オーブに来て良かったと思わせるのが私の役目だ。でも、どんな風にしたらそう思ってもらえるだろう。


 いるだけで良い、とビルは言った。特別に何かする必要はないと。ただ──。


 見つめていた扉が開いて、怯えた表情のオーブが入ってきた。視線を部屋の中にサッと走らせる。その後ろでビルがいつもの唇を真一文字に引き結んだ表情でずんずんと迫って来るのが見えて私も肩を震わせた。ちょっと、いやかなり、怖い。


 何処か逃げられる場所、それとも隠れる場所、を探していたはずのオーブは突然子どもたちがいる部屋に出て困惑している様子だった。何度も視線を走らせるけれど私とは目が合わない。


 物々しい雰囲気に、子どもたちも“いつも”を継続できなかったらしい。しんと静まり返った部屋でオーブの浅くなった呼吸が聞こえた気がした。誰もが固まった部屋の中で、私は思わず一歩、オーブに向けて足を出す。視界に動くものを認めたオーブが鋭い視線を私に向けた。


「──!」


 その目が、驚きに見開かれる。話さないオーブの、どうして、という疑問がその目に浮かんだように見えて私はビルに言われていたことを思い出す。


 特別に何かをする必要はない。ただ。


「……オーブ」


 名前を呼んでやれば良い。



昨日検査に行ったら無事に流行り病に罹っていたのと熱が下がらんので相変わらず38度近くをうろうろしてます。こりゃしばらくは下がらんやろと思うので一週間ほどお休み頂きます〜!


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