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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

荒野の人食いライオン

作者: 安田安男

荒野の人食いライオンのお話です。

「ライオンって群れで行動するだろ」というツッコミがあると思いますが、この物語のライオンは群れで行動しない特別な種だと認識してください。

そうしといてくれるとありがたいです。

昔々、とある荒野に1匹のライオンがおりました。

ライオンはとってもお腹が空いていましたが、あたりには獲物になる動物が一匹もおりません。

ライオンが困り果てながらとぼとぼ歩いてると、向こうのほうに猿のような動物が倒れているのが見えました。

ライオンが近づくと、それは猿ではなく人間でした。人間は死んでいましたが、死んでからあまり時間がたっていなかったのか、まだ体はそんなに干からびていませんでした。

お腹が空いていたライオンは、「この際人間でもいいや」と、人間の死体をむしゃむしゃと食べました。

仕方なく人間を口にしたライオンでしたが、人間の味を知った途端、ライオンの目がキラキラと輝きました。

「なんて美味しいのだろう!シマウマやガゼルなんて比じゃない程に、今まで食べた肉の中で一番だ!」

ライオンはすっかり人間の味を気に入ってしまいました。


次の日、ライオンはシマウマやガゼルなどの動物を無視して、ひたすら人間を探し続けていました。

ライオンの様子を見かねた母ライオンは、ライオンに尋ねました。

「我が子よ、なぜ他の動物を襲わないのです?私達ライオンは彼らを襲って食べないと生きられないのですよ。」

「お母さん、それはこの世で最も美味しい生き物の味を知ったからです。人間です。人間の肉はどの動物の肉よりも格別でした。あの味を知った以上、私はもう人間以外の動物を口にできそうもありません。」

「まぁ人間ですって!?人間は食べてはいけないわ!」

「なぜですかお母さん、彼らは体に毒を持っているわけでもないのに!」

「確かに人間は毒を持ってません、でも知恵があります、私達より何倍もの。貴方が人間を食べたことを知ったら彼らはきっと、恐ろしい武器を携えて大勢で貴方を殺そうとするでしょう。」

「そんなの信じられません!お母さんは私に人間を食べさせたくないあまりに嘘を言っているのです!私は人間を探しに行きますよ!」

ライオンはそういうと、母ライオンの静止の声も聞かずに再び人間を探しに遠くへ走り去って行きました。

母ライオンと別れてから大分時間が経った頃、ライオンはようやく人間を見つけました。

今度は生きている人間が群れで行動しています。周囲に大きな声をかけながら歩いてるようですが、何を言ってるのかはライオンにはわかりません。

それでもライオンはようやく見つけた獲物を逃すつもりはありませんでした。人間達に見つからないようこっそり見守り、疲れて休憩

したところを狙って襲いました。

人間達はライオンが突然襲いかかってきた為、抵抗する余裕もありません。

「ひぃ、このライオン俺たちを食べようとしてるぞ!」

「やめろぉ、食べないでくれぇ!」

「マ、ママー!」

人間達は次々と悲鳴をあげますが、当然ライオンには言ってる意味もわかりませんし、食べるのをやめる気もありません。

ライオンは1人、また1人と人間達を食べていきました。

最後の1人を前足を乗せて動けなくしたところに、ライオンを追いかけていた母ライオンがやってきました。

「見てくださいお母さん!お母さんが来るまでの間に、私は人間達を何人も食い殺しました!やっぱり人間に殺されるなんてありえません、こんなにも弱いんですから!」

「それは彼らが武器を持っていないからです!足元の人間を離しなさい、そして、もう2度と人間を食べてはいけません!」

「またお母さんはそんなことを言う!お母さんは人間の美味しさを知らないからそう言えるんだ!私はこの人間を食べます!」

「いいえ、食べさせません絶対に!」

母ライオンはライオンに勢いよく飛びかかりました。

それによってライオンは地面に倒れ込み、捕まっていた人間は解放されました。母ライオンは我が子を押さえながら人間に向かって吠えました。

「私がこの子を押さえてる間に、急いで遠くに逃げなさい、早く!」

ライオンが人間の言葉をわからないように、人間もライオンの言葉がわかりません。ですが、想いは伝わりました。

人間は遠く、遠くへと逃げて行きました。ライオンに追いつかれることのないよう。

人間の姿が見えなくなったあと、ライオンは母ライオンに対して怒りました。

「お母さんのせいで人間を1人食べ損ねました!どうして逃したのですか!」

「それは貴方にこれ以上人間を食べさせたくなかったからです。あの人間はこれから住処に戻り、仲間を呼んで貴方を殺しに来るでしょう。もう一度人間達が来る前に、母と一緒に人間が近寄ることのない遠い地へと逃げましょう。そこでまた、昔のように人間以外の他の動物達を食べて過ごしましょう。」

「嫌です、私はもう人間以外の生き物は食べたくありません!お母さんだって人間を食べれば私と同じ考えになりますよ、さぁどうぞ!」

ライオンはそう言うと、残っていた人間の肉片を母ライオンに差し出しました。が、母ライオンは差し出された肉片に対し、ぷいっと顔を逸らしました。

「母は人間を食べません。人間よりも美味しいものを知っているからです。」

「人間より美味しいものなんてありません!」

「いいえ、あります。それは家族や友人達との食事です。誰かと一緒に食べるだけでどんなものも美味しく食べることができるのです。」

「そんなものはただの精神論です!もうお母さんのことなんて知りません、お母さんももう私にかまわないで。私はこれからも一番美味しい肉である人間を食べ続けます、人間を食べたいと言っても分けてあげませんからね!」

「ああ、待ちなさい我が子よ!」

ライオンは再び遠くへ走り去って行きました。もう、母ライオンの言葉は届きそうにありません。


次の日、母ライオンの言った通り人間達が何人かやってきました。当然昨日逃した人間も一緒です。皆一様に険しい表情をしています。

ライオンはまた人間を食べようと不意打ちで襲いましたが、昨日ようにはいきませんでした。人間達のうち1人が放った矢が、ライオンの身体に刺さったのです。

矢先には毒が塗られていたのか、ライオンは徐々に苦しくなり、次第に立っていることも出来なくなりました。

人間達もその隙を逃すわけがありません。矢を放った人間以外の者達も、次々と槍やナイフといった武器を手にライオンにゆっくりと近づいていきます。

「よくも親友を・・・・・・!」

「息子の仇・・・・・・!」

「こいつさえいなければ、私の伴侶も・・・・・・」

人間達の言葉は相変わらず何を言っているのかわかりません。ですが、自分に身の危険が迫っているのだけはライオンにもわかりました。

だけど逃げようにも体が思うように動きません。

人間達がライオンに追い討ちをかけようとした時でした。

ライオンの前に母ライオンが現れたのです。

「貴方達は大事な家族を我が子に殺されたのでしょう。ですが私にとっては例え人食いだろうとこの子は大事な家族なのです。この子を殺すならせめて私も殺しなさい。母としてこの子を1匹で逝かせたくないのです」

人間達から見れば、母ライオンはただ人食いライオンを庇って吠えているだけにしか見えません。

人間達は言いました。

「このライオンはきっと人食いライオンの仲間だ、だとするとこいつも人間を食べるかもしれない、こいつも殺すんだ!」

「賛成だ、これ以上大事な家族を食い殺されたくない!危険要素はなるべく減らしておいた方がいい!」

そして人間達は次々と母ライオンに攻撃を加えました。1人は矢を母ライオンに何本も射り、1人は槍で母ライオンの体を滅多刺しにし、1人はナイフで何度も母ライオン切り刻みました。

人間達の中でただ1人、母ライオンに助けられた人間は、母ライオンを攻撃する人間達をただ黙って見ていることしかできませんでした。母ライオンの目が「私を攻撃する人間達を止めないで」と訴えてるのがわかってしまったからです。

母ライオンの後ろにいるライオンもまた、人間達によってボロボロになっていく母親を眺めることしかできませんでした。

母ライオンは、どれだけ傷つけられても最期まで人間に反撃しようとはしませんでした。


人間達が去っていった後、その場にはボロボロの母ライオンの死体と、毒に侵されたライオンだけが残されました。

ライオンは、後悔の想いを抱きながら死んだ母ライオンに向けて泣き続けました。

自分が人間を食べることにこだわりすぎたせいで、母が死んだのだ。

母はきっと最初から間違っていなかった。母の言う通り人間を食べるのをやめて、また以前のように人間以外の動物を食べて過ごす日々に戻っていたら、こんなことにはならなかったのに。

気づいた時にはもう遅い、失ったものは戻りません。

ライオンは泣いて、泣いて、泣いて、やがては毒がまわりきって、母ライオンの死体に重なるようにそのまま静かに死んでいきました。


その後、ライオンと母ライオンが死んだ所に1人の人間がやってきました。かつて母ライオンに助けられた人間です。

2体のライオンの死体は、奇跡的にまだ元の原型を保ってました。

ライオン達の死体を見つけた人間は、荒野で最も高い木の下にまで死体を持っていき、そこに埋めてあげました。

死体を埋め終わった後、人間は埋めた場所に向かって静かに祈りました。

(どうか、来世ではこの親子に悲劇が降りることなく、共に幸福に生きられますように)

人間は祈り終わった後、その場を後にして去って行きました。


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― 新着の感想 ―
[良い点] ライオンも武器を持った人間には敵いませんね…。 (それでも恐ろしい猛獣ですが) 駆除された母子ライオンの来世での幸福を私も祈ります。
[一言] 最後に救いがあってよかったです!
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