夜の遊戯 【月夜譚No.191】
ピエロのマリオネットが怖かった。
笑みを貼りつけた顔に見開いた目、涙の化粧は平坦で、今にも赤い口が何もかもを吞み込んでしまうような気がした。
託児所の玄関に置かれたそれが恐ろしくて、私はいつも目を瞑ったまま保育士に手を引かれて部屋に入っていた。
正直、今もまだその頃の感覚は残っていて、当時ほどではないが、玄関を通る時は僅かな緊張感がある。ここで働く身としては慣れておきたいものだが、幼少期に刷り込まれた恐怖は中々拭うことができない。
夕方、迎えに来た保護者に子ども達を順に引き渡し、片づけを終えてほっと一息つくと、外はもう暗んでいた。今日は子ども達が盛大に玩具で遊んでいたので、片づけに時間がかかってしまった。
他の職員が帰った後、戸締りと照明の確認をして鍵を手に取る。
疲れた分、今日は少し高めの酒でも買って帰ろう――そう思いながら、玄関に向かう。
「え……何で……?」
つい口から言葉が漏れる。
玄関の正面に置かれた棚の上。
そこには、いつもあのピエロが座っていた。
なのに、今は影も形もなく、空気だけが鎮座する。
私は唾を飲み込んだ。
夜は始まったばかり。
『――さあ、遊びを始めよう?』