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ゆっくりとひらくはなびらがおちたとき
私の恋も落ちるのです
深淵の谷底を流れる渓流の音が
暗闇から
ゴルロルと転がり続けます
しずかなえきにおりたとき
周りには田んぼも無く
ただただ植えっぱなしにされたような杉の森が
日の当たる場所にツタが絡み立っていました
私は旅行鞄を手で持ち肩から背負うと
そんまま誰も居ない杉林を一人歩くのでした
土は車が通るのか硬く二方向に固められ
中央とその端には草が生い茂っていた
私は時計を気にしながら
足を速める
三千円のトレッキングシューズで
踏ん張りながら
汗をかきかき ようやく
コンクリートのみちがみえたとき
あたりには
まばらに民家が並び
鉄色にペンキのはげた屋根から錆がのぞいた
私は辺りを見回し
すこし高いところに
岡状に石が組まれ
その上に古めかしい建物があった
どうやらそれが
今晩泊まる
依頼主の「月無旅館」げなりょかんらしかった
屋敷内に入ると
私は大きなクマのぬいぐるみならぬ
剥製を前に
玄関に立っていた
薄暗い室内
石なのだろうか
玄関に立ち私は声を上げた
「あのーごめん下さい
足り花新聞会社の覘山ノゾヤマと言います
ごめんくださーい」
私は何処までもひびくような
密閉と縁遠いような暗い室内に声を響かす
暫くして
スリスリと
何かするような音がして
ふすまが開き
中から黒い着物に
赤い鶴が舞い
顔は歌舞伎役者並みにべっとりと白いおしろいをつけた
おかみさんらしき女性が現れた
私は 先程のことをおうむがいしに
「どうも、私」
その言葉を遮るように
その声は絶叫に近い形で
「あー存じております はいはいはいはい
新聞社の足り花様の記者様でございますね
いえいえ 本日はえんど遥々遠い土地から
新幹線 バス タクシー ヘリに 馬 亀 乗り継ぎ
東京から三百キロの距離を十時間かけて」
私は言葉を遮り
「いえ 埼玉ですし馬や亀 ましては ヘリなんてとれもとても
タクシーはばかたかいし 十一時間はかかるましたけど」
私の返事を聞かないように
彼女は さあさあどうぞどうぞ
とばかりに置くに引っ込んでしまった
私は仕方なく
靴をそろえ
奥に入る
長い廊下を抜け
窓のない室内は防寒のためだろうか
ようやく迷路のように
二重三重回って案内された部屋は
小さな
と言っても八畳はある一部屋の和室だった
部屋にはちゃぶ台と床の間の横に
今居所が定まらないブラウン管テレビが鎮座ましまして沈黙してむっつりと画面を暗く透明にしていた
私は早速
ポットからお湯を出し
お盆から取り出した急須に入れている
おかみに聞く
「それで何ですが
竜が出るというのは本当なんですか」
おかみはただでさえ白い顔を更に白くこわばらせ
湯飲みに緑茶を注ぎながら声を潜ませた
「はい
こう言うのも何ですが
ここら辺は昔から龍神伝説がございまして」
わたすはお茶をすすりながら聞く
なんとも変わった味がした
「それで何ですが
お恥ずかしい話
近年まで 猿や鹿 猪 などを使って
生贄として納めていたんですが
老年化や 最近では所謂 野蛮だ 前時代的蛮崇だと
とんだこんだ言われまして 取りやめになったんですが
その次の年に 反対派の市役所の役員が
その次の年に 市町が
それだけならまだしも
一家郎党死んでしまったのです
そういう訳で
今年はやろうかどうかと
そんなことを話し合っていたんですが
何分お金もありませんし
都会の記者さんを呼べば
一気に近未来的 超絶凄い科学力と高学歴と
都会パワーで事件の真相を
そうすれば つたない事件ですが
こんなくそ田舎の
くそつまらない事件かと思いますが
民俗学的ゴシップとして
記事の種になるかも知れないかも知れないと
双かも知れないと知れないと思いまして
恥を承知で おメール書かせて頂きました
本日はおいで下さいまして」
私はいえいえと言うと
そのでんせつからきいてみることにした
何でも祭りは明日行われるとかで
3時間後に前夜祭のような祭りが神社の前で
十二時頃から始まるらしい
私はそれまで
おかみさんに伝説の概要を聞いてみることにした
メールが来たのが1週間ほど前であり
新潟の雪椿祭りに
今の時期に出かけることになり
てんやわんやしているときに
部長から
祭りの取りやめと
風邪の大流行のためと理由を告げられ
変わりの穴埋めに
一通のメールと場所
行き方のチケットがわたされた
こう言うのも何だが
うちはオカルト全般を記事にしているという
世にも珍しい月刊新聞社であり
総社員三十名の弱小会社だ
それでも取材の旅行費は
足こそが全てと
最安値であるが
それなるにスムーズではあった
私は何時も持って行く荷物を持つと
その足で
その場所に向かうバスに飛び乗るのであった
勿論山奥の奥の奥では
バス一本ではいけるはずが
ちんちろないのであるが
昼間の広場には
三十人ほどの大人や子供がおり
皆あおれぞれそろいのはっぴを着ていたが
子供だけがおしろいを塗り
とんがるりの烏帽子を頭に被っていた
左右で化粧が違い
ずんぐりと体格の良い丸顔の男の子に
太い墨の髭
もう片方の細身で背の高い方は口紅にほおが赤く塗られていた
両人ともわらじをきつく締め
白い足袋に結んでいた
私はそれを見ながら
先程おかみに聞いた話を思い出していた
この村の近くを流れる
闇床川は何時も夏口に氾濫を起こし
農作物を流してしまった
いくら工事をしようとも
川は溢れ
どうしようも無い
そんな折に
生贄の案が持ち上がった
取り敢えず
山でとれた生き物を川にお供えすると
不思議なことに
川はあふれず農作物に被害は出なかった
それからというもの
龍神として崇め
生贄を捧げることで事なきを得ていたという
つまり
生贄を強要されたから渡したのでは無く
自主的に
そうしていたと言うことだ
そうなると龍神を探すよりは
氾濫の原因を考えた方が良さそうだ
その上で
相次ぐ死因が
事故かたまたまか
それとも何らかの因果が関係を起こしている可能性があるかを考えれば良いだろう
私はそう思いながら
一眼レフのシャッターを切る
今の時代携帯でも良いのだが
会社にあるからのひと言で
ざらついた新聞に載せるために
写真を収集した
祭りは
紙で出来た綱の前で二人が踊り
最後にその綱を切ると言うところで祭りは終わった
時刻は二時を回っており
にじかんほどまつりごとが行われた
事になる
私はその後
おかみに連れられて村長や何軒もの家に通されたが
さしたる情報は無く
お茶や漬物 海老 タニシ魚等々いろいろなもので
腹が膨れてしまった
何でも闇床川は氾濫しなければ良い川であり
川魚や生き物がとれ
お茶菓子として出された魚も
あめながしとはいう漁法で
魚が深い川底から浮くほどとれるという
他にも銘酒と言われ
水も米も良いがここのは灰が違うと
すすめられたが 全く酒が飲めないげこのため
私はたらふく
お茶菓子とお茶を食べたり飲んだりすることになる
しかしながら
どうも、日本茶とは違い
何なのかと聞いてみると
こうさんちゃと言うらしいが
聞いたことがない
試しに急須の中を見ると
厚い葉っぱが見えた
「あんた知らないのかい」
と言って
床の間の花瓶を指さすと
椿が赤い花をつけて飾られていた
椿ですか
私が聞くと
いや
かたしだという
伝説に関しても
特に目新しいことも無く
生贄が無くても氾濫は起きず
ただ関係者が死んだという
龍神様のまつる場所はあるのかと聞いてみるが
川の深いところに
生贄を流すくらいで
後で見せてもらうことになった
死んだと言われた人物の死因にかんしても
交通事故だったり そもそも一人暮らしの脳溢血であったりしたという
そうなると 事件性がますます薄くなる
最後の家を後にして
軽トラで乗せてもらい
30分ほど山道を走ると
道の右側が崖になっており
そのたにの下に渓流が巨石に囲まれるように流れている
水に流されることなくとまった物がそこにあるのだろう
村長いわく
その巨大な丸い岩らへんに生贄を流すという
それを表すように
2本のきが立てられ
その間にしめ縄が繋がれていた
渓谷の左右には背の低い植物が鬱蒼と生え
暗い中 赤い花をつけていた
「あれがかたしだよ 群生地としてもここはかたしがおおい」
そう言うと車に戻っていく
私は写真を数枚撮り
ライトの付いた軽トラの助手席に乗った
夜中 女将に 事故なんじゃないでしょうか
と言うが
女将の化粧の肌は相も変わらず白く
暗い室内ではいよいよ目立つ
「そうは言っても 今度は自分たちかも知れない
そういう物もおるんです
ですから そんなことは存在しない
とそう考える部外者が必要だと私は考えています」
私は悩んでいる
私が何かを言ったり書いたところで意味があるのだろうか
今の所 生贄を未だに続けていると言う内容しか私には分からない
伝説も さして内容があるようにも思えず
私は一人ポロポロと独り言を溢し始めたとき
まあ温泉でもと
進められ
仕方なしに
着替えを持つと風呂場へと向かった




