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第四話 伝わらない



「どうしてこうなるまで放っておいたのです!」

「ほ、放っておいたわけじゃなくて、その、回復魔法が……」

「貴方の保有する魔力量で、完全に回復できるはずがないでしょう!」


ごもっとも。


 気づけば先生は俺を椅子に座らせ、さまざまな薬品を取り出し始めていた。

この魔法学校には、一般的に売られている医療薬の他にもさまざまな治癒道具がおいてある。魔法を使った授業では、何が起こるか分からない。いざという時のため、大型の病院と遜色ないくらいの備品が整備されているのだ。多分、魔法で作った呪いの解除に対応できる薬品なんかもあるはず。


 右腕だけは見せたくないけれど、怪我をしている時点で見せないわけにはいかない。けれど、呪いの武器と契約し、腕には紋様が刻まれてしまったのだ。どんな制裁が待っているか分からない。

焦りと緊張で体が動かない。ただ、制服の上着を握りしめることしかできずに震えていた。


「何をしているのです。服を脱ぎなさい、グレーザー。服や包帯で隠しているものもあるのでしょう?」

「っ!」

「今は深く追求しませんが、今後もこのようなことがあれば、教員として見過ごすわけにはいきません」


 数本の薬品を机においた先生は、自分の杖を取り出した。

思わず服を掴んでいた手に力がこもる。先生は詠唱を始めた。

もう終わりだ。


「……」


瞬間、時間が止まったかのように静まり返った。


「……先生?」


おそるおそる、顔を上げる。

苦々しい先生の顔が視界に入る。

眉間にシワを寄せているけれど、表情はいつも怒っている時と正反対のように見えた。


「――教員として失格ですわね。(わたくし)は」

「ぇ……?」


驚いたその時、先生は俺の頭を杖でとんとん、と二回叩いた。

体の熱が頭のてっぺんからつま先まで広がって、ぞわりと何かが駆けていく。

次の瞬間、みんなに撃たれた怪我の痛みが一気に引いた。


「……回復、魔法?」

「違います。痛み止めです。貴方の学年なら、回復魔法に必要な手順は理解しているでしょう? 言ってご覧なさい」

「あ、えっと……患部を表面に見せないといけない。それから……」

「……相手に"治したい"という意志を示してもらう事です」


 相手に回復したいという意志がなければ、回復魔法は使えない。

回復魔法を許すということは、つまり、相手を信用して身を任せられると患者が思っていなる事だ。

でも、俺は先生の治療を拒んだ。だから、どんなに魔力があっても先生は俺に回復魔法をかけられない。つまりそれは、自分が先生を信用したくないと言っているようなものなのだ。

その考えにようやくたどり着いた時、先生はすでに用意した薬品を棚にしまっていた。


「あの、先生!」

「痛み止めが効くのはせいぜい三日。それまでに、信頼できる相手に治療してもらいなさい」

「……は、い」


 一度も振り返ることなく、先生は淡々と荷物をまとめる。

何か言おうとして、言葉がのどに詰まった。

弱いなら弱いなりに、強い人に頼ればいいはずなのに。小さなプライドのようなものが、それすらも邪魔してくる。

結局自分の事しか考えられないクソ野郎。そいつは先生の好意を無下にした。せめて謝ればいいものを、告げる事すらしなかった。


 扉が閉まる音がして、その瞬間、緊張の糸が完全に解けた。

ボロボロと涙が溢れてきて、もう心の中はぐちゃぐちゃになった。

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