第二章 解き放たれし、法具達の力 第一節 時渡りの術と退魔の術
隣の家の窓越しに見えるのは天女の部屋があった。
「そういえば、昨日天女とみろくちゃん一緒の部屋で寝てたんだよな。」
つぶやくようにいう帝釈であった。
「おはよ!たっちゃん!」
隣の家の窓から元気のいい天女の朝の挨拶をする声が聞こえてきた。
「ああ。おはよ。天女・・・とみろくちゃん。みろくちゃん昨日はよく眠れた?」
そっけない声で挨拶を返す帝釈であった。
「うむ!昨日はあまめといっぱいこの時代のことについて、聞いたのじゃ!信じられんのー!箱に小さい人がはいっておるし!地を這うじどうしゃというものもあったり見るもの聞くものはじめてじゃ!。」
興味と好奇心に満ちた目を輝やかせる弥勒御前であった。
「ところで二人は何歳じゃ?まだ聞いておらんかった。わらわは齢14歳じゃ!」
自分の年齢と二人の年齢を聞く弥勒御前であった。
「俺と天女は17歳だよ。」
そして、そっと返答する帝釈であった。
「その年じゃと二人は、夫婦なのか?なぜ別々にくらしておるのじゃ?」
「え?!なにいってるのみろくちゃん!!私たちそんなんじゃないから!!」
顔を真っ赤に染めた天女が言った。
「ところで昨日、神様が言ってた力ってなんだろうな?」
昨日の力に疑問を持つ帝釈であった。
「確か、時渡りの術と退魔の力がどうとかっていってたわよね。」
昨日のことを必死で思い出す天女。
「うむ。いっておったのぉ。わらわには時渡りの術と退魔の弓とやらをくれたぞ!?」
そして、高らかに自分のもらった力を宣言する弥勒御前であった。
「試してみる価値ありだな。今日はちょうど学校休みだし。朝ご飯食べたら広いところさがしてためしてみようか。」
帝釈は弥勒御前と天女を連れて広い場所に移動することにした。
「さぁって。まずはなにから試してみようか。」
何をするか考え込む帝釈であった。
「迷うことはない。まずは妖怪討伐じゃ。それからでないと話は進まぬと思うぞ?」
と、アドバイスをするように弥勒御前は述べた。
「っとなると、まずは時渡りの術から試してみるか。」
帝釈の頭の中では時渡りの術を使うなら妖怪退治も一緒にできたほうがよいと考えた。
「確か、この術は場所と時間とやらを思い描けばよいのじゃったな?」
時渡りの術を再確認する弥勒御前である。
「うん。帝釈天のおじさんがそういってたよね。」
神様を「おじさん」呼ばわりする天女も肝がすわっていると感じた帝釈は、
「おじさんって、天女。いちおう神様なんだからおじさんは失礼だろ。」
「でも、おじさんの顔してたよ?」
「まあ、そうだけどさぁ。神様なんだからそこは敬意をはらわないと・・・・。」
このようにくだらないノリとツッコミをしている間に、弥勒御前は時渡りの術を発動させようとしていた。
「おお!なにか全身がひかっておるぞ!?」
「もう、時渡りの術を発動してるんじゃない?変な魔法陣みたいなのでてるし。」
魔法陣といった天女は仏教でいうところの曼荼羅を意味していた。
時渡りの術とは神仏の神通力によって発動するものであり、神仏に行きたい場所・行きたい時を告げる方法なのである。
あわてた帝釈と天女は弥勒御前にしがみつくように飛び乗った。
「おお!すごいのぉ~!一瞬でわらわが光に包まれたほこらに戻ってこれたぞ!」
弥勒御前は自分が光に包まれた場所をイメージしていたのである。
「元いた場所が移動している。ってことは時代も移動したってことか?とにかく今起きている現状を把握しないといけないな。」
冷静に判断をする帝釈であった。
「見た限りだと、山道みたいだけど。ここがみろくちゃんのいた場所と時代なの?」
「そうじゃ。わらわが武芸に打ち込めるように修行しようとした通り道じゃのぉ」
天女と弥勒御前の会話を聞いて確信した帝釈はこの場を移動することに決めた。
「天女。みろくちゃん。とりあえず、妖怪のいなさそうな場所を確保しよう。」
帝釈は安全を確保しながら、帝釈天にもらった力を試してみたいという思いであった。
「そうじゃ。この山道をちょっと進んだ先に村がある。そこで妖怪どもの情報をきいてみようぞぉ。」
「そうだな。まずは情報と妖怪の強さを聞いてみないとはじまらないね。」
弥勒御前の提案を肯定した帝釈は弥勒御前の案内で村へと向かったのである。
そのころ、常闇の主は帝釈・天女・弥勒御前の神気を感じ取っていた。
「この気配は、神仏の気配と似ている。神仏共め。余計な真似をしてくれる。異なる時代からいらぬ客人が来たものだ。」
常闇の主は帝釈たちに対して様子を見るかのように、刺客の妖怪を何匹か送り込もうとしていた。
「およびでしょうか。常闇様。」
「神仏共が不穏な動きを見せている。現に異なる時代から来たもの共が二人いる。そやつらを抹殺してくるのだ。」
「かしこまりました。常闇様」
その妖怪たちは特に暗殺や敵の戦力を測る特殊な部隊であった。その妖怪たちに様子を探らせ自分の脅威になるものかはかったのである。
それを知らない帝釈たちは村を目指していた。
「すごい自然ねぇ~。私たちのいた時代とは比べ物にならないくらい空気が澄んでる。」
深呼吸をする天女はその時代の空気を十分に堪能していた。
「そろそろ、村じゃぁ。」
「あ!ちょっとまってみろくちゃ~ん!」
天女と弥勒御前の後を追うように帝釈も走って後を追うのであった。
村に到着した三人は村人たちに妖怪のことについて聞いて回った。
しかし、この村には妖怪の噂も襲われたという痕跡もなかったのである。
「おかしいのぉ?わらわのいた国の隣国なのに妖怪共に襲われたという噂がたってもいいはずなのじゃが。」
首をかしげながら不思議そうに思う弥勒御前であった。
一方、常闇の主の命を受けて、帝釈たちの暗殺に向かっていた妖怪たちは、木の影から帝釈たちの様子をうかがっていた。
「ほほう。あれが常闇様のおっしゃっておられた者共か。」
「たいした神気も感じぬではないか。これなら我らが主常闇様の脅威とはならぬであろう。」
妖怪たちは帝釈たちの力をはかっていた。
「しかし、命は命だ。任務遂行を最優先とし、小さい芽のうちにつみとっておくのが得策であろう。」
「なに?この感じ。すごく嫌な感じがする。」
それは天女が身に着けていた退魔の羽衣による力であった。退魔の羽衣には身を守るための盾となる力であり、妖怪の妖気を察知する力でもあった。
「どうしたんだ?天女。」
心配そうに天女を見る帝釈であった。
「なんか嫌な気配を近くに感じる。なにこれ。おぞましいようで、みにくい感情は・・・・・。」
「それは妖気じゃ!」
何かを悟ったかのように言葉を発する弥勒御前であった。
「これが妖気なの?みろくちゃん!」
苦しむ感情を抑えきれない天女がそこにはいた。
「うむ。そなたがそう感じるのであればそうであろう。近くに妖怪共がおる!」
「なんて悲しいの・・・・これが妖怪の気配だなんて・・・かわいそう。」
哀れみの心をもちつつも敵の位置を知らせようとしていた天女であった。
「あっちの方角から妖気を感じる・・・・・。」
位置を察知された妖怪たちは驚きの表情が隠せなかった。本来は妖気・気配を殺すことに特化していた暗殺部隊でさえ、その存在を察知されたのである。
妖気を感じたという天女の言葉を聞き、帝釈は法具をかざし、戦闘態勢に入ろうとしていた。
「先手を打たれては不利!先にしかけるぞ!」
妖怪たちは木の影からその姿を現し、帝釈たちに襲い掛かったのである。
しかし、危機一髪のところで帝釈たちは妖怪たちの攻撃をかわした。
「なんだよこれ!武器がぜんぜん反応しないじゃないか!?」
法具が妖怪たちに反応しないと困惑している帝釈は妖怪たちの攻撃をかろうじてかわすしかなかった。
しかし、一方では天女の法具である退魔の羽衣は機能していた。妖怪たちの攻撃から身を守ってくれていたのである。
妖怪たちの攻撃は帝釈に集中していた。かわしきれないときづいた瞬間であった。
「だめだ。俺ここで死ぬ!」
その瞬間であった。赤い甲冑を身にまとった侍が妖怪たちの攻撃をかわし、帝釈の危機を救ったのである。
「大丈夫かい。それお前の法具だろ?使い方わからねえのか?」
妖怪の攻撃をかわしながらその赤い甲冑の侍がいった。
「勢いだ!法具に流れる神仏の気を感じろ!考えるな!」
それを聞いて戸惑いながらも法具に流れる神仏の気を感じようとする帝釈は必死であった。
「わけわからないよ!?でもなんだろ。この感じすごく安心してまもられてる感じがする。」
それを聞いた真紅の侍は
「そうだ。それでいい。あとはその感覚を表に出せばいい!」
その言葉を聞いた帝釈はいわれるがままに感覚を前に向けた。
そうすると金色の色をした光が放たれ、金剛杵は剣へと姿を変えていくのである。
その光に飲まれていく妖怪たちは目をふさぐように目を隠した。
「すごい・・・・なんだろこの感覚・・・・力が全身に満ちていく。」
帝釈は金剛杵に宿る力を感じ取っていた。
「そうだ。それが法具の使い方だ。」
その様子をみた真紅の侍はいった。
「戦えるな。怖がることはない。敵の気配は法具が教えてくれる。」
「すごい。敵の動きが全部わかる。」
帝釈は法具と一体となったように妖怪たちを切り伏せていったのである。
妖怪たちはときはなたれた法具の力に圧倒され、撤退をよぎなくされた。
「これが常闇様の言われていたことか。軽んじた。いちじ撤退するしかない!そしてこのことを常闇様にご報告だ!」
「すごい。これが法具の力・・・・退魔の力・・・・。」
「大丈夫!?たっちゃん!」
「帝釈!無事か?!」
神気を感じ取って驚いていた帝釈に退魔の羽衣にまもられていた、天女と弥勒御前は帝釈をきづかうようにあわててかけよった。
「あの・・・・。助けてもらってありがとうございました。」
「礼にはおよばないよ。ところでおまえさんも神気つかえるんだな。」
「おまえさんも?」
真紅の侍は意味深く帝釈に話しかけた。