第二節 道化
帝釈たちは常闇の主のいる本丸へと向かった。しかし、本丸に近づけば近づくほど恐怖・憎悪・怒りなど負の感情が強くなっていくのを感じていた。
「法具を通して伝わってくるこの負の感情今までの妖怪とは比べ物にならない。帝釈天様たち神仏が光とするなら常闇の主は闇。帝釈天様たち神仏とは対極すると同じくらいの力だな。」
「むずかしいことはわからぬが、わらわにも伝わってくるぞ。身が凍るきもちじゃぁ。」
「たっちゃん。この階段の上に常闇の主がいるのね?」
「ああそうだな。いよいよか。」
帝釈たちは負の感情にのまれそうな気持ちをおしころし、階段をのぼっていた。そこには常闇の主が座り帝釈たちをまっていたのである。
「よくきたな。神仏の使いのものどもよ。我が元までよくたどり着いたとほめてやろう。さぁ我をその神仏からもらった力で滅してみるがよい。」
「常闇の主。俺たちはおまえを滅するためにお前の前にたってるわけじゃない。おまえを浄化するためにきたんだ。いや救いにきたんだ。」
「我を浄化?救うだと?知った口をいうな!我のなにをしっておる!我の神仏への苦しみ・悲しみ・絶望の感情を!神仏の理不尽さを!」
「いいや。わかるよ常闇の主。法具を通じておまえの気持ちがわかる。理不尽なことばかりで気持ちがおしつぶされそうなことも。」
「常闇の主。わらわはお主に国を滅ぼされた。そして家族を殺されたのじゃ。帝釈たちと出会う前はお主を憎んでおった。お主のいう理不尽さというやつも感じておった。
しかし、帝釈たちと出会ってわらわは気づいたのじゃぁ。自分の気持ちをわかってくれるものがおれば救われるということを。だから知ってほしいじゃぁ。今目の前にいるわらわたちが
そなたの気持ちを一番理解しているということを。」
「だまれ!我の苦しみを理解できるものなどおらぬ!死ぬがいい神仏の使いどもよ!!」
帝釈たちは常闇の主の妖気の炎の攻撃を受けそうになった。その攻撃を天女がとっさに退魔の羽衣で防いだのである。
帝釈たちは常闇の主と戦うしかないと思った。
「戦うしかないんだね。」
「そうだな。口でいってもわからないなら戦うしかない。」
帝釈たちは法具を構えた。先陣をきったのは不動丸である。不動丸は常闇の主に向かって突っ込んでいった。
「いってわからねえなら体に教えるだけだぜ!くらいやがれ!」
それを常闇の主は自分の所持する妖刀神仏滅剣しんぶつめっけん)で不動丸の一撃を防いだ。そして時渡りの術をつかい背後から弥勒御前が矢を放ったのである。
「我に一太刀あびせようとしても無駄だ!」
「後ろががらあきじゃぞ!常闇の主!!」
「なに!?いつのまにうしろに回り込んだ!?」
光の矢は常闇の主の肩にささった。不動丸が常闇の主とつばぜり合いをしている間に不動丸は左に避けた。
「いまだ帝釈!」
「常闇の主!くらえええ!!」
避けた瞬間に連撃で帝釈は常闇の主の腹部を斬ったのである。
「ぐぉ!おのれ神仏の使いどもめ・・・・しかし我はこの程度の傷では倒れはせぬぞ。」
滅天童子と同じであった。常闇の主も再生能力をもっていたのである。帝釈たちのあたえた傷がみるみるうちに回復していったのである。
「傷がなおっていく。滅天童子と同じ能力・・・やっかいだな。」
「たっちゃん。私の法具で攻撃しないと意味ないかな?」
「ああ。滅天童子と同じ能力ならそれしか方法はないかもな。」
帝釈は考えていた。常闇の主の攻撃は退魔の羽衣でないとふせげないと気づいていた。
「なにをかんがえているか知らぬが、我を浄化することはできぬぞ。天をも滅ぼす我が力をその身をもって知るがよい。」
常闇の主は妖刀神仏滅剣を天にかかげた。
「我が妖刀神仏滅剣の真の力を見るがよい!」
妖刀神仏滅剣のまわりに妖気が収束したのである。常闇の主は妖刀神仏滅剣に収束した妖気を帝釈たちにめがけて斬撃をはなったのである。
その斬撃をふせごうと天女は退魔の羽衣で防御したが妖刀神仏滅剣の収束した妖気の力がおおきすぎたため退魔の羽衣では防ぎきれなかったのである。
「どうだ。清浄京の結界を破りし我が力そしてこの妖刀神仏滅剣の力を。その程度の結界で我の攻撃が防げると思ったか。」
常闇の主の攻撃をまともにくらってしまった帝釈たちはボロボロであった。金剛杵をつえがわりにして帝釈はやっと立っていられる状態であった。
ボロボロになっていた帝釈たちを急いで回復させるために天女は退魔の羽衣で全員をおおい治癒させようとしたのである。
「ほぅ。我が力を受けても治癒をさせるだけの力はあるようだな。普通の法具では治癒すらこんなんな攻撃をよくぞ癒して見せた。」
天女のもつ法具で常闇の主を攻撃しないと効果がないということを帝釈たちはわかっていた。
「やるしかねえな。帝釈いけるか?」
「ああ。大丈夫だ。」
帝釈と不動丸は二人で常闇の主へと突っ込んだのである。二人の剣を軽々と受ける常闇の主であった。
「みろくちゃん私の法具をつかって!」
「わかった!どくがよい二人とも!!」
退魔の羽衣は矢へと形状を変えた、その退魔の羽衣でできた矢を常闇の主にめがけてうったのである。
その矢は常闇の主を貫いた。
「ぐぁ!・・・ふふふ・・・なにをやっても同じことを我にきか・・・な!なに!我の再生能力が!」
常闇の主を貫いた矢はその再生能力を打ち消していた。しかし、退魔の羽衣から常闇の主に伝わる感覚があった。
「ぐ・・・なんだこの懐かしい感じは?我が昔天にいたころの穏やかな感覚が伝わってくる。」
常闇の主が感じていた感覚は痛みではなかった。退魔の羽衣をとおして、浄化の力が常闇の主に伝わったのである。
「常闇の主。思い出すんだ。神仏を敬っていたころの自分を・・・そ・・そしておまえの気持ちをわかってくれるものがここに四人もいるということをおもいだしてくれ。」
「わ・・・我は間違っていたというのか・・・・憎しみにとらわれ罪もないものを滅してしまった・・・・。」
「常闇の主よ。もうよいのじゃぁ。すべてはわらわが許そう。お主のつらさは国を滅ぼされたわらわが一番よくしっておる。」
「我をゆるすというのか。弥勒乃姫君よ。おおきな大罪をおかした我を・・・。」
常闇の主は泣いていた。自分のおかした罪の重さを理解し、ただひたすらにないていたのである。
「神仏の使いたちよ。我に最後の一撃をはなつがよい。そして我を天へと浄化させてくれ。」
「わかった。今楽にしてやるから安心してくれ。」
帝釈は剣に浄化の力を宿し、常闇の主を天へと浄化させようとしたときである。おぞましい力をもった何かが常闇の主の心臓をめがけて射抜いたのである。
「なっ!!」
突然の攻撃に帝釈は後ろに下がり驚いていた。常闇の主を射抜いたものの影がそこにはあった。床に倒れこむ常闇の主に帝釈たちがかけよった。
常闇の主を射抜いたものの影がそこにはあった。
「ふふふふ・・・・常闇様。道化ご苦労様でした。おかげでじっくり楽しませてもらいましたよ。」
その影の正体は滅天童子であった。
「おまえは俺たちが天に返したはず!!」
驚きを隠せない帝釈たちであった。




