正式サービス開始! 〜ロリ巨乳だって魔法がほしい!〜
◇ ◆ ◇
時刻は午後9時前、そろそろ『トロイメア・オンライン』の正式サービス開始の時間だ。
私は自室で胸を躍らせていた。だって、さっきの1時間半だけでもあんなに楽しかったんだもん! 正式サービスが開始されたらきっと心躍る大冒険が待っているに違いないよ! 家族のことは少し気になるけど、まあ考えても結局分からなかったことだから、気にしないで楽しもう!
いつもは余裕で起きてる時間だけど、気にしない! 今日は思いっきり遊んで思いっきり寝るもん!
私はトロイメギアのタイマーを9時間にセットした。十分すぎる睡眠時間。でも、明日は午前6時には起きれる計算だ。素晴らしい!
「水分補給よし! トイレよし! タイマーよし! じゃあ、いざゲームスタート!」
ヘッドギアを被ってスイッチを入れる。毛布にくるまって横になり目を閉じると、私はまた眠りの世界へと誘われていった。
◇ ◆ ◇
真っ黒な空間に、私は初期ぬののふく装備の『ココア』の姿で立っていた。すると――
――『トロイメア・オンライン』
だから分かってるって! 毎回ロゴ出さなくていいの!
私はタイトルロゴをまたしても手を振って追い払った。すると、前のようにBGMが流れ始め、真っ白い空間に一匹の黒猫が丸くなっているのが見えた。あれ、もしかしてレーヴくんかな?
私は、真っ白な空間を歩いてレーヴくんに近づく。が、レーヴくんはそっぽを向いていてこちらには気づいていないようだ。なので――
「もふもふーっ!」
「ぎにゃぁぁぁぁぁっ!?」
背後からレーヴくんに思いっきり抱きつくと、彼は猫の状態のままで悲鳴を上げる。そして私の腕の中で激しくもがいた。たまらずに放してあげると、彼は光に包まれて人間の姿に変身する。ほら、やっぱりレーヴくんだ! もう驚かないよ!
「殺す気か! 変態お姉ちゃん!」
「ん? いや、ただもふもふしようとしただけだけど……」
「ボク、お姉ちゃんのその……それで窒息しそうになったんだけど!」
レーヴくんは私のおっぱいを指さしながら苦言を呈した。恥ずかしがっちゃって素直に「おっぱい」って言えないところも可愛らしい! お持ち帰りしたい! 一家に一匹レーヴくん!
「おっぱい?」
「あ、う、うん。それ……」
可愛かったので、私はついついそんな彼の反応を楽しんでしまった。いけないいけない、そろそろゲーム始めないとね。
「ねぇ、レーヴくん。また街に転送してよー」
と、少し甘えたような声で言ってみると、ウブなレーヴくんは頬を染めながらそっぽを向いた。
「分かってるよ! でもその前に大事なお知らせがあるよ。――そのためにボクわざわざ来てあげたのに」
「ん? なあに?」
正式サービス開始ってこと以外になにか大事なお知らせがあるのだろうか? 私は首を傾げながらレーヴくんの答えを待った。
「『初心者の証』についてだけど、あれは装飾品からスキルに変更になったよ。だから他の人にあげたり奪われたりすることはなくなったってこと。……それだけ!」
へ? あ、うんそうなのか……。てことは、さっきみたいにセレナちゃんに抱っこされながらダンジョンを駆け回るっていう胸きゅんイベントはもうできないね。
「あ、あと補足だけど、お姉ちゃんこの前ログアウトする時に『初心者の証』を奪われてたみたいだけど、ちゃんとスキルは付与されてるから安心してね」
「えっ?」
――初心者の証が?
――奪われていた?
私は記憶を遡ってみた。確か、セレナちゃんに預けて、それからどうしたんだっけ……?
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?!?」
思わず叫び声を上げてしまったので、目の前のレーヴくんはびっくりして飛び跳ねた。
そっか! セレナちゃんに預けたまま返してもらってない! 奪われた!? いや、あの美人のセレナちゃんに限ってそんなことするはずない!
うーん、考えれば考えるほどセレナちゃんに会って問い質さなきゃいけない気がしてきた! よし、身支度したら直ぐにセレナちゃんを探そう!
「――うるせぇなぁ毎度毎度……」
「レーヴくん!! 転送!! お願い!!」
「わかってるよもう……だるいなー。そんじゃ――いい夢を!」
面倒くさそうなレーヴくんにやけくそ気味に手を振られながら、――私の視界は闇に包まれた。
◇ ◆ ◇
まぶたの裏が明るくなったので、私は目を開けた。すると、今度は昨日の訪れた噴水広場に立っていた。やっぱり、普通ならここに転送されてくるんじゃん! なんなの昨日の路地裏は! などと、プンスカしながら辺りを見渡す。
なるほど、かなりの賑わいだ。老若男女、様々なプレイヤーが、互いに集まったり、NPCに話しかけたり、なんかぶらぶらしてたりする。さすがは日本。不眠症に悩む人達は多いらしい。
「まずは装備を整えないとね! その前に魔法かな?」
寝る前に軽くネットで調べたところ、条件を満たせば勝手に手に入るスキルや一部の魔法を除いて、街にあるお店で『巻物』というものを買うことによって習得できるらしいということがわかった。私はホムラちゃんに教えてもらったとおりに地図を開いて、魔法屋さんを探す。
「魔法屋魔法屋……あった!」
なんと、目当ての魔法屋さんは噴水広場に面している建物のようだ。そちらに視線を向けると、案の定、魔法を買おうとする人で、石造りの古びたたたずまいの魔法屋さんの周りには人だかりができていた。――あれはしばらく買えなそうだなぁ。でも自爆魔法を手に入れるためにも頑張って取りに行かないと!
私は人だかりに近づいて、小柄な体を活かして強引に人と人の隙間から店の中に入ろうとしてみる。車椅子だとこういう時に入っていけないから困っちゃうんだよねー。
とか思いながら店に入っ――
入っ――れない!
そうだ。私、身長はあまり高くないけれど、『ロリ巨乳』って言われるくらいにはおっぱいあるんだった……。胸が邪魔で人と人の隙間に絶妙に身体をねじ込むことができない。なんと不便な!
私は今更になってキャラクターの胸を盛ったことを後悔した。そして、非力な私はすぐさま人混みから弾き出されて――静かにその場を離れると、近くの建物の壁に背中を預けながら項垂れた。自爆魔法が習得できないなら、私はこれからどうやって生きていけばいいのだろう……? って少し大袈裟かな?
すると、ふっと私の視界が薄暗くなった。私の目の前に誰か大きな人が立ったのだ。
「お嬢ちゃん。魔法を探してるなら、俺が取ってきてやんよ」
顔を上げると、そこにはキラキラ光る銀色の鎧に身を包み、大きな盾を背負った騎士が立っていた。腰にはロングソードを差し、薄紫色の髪に縁取られた顔は端正で美しい。
「えっ、あ、あの……いいんですか?」
恐る恐る尋ねると、騎士はニヤッと笑って頷いた。
「あんな殺伐としたところにレディーを一人で行かせる訳にはいかねぇよ」
「れ、レディー……?」
聞きました!? 私、レディーだってレディー!
「あぁ、可愛らしいレディーだ」
もしかして私――
――口説かれてる!?!?
いやでも! 確かにこの人めちゃくちゃイケメンだし優しそうだけど! 私にも心の準備ってものががががががっ!!!!
「で、どんな魔法が欲しいんだ?」
「は、ははははいっ、じ、じじじじばばばばばっ」
「落ち着けよレディー」
「じばくまほうでしゅっ!」
噛んじゃったぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!
でも騎士さんには伝わったようで、彼は少し驚いたような表情をしつつもこくりと頷いて、颯爽と人混みの中に消えていった。
本日二度目の更新になります!
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