種族スキル! 〜変化の術!〜
(前回までのあらすじ)
種族スキルを獲得したココアちゃんは、ユキノとともにセレナ会いに行く……途中で、リーナ、カイン、ガブリエルの三人の襲撃を受けて窮地におちいる……
そして、ふふふと笑った。
「なんだよ、何がおかしいんだ?」
「――バカね。自分の置かれている状況にも気づかないんだから」
精一杯、声が振るえないように注意しながら、私は言ってやった。
「こいつ、何を言って――」
「――【ディストラクション】」
「っ!?」
私の発した単語に、カインは慌てて私を捕まえていた手を離してくれた。けどこれはもちろんハッタリ。本当は【ディストラクション】なんて詠唱してる余裕はなかった。咄嗟だったけど上手くいったみたい。
「はぁっ!!」
「ぐぉぉぉぉぉっ!?」
私が放った回し蹴りがカインの股間にクリティカルヒット! ごめんね、でもそっちが悪いんだよ?
「――クソッ!」
思わぬ反撃だったのか慌てて背中の弓に手をやるもう一人の男――ガブリエル。でも遅い。私はガブリエルに向かって走りながら魔法を放った。
「【リトルボム】!」
――ボッ!
「ぐっ!?」
弾ける黒い炎。私はガブリエルが仰け反った隙に、その懐に飛び込む。
「食らえっ!」
「ぐぁぁぁぁぁっ!!」
金的二発目ヒットぉぉぉぉぉぉっ!!
私はそのままミルクちゃんを抱えて(意外にもミルクちゃんの身体はかなり軽かった)リーナちゃんの元に走る。リーナちゃんはけしからんことに、身動きの取れないユキノちゃんのブーツを脱がせて素足を眺めたり匂いを嗅いだりしていた(めっちゃ変態だ)リーナちゃんは、落ち着き払った様子で、こちらを見ることもせずにパチンと指を鳴らす。
「うわぁぁぁぁぁっ!?」
足にロープが巻きついて木に逆さ吊りされてしまった! さっきユキノちゃんを捕まえたのと同じような罠だ。えーい、もうこうなったら……!
「ユキノちゃんっ!!」
私は吊るされた状態のまま、抱えていたミルクちゃんをユキノちゃんの方に投げる。ごめんね二人とも! でもこれで上手くいくはず!
しかし、それを見たリーナちゃんは、身軽に後ろに飛んでミルクちゃんミサイルを回避してしまった。結果、ミルクちゃんはユキノちゃんの目の前にドサッと落ちて――それが狙いだった。
「種族スキル、【変化】!!」
ユキノちゃんが叫び、素足を伸ばしてミルクちゃんの体に触れる。すると――
――メキメキメキッ!
なんかすごくおぞましい音を立ててユキノちゃんの身体がその形を変えていく。――大きくて――長い――紫色の――邪龍『アジ・ダカーハ』。ユキノちゃんが変化したのはミルクちゃんの真の姿だった。
もちろんユキノちゃんを拘束していた罠は引きちぎられているわけで――
「ど、どうなってるのあれ……」
「うぁぁぁぁぁ! も、モンスターだぁぁぁぁ!」
「邪龍だ! クソッ! 敵わねぇぞ!」
――シャァァァァァァァァッ!!
ユキノちゃんが咆哮すると、カインとガブリエルの二人はそそくさと逃げ出してしまった。が、リーナちゃんは不敵に笑う。
「――どんなスキルか知らないけど、どうせ見せかけだけの木偶の坊でしょ?」
そして、短剣を構えると一直線にユキノちゃんへと駆ける。
――ブアァァァァァァァッ!!
ユキノちゃんはひょいっとミルクちゃんを咥えて背中に乗せると、リーナちゃんに向けて勢いよく黒い炎を吐いた。うわ、なにあれ? 今のミルクちゃんには使えない技だよね? でも、精霊の谷でホムラちゃんと戦っていた時は使えてたような……。ってことは――
――あれはフルスペックのミルクちゃんだ……
すごい。ルドルフさんから種族スキルを授かった時にユキノちゃんから説明を受けておいてよかった。ユキノちゃんの種族『フェアリー』の種族スキル【変化】は、一定時間、触れたものに変身できるスキルだって……それを聞いて咄嗟にユキノちゃんをミルクちゃんに変身させるというのを思いついたんだけど……まさかこれほど強力なスキルだったなんて……!
炎がおさまると、辺りの草は全て焼き払われており、地面にはリーナちゃんが倒れていた。なんか気絶しているようだ。そんな状態異常はなかったはずだけど。
役目を果たしたユキノちゃんは、すぐに人間の姿に戻り、ぼーっと立ち尽くしている。が、ひとまずモンスターではなくなったので、騒ぎをききつけて駆けつけたプレイヤーによって討伐される……なんてことにはならなかった。
しかも、ここに最初にやってきたプレイヤーは、私と待ち合わせしていたセレナちゃんだった。
惨状を見たセレナちゃんは辺りを見渡し、木に吊るされた私を見つけた。
「――説明していただけますか?」
「そ、その前にここから下ろしてください! いい加減頭に血が上って死にそうなんです!」
私は、重力のせいで捲れてしまうワンピースの裾を必死に押さえながらセレナちゃんに助けを求めた。
「はぁ……仕方ありませんね」
――パシュンッ!
うわっ、やられた! でも、セレナちゃんが撃ち抜いたのは私を吊るしているロープで――
――ドサッ!
いたぁぁぁっ! 頭から落ちたから、首が折れるかと思ったよ。でもHPは残っているから、死に至るようなダメージでは無かったらしい。まあ、死んじゃっても【即死回避】で復活できるんだけどね。セレナちゃんもそれをわかっていて撃ち抜いたんだと思う。
「――で、これはいったいどういう状態ですか?」
セレナちゃんはぼーっと立ち尽くしているユキノちゃんと、その近くに倒れているミルクちゃん&リーナちゃんを指さして私に尋ねてくる。……ていうかまずい! ユキノちゃん、変身したせいで着ているものが破壊された扱いになっているのか、紐パンだけのほぼすっぽんぽんだ。いくら普段が露出多めだからといってすっぽんぽんはまずい。
――地面に倒れているメイド娘
――同じく倒れているニンジャ娘
――全裸で立ち尽くす紐パン娘
――ロープで木に逆さ吊りされていたロリ巨乳
さて、これをどう説明するか! どう考えても事後感が半端ないでしょう! 実際似たようなものなんだけど、誤解を生まないようにするには……
「え、えっと! 罠です! 罠にかかって、レイプされそうになったんですけど! ミルクちゃんを投げたらユキノちゃんが変身して気づいたら全裸に……?」
「なるほど、よく分かりません。とりあえず落ち着いて話してください。通報するのはそれからにしてあげますから」
あぁぁぁぁぁぁぁっ!? 通報するの前提なの!? 私は無罪だよ!?
「うぁぁぁぁぁっ! もういいもん! セレナちゃんの秘密ばらすもん!」
私がヤケになって禁じ手をチラつかせると、セレナちゃんのクールな表情に露骨な焦りが滲んだ。可愛い。
「そ、それは卑怯です!」
「だったら、私に変な疑いをかけるのはやめてくださ――」
「わ、わかりました! 話ちゃんと聞きますから――」
――この後、かなりの時間をかけながら、私は誤解を解いていったのだった……。
お読みいただき、感謝です。
そろそろようやく物語の折り返し地点付近だと思っております。これからも、『トロイメア・オンライン』をよろしくお願いいたします。




