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はじまり1

 伍代神社で古くから土地神として祀られている「白龍様」は伍代ヤヒロが小学生に上がる前、言い付を守らなかったり、悪戯をしたりすると「白龍様に食べられてしまうよ」と婆様に事あるごと言われ叱られていた。

 婆様に限った話ではなくヤヒロが育った町では、怖いモノの象徴として親が子を躾けるときの常套句として使ってい、子どもを躾けるに絶大な効果を発揮していた。


 しかし、その「白龍様」を代々祀っている伍代神社の息子としては、そうもいかなかった。


人々は約300年前に突如として現れ始めた世界厄災「狂」に生活を脅かされていた。

狂には、固定概念がなく、時に人、時に龍、時に天災、時に鬼、時に怪物と姿を変容させ人々を脅かし、連日、テレビのニュースで「狂」による被害は放送され、「狂」の怖さは心に刻みついていた。

狂に最も有効な対抗手段として心力を糧に錬成術が存在し、錬成術で錬成された武器を「心斬」

と呼び「心斬」には使用条件があった。


 錬成式と心力を用いて心斬を実体化することができるのは男子のみ。心斬を持って狂と戦うことができるのは女子のみという特殊な武器だった。

 狂はその存在が認知されて以降、強さによって1から5までの討級分けがされており、数が少ない程強くなっていた。そのなかでも1討級の「狂」に対して有効な対抗力として錬成されるのが「秘剣」だった。「白龍様」は2討級であり、そのために伍代家は「秘剣」が継承されてきていた。


 ヤヒロは、10歳の誕生日に「白龍様」が、その「狂」であると婆様から双子の妹、チナツと聞かされた。そして、同時に伍代家は白龍様を護るのが役目では無く、監視することが役目であり、万が一、封印が解かれた場合、代々伝わる秘剣にて討伐することこそが本来の役目であることが告げられた。


 妹のチナツは伍代家の五代目当主であり秘剣の錬成式を受け継ぐ「剣姫」、ヤヒロはその秘剣を錬成することが唯一できる「錬成師」となることを義務とされ、チナツは剣術、ヤヒロは錬成術のための勉強が始まった。


 封印はいつ解けてしまうのか定かではないが、万が一に備えヤヒロとチナツは修行に勤しんだ。

 ヤヒロの探求心は、修行を言い付けた婆様ですら呆れるほどで、心斬も錬成術の勉強を始めて1年もしないうちに会得し、秘剣の錬成式の理解も時間はかからなかったが、チナツが秘剣の錬成の練習をしたいと何度も言ってきたが、万が一に備えて練習をしておくべきだと頭では思っていたが、踏み切れず頑なに拒否し続けた。

 なぜなら、秘剣の錬成には、命の危険があったからだ。強大な力の代償は、膨大な心力の消費であり、心力の消費は錬成師も剣姫命の危険が伴う。それを知りながら、ヤヒロはチヒロの命の危険をさらしてまで、秘剣を錬成する気にはならなかった。


 しかし、封印が解かれ異様な殺気を放つ「白龍様」を目の前にしてヤヒロは自分が逃げていただけだと思い知ることになる。


 無事に新年を迎え、1月も半ば過ぎた頃に突如として大きな地響きが神社を襲った。

ヤヒロは慌てて外に出ると、冬の冷気とは違う全身を刺すような殺気に身を凍らせた。

その殺気の元が「白龍様」の封印が解かれたのだとすぐに気づきチナツと共に、「白龍様」を封印している神社の裏山に向かった。


 そこには、巨大な岩があるだけのはずだったが、巨大な白というより白銀の龍がそこにいた。

龍が怒りをあらわにその巨体をうねらせている。

「なぁチナツお前倒せる自信あるか?」

 ヤヒロは軽い口調でチナツに話しかけたが、チナツはいつになく真剣な表情で口をゆっくりと開いた。

「秘剣の錬成が可能であれば」

 ヤヒロは「秘剣」という言葉に胸が締め付けられた。秘剣が必要なことは百も承知だった。しかし、失敗すればチナツの命に関わってしまう事が、異常までにも体を萎縮させた。

 固く握られたヤヒロの右手がふと暖かくなり、視線を落とすと、チナツが強く握り締めていた。

そこから伝わる熱と共にチナツの覚悟も伝わってきた。

「兄様と共に」

 萎縮した体が嘘のように緩んだ。ヤヒロはチナツには一生敵わないと思った。

「チナツ、1分稼いでくれ」

「はい、兄様」

 チナツは龍に向かって走りだした。「秘剣」の錬成陣を書き終わるまでの間、龍の視線をヤヒロからそらすために交戦を始めた。

 ヤヒロは右手で印を結び、深呼吸をして勢い良く振りかぶりかぶると指先が青白く光り、指先の動きに合わせて一メートル程の円を空中にえがき、尽かさず、円の中に文字と記号を記し、錬成陣の構築をしていく。

錬成陣が書き終わるのを見計らってチナツはヤヒロの元に戻り、錬成陣を挟んでヤヒロの目の前に立った。

「繋げるぞ」

「お願いします」

 ヤヒロはチナツの胸元に錬成陣を通して触れると、チナツの体が少しビクリと震えた。

「咲き誇れ、秘剣「桜華」」

 ヤヒロの声と共に青かった錬成陣はまるで桜のような淡い桃色に変化し、全て色が変わると錬成陣は霧散した。

 ヤヒロは、立っていられないほど脱力感と疲労感に膝をついてしゃがみこんだ。

チナツが、手を天高く上げるとそこに霧散したはずの桃色の光が集まり一本の日本刀を形成していく。錬成された秘剣をチナツは嬉しそうに強く握りしめ笑顔でヤヒロを見た。 

「兄様行ってきます」

「あとは頼んだ」

 チナツは龍と対峙するが龍もチナツの変化を本能で悟っているかのうように動きを止めた。

チナツはむき出しの刀を鞘に収めるかのように構え、切り上げた。

その一線で龍はぶつ切りにされ動きを止めた。秘剣の絶対的な力が証明された。


 チナツが振り返り笑顔向けた。

 ヤヒロもその笑顔に全て上手くいったんだと喜んだ。すぐにでもチナツの元に駆け寄りたかったが、体が上手く動かずゆっくりと立ち上がっていると、チナツの方から駆け寄ってこようとしていたが、チナツの動きが止まった。

 喜んだのも束の間、刀がガラスのように粉々に崩れた。同時にチナツもその場に力なく崩れた。


 ヤヒロは理解が出来なかった。いや、出来ていたが心が、脳がその絶望を理解してくれなかった。チナツに駆け寄ろうとするが思うように体が動いてくれなかった。必死で這いながらもチナツの元へ駆け寄った。

やっとの思い出、チナツに触れると心力が尽きかけていた。

急激な心力消費は命に関わることだった。予想通りの事態にヤヒロは焦りと不安、恐怖に潰されそうになっていた。

「心力・・・心力を渡せば」

 ヤヒロは自分の心力の譲渡を始めた。

 自分自身も秘剣錬成でギリギリだったが、そんなことは気にしていられなかった。

 心力切れで目眩や吐き気が襲うが耐えてチナツに心力を渡し続けた。


 ヤヒロは力無く横たわる妹のチナツを抱え、無我夢中で「心力」を注ぎ続けた。そんなヤヒロを宥めるようにチナツの冷えた手がヤヒロな頬に触れた。

「兄さま、もう、やめて下さい。でないと兄さまが死んでしまう」

 優しい笑顔で言うチナツを見ると涙が視界を歪ませた。

「泣かないで兄様。少し眠るだけです。起きたらまた、パンケーキ焼いてくださいね」

 握った妹の手に力が抜け重さか一気にのしかかると同時に言い知れない喪失感に襲われ、すがるようにチナツを強く抱きしめた。

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