極論男・14
ワシは菌が嫌いだ。何でも除菌除菌!
65歳で定年を迎えたが、この年で歯周病にかかってない。ワシの自慢だ。これも除菌活動の賜物だろう。
健康診断で医者にビフィズス菌を摂れと言われたが、どんな菌だろうと許すまじ。除菌除菌!
納豆も食べろと言われたが、納豆は雑菌の塊。除菌除菌!
キノコも良いと言われたが、これこそ、悪の枢軸!
ワシは潔癖症ではない。ただのきれい好きだ。
そんなワシに愛想を尽かせた嫁は家を出ていった。今流行りの熟年離婚というやつだ。子供はいない、というか作らなかった。他人と雑菌まみれの戯れなど出来なかった。
除菌活動した方が長生き出来るのに馬鹿な元嫁だ。
日本酒を一杯飲みながら…………しまった〜! 日本酒は麹菌ではないか! ワシに飲ませやがって! 許さん!
ワシは悪魔に魂を売った。悪魔の名は納豆。
そして酒蔵見学ツアーに参加して、目を盗み、酒樽に納豆を落としていく。
麹菌は納豆菌に弱い、抹殺出来る。
そして、ワシは警察に捕まり、裁判にかけられる。
ワシは悪いことした覚えはない。除菌こそ正義!
ワシに下った判決は1800万円の損害賠償――ふざけるな! 退職金が吹き飛んでしまう。まあ、払う気ないけど。
数ヶ月後、差し押さえだと抜かして、スーツ姿の男達が家の中に雪崩れ込む。
男達がワシの除菌七つ道具を足蹴にした怒りはピークに達する。
次の瞬間、ワシは包丁を手に取り、1人の男の腰を刺す。
そして、ワシは刑務所に入ってしまった。
刑務所の独居房は汚い。除菌をしなくては。
除菌こそ正義!
――いずれ誰しもが老害になる。どうせ老害になるなら、マトモな老害になろう――