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「卅と一夜の短篇」

傘(卅と一夜の短篇短篇第17回)

作者: 錫 蒔隆

車で移動するようになって、傘をつかわなくなった。いちおうは車に積んではあるが、つかうことがない。ドアからドアの目と鼻のあいだでは、つかってもいたしかたない。小雨なら差す必要はないし、土砂降りでも差すほうが手間になる。急な雨を気に病んで、折り畳み傘を持ちあるいていた日々がなつかしい。あれはじつにめんどくさかった。鞄のなかに入れるからと入れても、いざ差すとなると億劫。袋から取りだしてひらく。雨滴を払って折りたたみ、また袋をかむせる。これなら嵩張っても、折りたたみでない傘を持ちあるいたほうがめんどくさくない。まったく無用の長物だった。

ひさびさに電車に乗り、外を歩く。彼女との逢引に心は躍る。都内は車を停めるところに金がかかる。渋滞のときの会話にも困窮するにちがいない。いい絵がまったく浮かばない。

鞄のなかには折り畳み傘。雲ひとつない空でも、油断はできない。急な雨に、彼女の身を晒させない。彼女に降りかかる不運をゆるせない。騎士然と、彼女を護ることに意義を見いだす。


ただ、あればかりはどうしようもない。傘も脚も、まるで役に立たない。予期せぬ、不意の雨粒。落ちてくるジャンボジェットをまえに、ぼくはなにもできない。ただ彼女の小さな手を、ぎゅっとにぎりしめた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 甘い素敵なお話と思っていたら、あんなものが落ちてきました。 なんでだろう……なんでなんだ……なんでなんだー!
2017/09/04 10:38 退会済み
管理
[良い点] 雨が降ったら彼女を守ってあげたい男の心。よくある話です。と思ったらあれですか? あんなの降ってきたんですか? デカすぎます。お手上げですね。 とにかく意外でした。
[良い点] 固い文だなと思っていたら、まさかのでかすぎる雨粒www ギャップにやられましたw [一言] 傘小説を書いた者として気になったので、寄ってみました。 傘を使うのをめんどくさがりながらも、傘…
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