ザイナスは動じない
お正月からすみません! 肌色成分あります。
一方ザイナスたちはどうしていたか。まず、城の一階にあるザイナス専用の仕事部屋に向かうと、男女に分かれて服を脱ぎ、素肌にカバンを背負った。
この全裸の段階はいつも間抜けだとディロンは思うのだが、ザイナスもコリートもまったく気にしない。
「毛皮かそうでないかの違いであって、皮は皮だろう」
「そうなんだけどな? そうなんだけど、じゃあなんで父さんは第一形態の時は服を着るんだよ」
「別に着なくてもいいが人間に合わせている。それに着るとレイアが喜ぶ」
「あー、母さん、父さんの第一形態が大好きだからな。そろそろ帰らないと押しかけてくるぞ」
「来ればよいのだ。マキもきっと喜ぶだろうし、私もうれしい」
ディロンとザイナスがそんな会話をしていると、
「それ、全裸で向き合って話さなきゃいけないことか? そっちのほうが恥ずかしいよ俺は」
「す、すまない、コリート」
ディロンは少し赤面してすっと力を抜いた。見る見るうちにファサッと白交じりの灰色の毛が体を覆うと、体がふわりと倒れて骨格が変わる。あっという間に第三形態に変化した。カバンは背中にしっかりと背負われている。
やがて大きな灰色の犬が二頭、黄色の犬が二頭、外に向かった部屋のドアから出ると、
「ザイナス様、ご苦労様です」
の声と共に、
「おお、第三形態だ。いいもの見たな」
「ああ、モフらせてほしい……」
というざわめきの中、城の裏手の山に向かった。
「だから人間の町で第三形態になるのは嫌なんだよ」
ディロンはぶつぶつ言った。コリートも苦笑してうなずく。
「確かにな。目の色が変わるよな。捕まったらえらい目にあいそうだ」
きっと撫でまわされるに違いない。全員そそくさと裏山に急いだ。この山沿いに鏡の湖のそばまで走り切り、そこから国境越えをする予定だ。獣人の足なら一日でつく。
上空を茶色の鳥人が舞う中、夕方には国境を越え、内陸の鏡の湖の手前にたどりついた。
鏡の湖は、ドワーフ領と同じように、高い岩山のふもとに広がっている。西側の山には穴がいくつも空いていて、そこから水が流れ出しているというが定かではない。四方は森に囲まれているが、湖の周りには平地が広がり、そこそこ大きい町になっている。
何より王族の保養地でもある。少し高いところにあるので夏は涼しいが、冬は温暖だ。季節を問わず、旅行客が訪れる観光地にもなっている。
湖から水は川となってあふれ出し、それはそのままミッドランドに緩やかに流れて海に向かう。
しかし、ここも川とは別に、海につながっているという噂があった。時折取れる海の魚も町が人気の理由でもある。
一行は少し東側の山頂近く、街が遠目に見える少し開けた場所に止まった。鳥人も降りてくる。と、オーサがすっと立ち上がり第一形態に変化した。
「ちょっ、姉さん、姉弟でもそれはダメだろう!」
「何言ってるのディロン」
全裸におののき後ろを向くディロンに、オーサはあきれたように言った。
「いいからこっちを向いて」
「はあ? やだよ」
「いいから!」
ディロンが渋々後ろを向くと、そこには金色の毛がふさふさと体を覆う、直立歩行の犬がいた。確かに全裸かもしれないが、まったく気にならない。
「まったく、どうして男子は変化の段階を面倒くさがるのかしら。確かにいっぺんに変化したほうが楽だけど、こうして段階を踏めば服を着替えるのも楽でしょうに」
「そ、そんな変化の使い方なんて知らなかったんだよ……」
耳の下がるディロンに、
「だって、手だけとか足だけとかも変化させられるでしょ?」
「それはもちろん」
「その全身バージョンってだけじゃない。父さん、なんで教えないのよ」
「必要か」
「必要でしょ? このディロンを見てそう思わないの?」
「ふむ」
ザイナスは首をかしげると、やはりすっと立ち上がると灰色の毛がふさふさとした直立歩行の犬の姿になった。
「できるのかよ! じゃあむしろなんで城全裸で着替えたんだよ! しかも男女別々で!」
「そういうものだから?」
「なんで疑問形?」
「まあいい。やってみろ」
「いいのかよ……」
ディロンはどうも父親が苦手だ。しかし、やってみるのはやぶさかではない。少しわくわくした気持ちでふさふさで直立している自分をイメージした。すっ、と立ち上がって目を開けると、そこには父親と同じ姿の自分がいた。
「ふむ。できるではないか」
「こんな簡単なことかよ……100年近く知らないできたのか俺は」
脱力するディロンにザイナスはこう言った。
「いずれにしろ服は着替えるのだから、毛があろうとなかろうとあまり関係はないような気がするのだが」
「あるんだよ。まったく」
たぶんこの動じなさが、ザイナスが親善大使に選ばれている理由だと思われる。
人間型が第一形態、一部分だけが変化するのが第二形態、これは主に魔物と戦う時になるものだ。そして第三形態が完全な獣型になる。
一から三の順で疲労度が増す。もっともそれでも第三形態の楽しさは格別ではある。
第一形態に戻り、今後の相談をする。
「まずはクリオ、空から見て町のようすはどうだった」
ザイナスが鳥人に尋ねた。
「普段のこの町を知らないからな、確実なことは言えないが、まず兵が多すぎる」
「やはりか。アーサーによると、王族の避暑地でもあるらしい。だとすると兵が多くても不思議ではないのだが、どう判断した」
「離宮と思われる場所周辺を警備しているならわかるのだが、湖にたくさんの船が浮いていて、その多くが兵と思われると言ったら?」
ザイナスは腕を組んでうなった。
「なるほど。確かに何かが起こっているようだな。では今日は周りからようすをうかがうだけにして、明日はひとつ前の町から変装して潜入だ。オーサとコリートは大丈夫だろうが、ディロンは特殊形態は長持ちするか」
「今のところ夜には第一形態に戻ってしまう。また変化するには数時間かかる」
「その年でそれだけできれば十分だろう。私が行きたいがいかんせん、人族で2メートルは目立ちすぎるからな」
ディロンに確認をとったザイナスは残念そうにそういうと、
「よし、我らは日が暮れてから偵察だ。クリオとカエラは日のあるうちにできるだけ見ておいてくれ」
と指示を出した。鳥人はまた舞い上がり、犬人は思い思いの場所に座り込む。問題が発生していることは確かなのだが、この状況にまた心が弾んでいることは確かなのだった。
「城はやはり平和すぎる」
「父さん?」
「いや、なんでもない」
アーサーには悪いが、おもしろくなってきたと、ザイナスは口の端を緩めるのだった。
あけましておめでとうございます!
そんな元旦におめでたい一報を!
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