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聖女二人の異世界ぶらり旅  作者: カヤ
エルフ領編

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国境の町で

真紀と千春は荷馬車の後ろに座り、景色を眺めながら足をぶらぶらさせている。


「この格好久しぶりだね」

「私はワンピースの下にズボンをはいたから、動きやすくなったよ。ちょっと暑いけどね。空を飛ぶにはちょうどよかったかも。それにしても」


千春はどんよりとした。


「何時間空にいただろう。正直、海を飛び越えてたくらいじゃない?」

「うん。サウロには絶対言わないけど、今なら三時間で余裕でドワーフ領に飛べると思う。それに今回のことで」


真紀は言いにくそうにどもった。


「たぶん自信をつけちゃったんじゃないかなあ」

「だよね」


風が心地よい。


「でもさ、ほら、ローランドにちっちゃい子がいて遊んで欲しがってるってわかったしね」

「尊いいけにえだな」

「こ、子どもはいいんだよ。本人も楽しいから」


千春は口ごもると横を向いた。


「そのうちにさ、ローランド鳥人部隊とか言ってさ、幼いころから鳥人と訓練してきた精鋭があちこち伝令に回ったりしてね」

「ドワーフ領のダンジョンに異変あり、至急助けを求む、とか?」

「そうそう。鳥人の伝令ってちょっとあてにならないことがあるらしいから」

「ああー。自由だからねえ」


今一番鳥人と長距離を飛べるのはおそらく真紀とエドウィだ。おまけで千春もだが。ローランドの鳥人部隊より前に自分たちが働かされる可能性も考えるべきなのに、やっぱりのんきな二人だった。


荷馬車は国境の町に向かって坂道を上っていく。坂の下には森が広がり、そこを縫うように馬車の道が続いている。ドワーフ領は峠が多くて上がったり下がったりだったが、ロ-ランドはハイランドとの国境の町まで緩やかにずっと上り坂だ。


だから森の向こうには平地が広がり、そのさらに向こうには青い海が見えた。


「あー、気持ちいいね」

「何しに来たんだか忘れそうだよ」


傾斜が次第に緩やかになっていく。


「おーい、そろそろつきますよ」


前のほうからエドウィの声が聞こえた。


「とりあえず国境の町だね」

「お風呂に入れるかなあ」

「ちょっと無理かな」

「でも凝りをほぐしたいよねえ」

「確かにね」


しばらくぜいたくは言うまい。真紀と千春は後ろに座ったまま、馬車が宿屋までゆっくり進んでいく間町の景色を楽しんだ。人々はローランドの海側の人と変わらぬように見えたが、心もちくすんだ金髪の人が多い。ちょうど今の真紀と千春のように。商人の荷馬車は珍しくもないが、ただ楽しそうな兄妹だけが町の人々の口元をほころばせたのだった。


馬車はゆっくりと宿屋に止まる。真紀と千春はぴょんと荷台から飛び降りると、馬車の横を回って御者台に行った。


「そうしていると、本当に兄妹のようですねえ」

「駄目だよエドウィ」

「何がですか?」

「そんな丁寧なしゃべり方してたらおかしいよ」

「そ、そうですね、いや、そうだな」


千春にたしなめられるエドウィを見てアーロンが笑った。


「一番変装できてねえじゃねえか」

「仕方ないでしょう、いや、仕方ないだろう、ずっと周りが年上ばかりだったんだぞ」


ちょっとエドウィは不満そうだ。


「ここが今日の宿屋だ。明日は早くから出ることにして、今日はゆっくり休もうぜ」

「部屋をとったら、少しだけ町を見てきていい?」

「まあ、ここは安全だろ。どうする? エドウィ」

「俺のことはエドと。一緒に行こうか、シュゼ」

「行こう! エド」


部屋はちゃんと二つとってくれていた。


ハイランドとの国境はここ一か所だけではない。それでも交易の中継点となるこの町はなかなか栄えていて、特産の染め物など布類がたくさん売っている。


「セーラに買おうかなあ、いや、だめだ」

「まだ旅の初めだから?」

「違うよ、『これはローランドの国境の町の特産ですが、エルフ領に行ったはずのマキ様とチハール様がなぜおみやげを?』とか絶対言われるもの。『まさか危険なことなどゆめゆめするわけがないとセーラは信じておりますが、まさかあの駄エルフが何か?』とかさ」

「そっくりだよ真紀ちゃん」


千春は感心した。隣でエドウィもおなかを抱えて笑っている


「だから形に残るおみやげはなしね」

「ほほう。わかったよ真紀ちゃん」


二人は顔を合わせてにやりと笑った。


「あ、ちょっとあの食べ物気になる」

「待ってください、チハール」

「エドウィ、言葉遣い!」

「あ、待て! シュゼ」

「ちょっとだけだから!」


そうして二人が屋台に走っていったすきに、


「おやっさん、それ小さいやつ四つくれ」

「あいよ、お前さん、酒飲める年かい?」

「兄さんのだよ。ほら、あれ」

「ああ、あのいい男か」


やっぱり目立ってるよエドウィ。まあ、仕方ないよね、と真紀は心の中で首を振った。


「あと、これ何だい?」

「知らないのかい? 肉を薄ーく伸ばして味付けした干し肉だよ」

「じゃそれも、あとそっちのやつも」

「まいど」


結構な買い物をした商人の子にお店の人もホクホクだ。


「兄さんについて初めて内陸に行くんだけど、おやっさん行ったことあるかい?」

「あるもなにも、すぐそこが内陸だからねえ。風物もあんまり変わらないから心配せず行って来いよ」

「ああ、ありがとう」

「そういえば最近、内陸から魚が届かなくなったなあ」

「魚が? 俺たち鏡の湖のほうにソルナみかんを売りに行くところなんだけど」

「ソルナみかん? ここでもちょっと売ってくんねえかな。かみさんが好きなもんでよ」

「ちょっとなら持ってきてやるぜ」

「ありがてえ。でもな、魚が届かねえなんてこと初めてだからな。よっぽど魚が少なくなってるのかねえ。不漁だとみかんもうれねえかもしれねえなあ」

「そうしたらさ、別の町に行くよ」

「それがいいな」

「じゃ、あとでみかん何個か持ってくるよ」

「よろしくな!」


真紀は買ったものを急いでカバンにしまうと、屋台から歩いてきた千春たちと合流したのだった。


みかんを届け、夕ご飯を食べ、部屋にお湯を持ってきてもらってさっぱりすると、やっとお休みの時間だ。


「この変装だと大っぴらにお酒が飲めないから困るよねえ」


千春がぶつぶつ言った。夕ご飯の時、アーロンとエドウィだけエールをのんで悔しかったのだ。


「私たちなんてお水だよお水。おいしかったけどさ」


裏の井戸の汲みたての冷たい水だ。夏には何よりなのだが。


「そんな千春に、はい!」


真紀はカバンから小さくてきれいな瓶を二本、取り出した。


「これ」


千春は唾を飲み込んだ。


「もしかして、あれ?」

「そう、あれ」


千春の目が輝いた。


「真紀ちゃんかっこいい!」

「もっともっと」

「すてきい」

「ははは」


真紀はそっくり返って腰に手を当てると、反対の手で髪をかき上げた。


「しかも干し肉のおつまみ付きだよ」

「真紀ちゃんサイコー!」

「まあまあ、押さえて押さえて」


そうして二人で席に着くと、千春がカバンから出してきた甘味とおつまみを並べて瓶をかつんと合わせた。その瞬間、


「おい、お前ら、あ?」

「はあっ?」

「いや真紀ちゃん、そこはきゃーだよ」


千春はいらぬ突っ込みを入れた。どうやらうっかりドアを閉め忘れていたらしい。ノックもせずに入ってきたのはアーロンだった。




よし! 『この手の中を、守りたい』1、2巻も発売中です。

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