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聖女二人の異世界ぶらり旅  作者: カヤ
エルフ領編

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国境の町へ

国境の町の手前にたどりつくのに、少しずつ長くなる休憩を入れて何時間かかったことだろう。少なくとも四回は鳥人が交代した。


「つ、疲れた」


さすがの真紀もくたくただ。千春も一言も言えないでいる。アーロンはよろよろと立ち上がるとこう礼を言った。


「馬車で三日の距離、馬を走らせることもできたが早馬は人目を惹く。あなた方のおかげで目立たずこんなに早く来ることができた。礼を言う」

「お前のためではない。マキとチハールが望んだことだ」


サウロは少しそっけなくそう答えたが、アーロンにちらりと視線だけやると誰に言うとでもなくつぶやいた。


「体の大きい人族が長距離運ばれるのは本人にとっても容易ではない。ローランドの王族も悪くない」


そんなサウロをおかしく思いながら、千春も何とか立ち上がるとサウロに言った。


「ローランドのお城には子供が多いからねえ、こないだのお披露目で知り合った子もいるし、これをきっかけにお城に鳥人をふやせば、子供といっぱい遊べるんじゃないかなあ。そうしたら『鳥人に運ばれるのは当たり前』なんてなったりしてねえ」


サウロははっと何かに気づいたような顔をしてサイカニアと目を合わせた。ありだな、ありよね、と声が聞こえたような気がしたが、定かではない。


「チハール、お前のそのことばが祝福か、呪いか。鳥人とあまり交流のないローランドではいいことかもしれぬ。今は呪いのようにしか思えぬがな」


アーロンがやれやれとそうつぶやいた。


一行が下りたところは国境の町の少し手前で、そこには迎えの者がすでに待機していた。


「さあ、あまり長居しては目立ちます。せっかくアーロンが手配してくれたのですから、早く移動しましょう」


エドウィの言葉にハッとうなずき、真紀と千春は改めて鳥人に向きあってお礼を言った。一回運べば遠慮はいらぬと思ったのか、20人以上の鳥人は一人一人真紀と千春をさっと抱きしめて、名残惜しそうに去っていった。


「抱かれ損?」

「役得だと思おう。鳥人も一応イケメンに美女ぞろいだし」


こんな言葉をつい最近言ったような気がすると思う真紀と千春だった。


「今回のことで人間領が思ったより近いと多くの鳥人が知ったことだろう。マキとチハールのおかげだ」


最後に残ったサウロはそう言うと、


「ついては行けぬが気を付けるのだぞ」

「早く戻ってきてね」


と、サイカニアと共に飛び立っていった。千春はその姿を見上げながらつぶやいた。


「解き放ってはいけないものを解き放ってしまったような気がしてならない」


真紀はその肩をポンポンと叩いてこう言った。


「遅かれ早かれこうなったよ。さ、行こう」

「うん」


用意された馬車は幌のあるもので、荷台にはかなりの量のソルナみかんが積まれていた。


「これなら商人と言っても不審ではないね」


それを覗いて真紀が満足そうに言った。


「御者台に座るか、幌の中で休むか、どうする?」


馬の手綱をとりながらアーロンが言う。できれば外を見ながら乗りたいのだが、御者台は二人しか座れない。馬車をよく見ると、幌は後ろで絞っており、少し隙間が空いており、一番後ろに狭いデッキのようなものがついていた。


「後ろに座って、疲れたら荷台に乗るよ」

「そうか、30分ほどで町に着くから、それまでもう少し頑張れよ」

「ありがとう」


真紀と千春はにっこりと笑うと後ろに走っていった。まず先導する馬車がゆっくり動き始めると、次に真紀と千春の荷馬車、そして距離をとってもう一台、まるで偶然のように動き始めた。


「正直、甘えたお姫さんのわがままだと思っていたが」

「驚いたでしょう」


御者台に乗った王子二人はぽつぽつと話をしていた。


「ああ、見直した。鳥人と飛んで全く疲れないお前もすごいが、俺でも死にそうに怖くて疲れる空の旅を、泣き言一つ言わずに乗り切った。しかもこんな荷馬車に文句も言わない」

「マキとチハールですからね」


真紀と千春をほめるアーロンに、エドウィは胸を張る。


「あんなにきゃしゃでかわいらしく、守ってやらなくてはと思うのに、あっという間に自分で飛び出してなんでもやってしまうんですよ、あの人たちは」

「そのようだな。聖女の衣装のまま出発と言った時も驚いたが、青空の下、着替え始めた時は心底驚いたぜ」


アーロンは心持ち赤くなった。マキなら、


「見えもしないのに何をいってるんだか」


と言うだろうなとエドウィはおかしくなった。


「聖女のすばらしさを語るときりがないので、まず聖女と魔石のことからお話ししましょう」

「聖女と魔石? 額のあれか?」

「違います。聖女が魔物を石に凝らせることです」

「その話か。正直信じるのは容易ではないのだが」

「ヴァンも実際に見るまではそうでしたね」

「実際に? あいつはドワーフ領には行っていないだろう」

「ええ」


アーロンは一瞬何のことかわからないという顔をした。ドワーフ領でないのならどこか。


「まさか」

「ええ。道中で」

「ミッドランドか!」

「最後は国境の町でした。川向こうのローランドもよく見えましたよ」


エドウィはローランドも他人事ではないとわからせるようにそう言った。


「そこで魔石に凝らせたゲイザーが、山を越えてきたと言ったそうです」

「言った? 魔物が?」

「ええ。魔物が」

「ばかな」

「聖女は魔物の気持ちが伝わるのだそうです」

「ありえない」


アーロンはエルフ領にいて、時にはダンジョンに行くこともあったし、人間領にいる者よりよほど魔物のことは知っていると思う。エルフ領はあまり討伐には熱心ではないので、人族の冒険者があまり来ない時は魔物がダンジョンの外に出てくることもある。しかし、エルフは魔物が襲ってくるまでは騒がないし、襲ってきたとしても面倒くさそうに弓を使えるものを呼びだして終わりだ。


そんなだから今回の瘴気の濃さと魔物の多さに対応が遅れて、今危ないことになっているのだが、


「それでも信じがたい」

「まあ、見るまで信じなくてもかまいません。説得に時間をかけるのは馬鹿らしいことです」

「そ、そうか」


エドウィは意外と手厳しい。


「信じなくてもいいので、今回なぜ聖女が人魚の依頼を受けたのかはわかってください」

「そもそも内陸で何かが起こっている可能性があるから、か」

「その通りです」


エドウィはよくできましたと言う顔でうなずいた。


「親を亡くした12歳と14歳の兄妹で、アーロン商会で預かっている。普通の働き者の子どもとしてこれからは扱ってください」

「お姫さんだぞ」

「ドワーフ領の行軍でも賄いとしてちゃんと働いていましたよ」

「あー」


アーロンは天を仰いだ。


「情報が少なすぎる。思っていた聖女とまるで違う」

「思い込みによる調査不足です。そういうのを自業自得と言うのです」


やっぱり厳しいエドウィだった。


「私たちは兄弟です。私のことはエドと呼んでください。あなたはアーロンでいいでしょう」

「あいつらは」

「ノーフェとシュゼと」

「ノーフェとシュゼ? それは王子と王女の名前だろう」

「私たちが産まれた時、国にいったいどのくらいのアーロンやエドウィが増えたと思ってるんですか」

「なるほど、それはそうだ。かえって自然か」

「では残りの時間はいかにマキとチハールが素晴らしいかを話して聞かせましょうか」

「勘弁してくれよ……」


エドウィがそんなことをするわけもなく、国境の町に着くまで二人は情報共有に余念がなかったのだった。

宣伝はちょっと休憩。ネタ考え中(笑)

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