ついてきたのは
第四王子とは、ナイランによると、エルフ領から一度戻ってきているという兄だ。
「アーロン、しかしお前は一緒にエルフ領に行くはずでは」
「今回必要なのはナイランとカイダルだ。俺は冒険者をしているわけではない。それにエルフ領にずっと行っていたから、内陸でも顔を知っているものも少ないだろう」
アーロンは王にそう答えた。千春はアーロンの顔を見て、いやそれだけ似ていたらすぐ王族だってばれるよねと思ったが、賢明にも口にしなかった。一方真紀は、はっきり言ってしまった。
「いえ、王族とかそんな人じゃなく、もっとこう、目立たない感じで、そう、商人とかを紹介してくれませんか」
「俺では不満か」
「いえ、不満ですけどそうではなく」
「不満か」
「不満です」
真紀とアーロンはにらみ合った。
「おい待て、なんで行くことが前提になっている。聖女だけでは危険だ。まして内陸だぞ。人魚の長には悪いが、聖女を失うかもしれない行動は許可できない」
そこにカイダルが口を挟んだ。真紀はそっけなく答えた。
「カイダルの許可は必要ない」
「なんだと! 勝手を言うな」
「勝手を言ってるってわかってる! でも勝手でもやらなくちゃいけないことがあるでしょ!」
今度はカイダルとにらみ合った。しかし、カイダルはふっと眉を下げると、
「頼むから、俺が守れるときにしてくれ。心配なんだ」
と言った。
「カイダル……」
「マキ……」
「あー、それはまた後でやってくれないか」
キリアンが口を挟み、真紀とカイダルはさっと視線をそらした。
「どうしたものか……」
頭を抱えるキリアンにエドウィが言った。
「仕方ありません。送り出しましょう」
「エドウィ!」
千春が顔をほころばせた。うん、笑ったチハールはかわいい。にやけそうになるが、それはともかく、とエドウィは顔を引き締めると、
「こうなったらこの二人は逃げ出してでも行きます。それならば行くことを認めたほうが早い」
と言った。
「マキ、アーロンは容姿も内陸に溶け込みやすい。マキとチハールと同じように、抜け出してふらふらしているという噂の庶民派です。ここは彼についてきてもらいましょう」
いや、抜け出してふらふらしてるって、ひどくない? 真紀はそう思ったが、
「そして私も行きましょう」
というエドウィに驚いた。
「エドウィ、その、目立つよね」
「なに、かつらをかぶれば目立ちませんよ」
「青い目は」
「内陸にもいますよ。大丈夫です」
「その、庶民派ではないのでは」
「庶民派です。こう見えても市井の暮らしにはなじんでいます。それに誰がこの遠征で采配を振るってきたと思っているのですか」
エドウィです。全員の気持ちが一致した。
「でも、エルフ領に」
「私は今回はおまけです。主役はナイランですから。ミッドランドの王子はドワーフ領への遠征で疲れたとでも何とでも言っておけばいいのです」
「でも、何かあったらアーサーが悲しむよ。一人息子だよ」
千春がそっとそう言った。
「大事な娘を親から引き離したのは我らの世界。その娘が危険に赴こうとしているのに、自分だけが命を惜しんでどうするのですか」
千春はじーんとした。いつの間にかこんなにしっかりして。千春とエドウィも見つめ合った。
「あー、お前たち。要は商人に扮装して、ようすを探るだけだろ。命の危険もそうないと思うぞー」
アーロンの声に千春とエドウィもさっと目をそらした。
「それでは俺とエドウィ、聖女二人の組み合わせで商人として動き、他に容姿の目立たないやつらを陰に何人かつけ、別行動をとらせよう」
アーロンがさっそく手配しようとする。真紀が一応口を挟んだ。
「あの、ローランドがかかわっていると思われると困るので」
「わかってるさ」
アーロンはにやりとした。
「あくまで聖女の護衛、お付きとしてついていくだけ。ローランドでたまたま雇われた護衛だよ、俺たちは」
「護衛が豪華すぎるよ……」
千春は遠い目をした。どうしてこうなったのか。商人に頼んで付き添ってもらうつもりだったのに。
「ちょうどいい。エルフ領から戻ってくる時に、冬越しのソルナみかんをたくさんおみやげに持ってきただろう。あれを売りに行くことにする。ソルナみかんは内陸では特に人気だからな。多少目立ったとしても喜んで買ってくれるだろうよ」
アーロンはそうてきぱきと決めてしまった。
「それで、内陸の鏡の湖では、国境を越えてから馬車で三日はかかる。ここから国境までも三日。さあ、どうする」
そう問われた真紀と千春は、
「サウロとサイカニアにお願いするつもりでした。さすがに内陸に行ったら白い鳥人は目立つから、国境の町付近まで運んでもらって、そこからは馬車かなと」
「それは考えつかなかったな。エアリスの飛行船は鳥人より目立つから使えないし、仕方ないか……。俺、鳥人に運ばれたの子どもの時以来だぞ」
アーロンが苦笑した。真紀は失笑した。
「それなら無理に行かなくてもかまいませんよ」
「いや、いい経験だ。それに俺が行かないなら影の護衛もソルナみかんもなしだ」
「心せまっ」
「ふん、助けてもらってその言い草か」
「むしろ遠慮したし」
二人はにらみ合った。大丈夫かな、これ。千春はちょっと途方に暮れた。
しかし、アーロンの仕事は早く、その日のうちにソルナみかんの荷運びを指示し、護衛となるものも馬で先に向かわせた。鳥人が明日一日かけて国境の町に着くのに先行する予定だ。
急に決まった真紀と千春の別行動に、本当はエアリスもカイダルも、ナイランも不安だった。しかしエアリスは飛行船をいったんエルフ領に運ばなければならないし、正直なところダンジョンのようすも自分の目で確かめたい。
また、エルフの自分がついて行っても助けにならないこともわかっていた。カイダルもナイランも、使命がなければと歯噛みしたが、それを放り投げて聖女についていったら、責められるのは聖女だろう。
それに多くの民のことを考えるのが大切だ。
「マキ、チハールよ、行かせたくはない」
エアリスが切なげに言った。千春はエアリスの手を取って顔を見上げた。
「今度はこっそり行くわけじゃないから。エドウィもいるし、大丈夫」
「せめてチハール成分を補充させておくれ」
エアリスはそう言うと座って千春を隣に引き寄せた。
「マキもおいで」
そう言われ真紀も素直に反対側の隣に座った。エアリスは両側に聖女を抱え込み、成分とやらを補充し、しばらくして離してくれた。
真紀と千春はグルドのそばには自分から寄って行って両側から抱きしめた。グルドはその二人の手をポンポンと優しく叩いた。
「わしは心配しておらんよ。思うとおりにやってくるといい」
「ありがとう」
カイダルとナイランはそれをうらやましそうに見ていたが、成分を補給させてくれなどと言えるわけがなかった。
「くれぐれも無理をするな」
「夜の仕事は今回はやめておけ」
そう注意することしかできなかった。
「うん。無理はしないから」
「慎重にする」
目を見てそうしっかり言ってくれたことを心の支えにするしかないカイダルとナイランだった。
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