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聖女二人の異世界ぶらり旅  作者: カヤ
エルフ領編

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ウミヘビは魚だろうか

多少の動揺があったが、一行は川のせせらぎが聞こえる小屋の一つに案内された。窓から入ってくる風が気持ちいい。


「川の上で料理を出すところもあったはずだけど、そこも行ったことないから、初めてだなあ」


千春はとにかくうれしそうだ。


「その代わり料理は選べませんよ。魚介の煮込み一択ですが、マキもチハールも魚は大丈夫ですよね?」

「大丈夫だろ。こいつら魚のフライをバクバク食ってたぞ」


代わりにカイダルが答えた。確かに大丈夫だけれども、その言い方はない。しかし、文句を言う前に料理が来た。


「わあ……」


一人一人に蓋つきの大きなスープボールが並べられ、テーブルの真ん中にスライスしたパンのかごもドン、と置かれた。お店の人が蓋を取ると、湯気と共に少し癖のある香辛料の香りがぱっと広がる。


スープボウルの真ん中には、大きな白身の魚が半身分置かれて、金色のスープから両端をのぞかせている。お城でも食べた身の詰まった黒い貝まではわかった。では、白身魚と同じくらい長いこの薄黄色の身は何だろう。


「その黄色の身ですか。ウミヘビをそぎ落としたものですよ」


エドウィがこともなげに言う。


「そぎ落とした……」


千春の目がやや遠くなったが、真紀は、


「ということは、相当大きいんじゃないですか、このウミヘビ」


と意欲的だ。


「はい、長さは三メートルと大したことはないんですが、太さが大人の二の腕くらいあるのですよ。身がぎっちりと詰まっていて、食べやすいだけでなくスープにするといい出汁が出て、チハール?」

「はい、ヘビ、はい、三メートルは大したことあるよね? いえ、いい出汁? おいしいんですよね、それ」

「はい、とても。昔から美容にいいと女性にも人気で」

「コラーゲンか! はい、いただきます!」


千春は立ち直った。にょろにょろは見るのは苦手だが、食べるのはかまわないのだった。


エビも貝も一度身が外してあるようだし、白身にも骨もない。ウミヘビの出汁はよくわからなかったが、肉はグミのような不思議な触感で、スープを最後の一滴までパンに浸して食べるほどにおいしかった。ちなみに男性陣はお代わりをしていた。


食後には大ぶりのカップで、やはり城で出たような柑橘系の香りのする水が出された。


「腹ごなしに少しだけ街を歩いて飛行船に戻りましょうか」


そういうエドウィに甘えて、川沿いの町を歩いてみる真紀と千春だった。川沿いと言っても、そのまま河口が海につながっているから、海沿いの漁港でもある。残念ながら昼過ぎで市場は終わっていたが、トラムではあまり嗅いだことのない香辛料のにおいや、少し薄手の布など、目を引くものがあちこちにあり、さっそくおみやげに買って帰りたいほどだった。


しかし、旅は長い。ここで買い物をしていたら荷物になる。千春は長持ちしそうなぐるぐる模様のお菓子を買うだけで我慢した。プレッツェルを手のひら大に、蚊取り線香のような形に焼いてあると言えば想像できるだろうか。それを割れないようにいそいそとカバンにしまう。


そのお菓子を買うより、きれいなハンカチやスカーフのほうが荷物がかさばらないよと言いたいのを誰もが我慢していた。


千春のうきうきしたようすが注目を集めているすきに、真紀はさっと自分の買い物を済ませた。ドワーフ領を旅行中によくやったことだ。


そうして飛行船まで帰ると、


「今度は私が操縦を代わりましょう」


とエドウィがハンドルを握った。エドウィには少しばかりハンドルは高い位置にあるのだが、操縦そのものはエアリスに叩き込まれている。


「俺も隣、いいか」

「ナイラン、ええ、この機会に操縦を覚えましょうか」


エアリスは千春の横の席をとり、その横に真紀が座り、向かいにグルドとカイダルが座り、ちょっと離れてヴァンが座り、楽しく話をしていたが、やがて千春も真紀もうとうとし始めた。


エアリスはそっと千春が自分にもたれかかるように調節する。


「叔父上……」

「そんなところだけ年の功かよ」

「うらやましいか」

「なっ、俺は別に……」


カイダルはそっぽを向いた。真紀は千春にもたれかかっており、何ともかわいらしいとエアリスは思う。


「グルドも私ももう、好きに生きてもかまわぬ年だと、そうは思わぬか」


エアリスは愉快そうにカイダルに話しかけた。


「確かに、グルドはわれらの誇りだし、エアリス、あんたも尊敬に値する人だ。しかし、今まで好きに生きてこなかったような言い方は間違っていると、俺は思う」


エアリスはくつくつと笑った。


「では今まで好きに生きてきたから、これからも好きに生きさせてもらうことにするよ」


そういって、千春の髪を一筋すくい、その感触を楽しんでいる。


「ちぇ、そんな風に自由には生きられねえんだよ、普通はさ」


カイダルはそういって真紀を見た。好きに生きる以前に、自分だって自分の気持ちがわからないのだ。


「まあ、眠いよな。少なくとも、昨日もベランダに出ていたぜ、こいつら」

「ゲイザーか」

「よく見えなかったが、おそらくな」

「なんと。ミッドランドの城にまでゲイザーがでたとは……」

「こいつらの言うことを信じるならば、今までもいた。ただし、今は聖女がいるから姿を現したということになる」

「魔石はともかく、魔物については資料が少なすぎる」


エアリスはいらだったように言った。そしてふと気が付いたように言った。


「ところでありがたいとはいえ、夜ご婦人の気配をうかがうのはどうかと思うが」

「うらやましいからか?」


カイダルが言い返す。しかし、そこは年の功だ。


「正直に言えばそうだが」


平然と跳ね返された。


「そういえば、お前さっき何を赤くなってたんだ?」

「おい、馬鹿、ナイラン、チハールが起きたら何を言われるか……」


カイダルは腰を浮かせて慌てた様子だ。


「ぐっすりだぞ」


エアリスが隣を確かめる。


「その、真紀が、水着を着て泳ぐのだと、そういうから」


カイダルがしどろもどろにそういった。


「水着?」

「泳ぐ?」

「こう、体にぴったりとした、ここまでの服だとか」


カイダルは手で腿のところを指し示す。


「まさか、その下には何も?」

「エドウィ、前を見てくれ!」

「ああ、はい、ええ?」


いつの間にかエドウィも聞き耳を立てていた。


「上下別で、おなかを出すものもあると聞いて」

「「「おなかを?」」」


全員の目が真紀のおなかにいった。そして真っ赤になって目をそらした。グルド以外は。


「若いということは、面倒なことだの。おっと若くないやつもいたか」

「うるさい」


真っ赤なエアリスはそう言い返した。ナイランがぼそっと言った。


「チハールが起きていなくて本当によかった」


それだけは確かだ。


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