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聖女二人の異世界ぶらり旅  作者: カヤ
エルフ領編

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長くて暗い夜の決意

章を作ってみました。

エルフ領に行くことが求められているらしいと言っても、まだ正式に同行を求められたわけではない。とはいえ、旅に使ったかばんはそのままだ。着替えだけ新しいものに替えればいいのだから、焦らなくても大丈夫だ。明日になってからでいいと気楽に考える二人だった。


「ねえ、真紀ちゃん、ここ城だけど」

「やっぱり、気になるよね」


旅の後半、毎日やっていた習慣だ。まさか人間領に、しかも城に来るわけもないと思うが、千春と真紀は下にいる警護の人に見つからないよう、そっとバルコニーに出て、思い切って直接座り込んだ。


夜の城は、ところどころに魔石を使った灯りが灯されているけれど、それも真夜中になる前に消してしまうので、もう外はほとんど真っ暗だ。バルコニーの手すりの下から遠くに見える街並みも、港の灯台が海を照らしているのを除くとほとんど灯りもない。海だけがかすかに月の光をはねかえしているようだ。


「この世界、夜は暗いね」

「うん、どこに行っても暗い。でもこの暗さが落ち着くんだよね」


真っ暗な夜は、今は本当は危険だから寝る時間なんだよと改めて教えてくれているようだ。


「そんな時間に起きている私たちですが」


という千春に、


「ですが」


と真紀も答える。夜空を眺めながら。


「ああ、ここにもいたんだねえ」

「前は気がつかなかっただけなのかなあ」


小さい、小さいゲイザーが目の前にやってきた。両手で丸を作ったくらいの大きさだ。


「どこから来たの」


話しかける千春に、ゲイザーはこう答えた。


暗いところ。時々水がいっぱい。早く走るものについてきたら広いところに出たんだ。


千春と真紀に会えた喜びの他に、不安と、好奇心が強く感じられた。いつも二人のもとに来るのは疲れたゲイザーだったから、元気なゲイザーはなんだか珍しい。


「いろいろなものを見たの?」


千春が静かに聞く。


いろいろなもの。でもまだ足りない。


「なら、どうしてここに来たの?」


いいにおい。安心する。そうしてくるっと一回転した。


「「かわいい」」


くるくるするゲイザーを見てしばしなごんだ二人だった。


じゃあね。


ゲイザーはしばらくすると飽きたのか背を向けた。背中って真黒なんだな、と千春は思った。そして尋ねた。


「魔石に戻らなくていいの?」


いい。まだ見たいものがあるんだ。


「人にくっついてはだめよ」


どうして。あんなに温かそうなのに。


「あなたがくっつくと、人は弱ってしまうの。弱ったらいろいろなものが見られなくなるんだよ」


消えてしまうのか。


「くっつきすぎるとね」


それはよくない。


ゲイザーは何か考えているように揺れている。


「疲れたら、おいで。魔石にかえすから」


わかった。


そう言うとゲイザーはすうっと夜空に紛れ込んだ。


「かわいい」


真紀が両方のほほに手を当ててほっこりしていると、千春が隣でこう言った。


「かわいかったけど、ここは地底ですらない。弱ってふらふらのゲイザーだけなら心配ないかもしれないけど、ぴちぴちのゲイザーもうろうろしているのって問題ないのかな」

「ぴちぴちって。あのもやっと君のどこらあたりだ」


真紀はクスッと笑って言った。


「でも、今までだっていたのに、誰も気づかなかったし、何も問題なかったんでしょ?」

「今までと同じなのかな」

「千春?」


真紀が隣を見ると、千春は難しい顔をして夜の空を見つめていた。


「聖女が二人。瘴気が濃い。ダンジョンが騒ぐ。地底湖に魔物。これ、全部今まではなかったことじゃない?」

「確かに。気づかなかったのではなく、今まではなかった。むしろ今なにかが起こっている、千春はそう思うの?」

「そこまでは言いきれないよ。でも、今日のゲイザーはいつもと違ってた。それがすごく気になるの。私たち、危険な魔物をそのまま町に放置したってことかもしれない」

「千春……」

「だからといって、強制的に魔石に還すこともできないし」


その日はもう、魔物はやって来はしなかったが、千春も真紀も去っていった魔物が気になってなかなか部屋に戻る気になれなかった。


つまり、当然寝るのも遅かった。


とんとん。とんとん。


とんとん。とんとん。


「マキ様、チハール様?」

「ん……はっ! 今何時? 時計はないや、セーラさん、どうぞ!」


セーラの声に真紀が飛び起きた。


「千春、千春!」

「うーん」

「起きて! エルフ領!」

「はっ! はちみつ酒!」

「そこか!」


千春もなんとか起き上がった。どうぞの声で入ってきたセーラがくすくすと笑っている。


「旅から帰ったばかりですもの。寝坊くらいしかたありませんわ」


それでも、食事の支度をしながら何気なくこう言う。


「それでマキ様、チハール様、帰ってきた次の日に聖女様をまた旅に連れ出すと言うようなお話が出ているとうかがいましたが、セーラの聞き違いということは……」


怒ってる。怒ってるよセーラさん。真紀と千春はちょっと困って顔を見合わせた。


「私たちも昨日の夕ご飯の後聞いたばかりで、詳しいことは何も聞いていないの」


まだ頭が働いていない千春ではなく、真紀が答えた。


「何もかもエルフ領で用意するから、聖女は身一つでいいなどと、あのエルフの小童が……」


いや、小童って……おそらく150歳は超えているのではないかと……宰相補佐って言ってたし……。


「南領にも一度寄るというのに、そのことなど何も考えていないのです、あの者は」


南領にも寄るんだ、そうか、食べ物が楽しみだなあ……。


「伯父として甥をたしなめる立場のくせにあの駄エルフが、おそらくチハール様についてきてほしくて何も止めなかったに違いないと思うとまったく!」


駄エルフって言った? 白の賢者を? 真紀は対応に困って千春を見た。


寝ている。


「千春!」

「うん? はっ」

「エルフ領!」

「はちみつ酒……」

「もう! 準備しないと置いていくよ!」

「はい! 起きます!」


真紀はため息をついてセーラさんにこう言った。


「セーラさん、いずれは行かなくてはならないんです。ドワーフ領から帰ってくる間、十分休めましたし。無理はしないって約束しますから」


セーラはしかたがないと言うように少し眉を下げた。


「マキ様とチハール様はいついかなる時も問題ないのですよ。しかしあの粗野な王子方やわがままなエルフたちがもう……」

「大丈夫。いつも助けてくれてるから、心配しないで。それに、行ったほうがいい気がするんです」


昨日、魔物の問題にはもう少ししっかり立ち向かおうと、千春と決めたんだから。真紀は千春のほうを向いた。決意の確認のために。


「ねえ、ちは……起きて」

「ひゃい!」


昨日のかっこいい千春はどこに行ったのか。真紀はちょっと頭を抱えた。







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