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聖女二人の異世界ぶらり旅  作者: カヤ
帰還編

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帰還4 専用列車で行こう

そうしてノワールにたどりついたとき、真紀と千春は兵は船で人間領に渡るのだと知った。


「行きは急ぎだから列車を使ったが、百人以上の兵なら船のほうが安い」


ということで賄いのパウロたちも含めて、兵は船で三日かけて戻ることになった。真紀と千春のお仕事はしばらくお休みとなる。


「船もあったんだねえ」


千春が乗りたそうに船を眺める。行きも船で逃げたらばれなかっただろうか。いや、むしろノワールでつかまっていただろうな。列車でよかった。


「いくら浮遊石があるとはいえ、列車では運べるものに限りがあるし、やはり運賃が高いですからね」


エドウィが解説してくれる。


「時間がある時なら船もよいでしょうが、今回はエルフ領にも急がなくてはならないので、仕方ありません。マキとチハールも、エルフ領に行くか行かないかは別として、まずはミッドランドに一緒に戻りましょう」

「そうする」


真紀がきっぱりと答えた。真紀は考えていた。千春は船を憧れの目で見ているが、考えるポイントはそこではない。列車と船、どちらが人魚の被害を防げるかだ。このまま放っておいたらきっと、船に乗って島に行きたかったとか、また夢を語り始めるだろうが、千春は自分のさらわれやすさを甘く見過ぎている。


確かに、人魚は鏡の池では絶妙なタイミングで千春を救ってくれた。それは感謝しているし、落ち着いたら人魚の国へ訪ねることになっている。


しかし、それは落ち着いたらだ。少なくとも、まだ三領のうち一つしか落ち着いていないではないか。そんな中海なんか横切ったら、きっと拉致されるに決まっているのだ。


真紀はまじめに考えた。それなら滞在時間が一時間と決まっている人魚島経由で行くのがいいだろう。


そんな真紀だったが、たまたま千春が近くにいただけ、たまたま千春が湖に落とされただけで、人魚が聖女二人を等しく愛していることには気がついていないのだった。つまり、真紀だって危ないのには変わりがないのである。


「ねえ、真紀ちゃん、船はさ」


千春が夢見るように言い始めた。


「うん、千春あれでしょ? 学生のころ船で本当は離島に行きたかったとかそういうことでしょ?」

「何でわかったの? そうなんだよ、そもそも昆布はねえ」


そう語り始めた。まあ、船じゃなくて昆布の話ならかまわないだろう。どちらにしろ、船では行かないのだ。ふんふん聞いているうちに今度は船でサトウキビの島に行く話になった。やっぱり、サトウキビも昆布も千春には重くて無理なんじゃないかなと真紀は思った。


「さあ、もうすぐ出発しますよ」

「「はい」」


期せずして専用列車だ。結局専用列車に乗ることになったと感慨深い。グルド、エアリス、王子、聖女関係者以外お断りとなる。


「あれ、チハールは?」


エドウィがきょろきょろした。あれ、サトウキビの話をしていたはずなのに。


「チハールなら売店にいたぞ」


見送りに来ていたサウロがそう言った。サウロもサイカニアも、列車とほぼ同じ速さで空を飛ぶことができる。聖女二人をここで見送ったら、そのまま人魚島に向かうのだ。


「たまには列車に乗ったらいいのに」


エドウィがそう言う。


「何度も言っているだろう。列車に乗るのがいやなのではない。地下に入るのがいやなのだと」


どうやらはっきりとした住み分けがあるようで、鳥人は地面の下は苦手らしい。落ち着かないのだそうだ。


「それよりいいのか。チハール。さっきから民に囲まれているが」

「な、それを先に言え!」


千春は果物のジュースを買おうとしていただけなのだが、「聖女様だ!」とみんなに囲まれてしまっていたのだった。


「ふう、大変な目にあったよ」

「ジュースくらいこちらでご用意していますとも。チハールとマキの好むものくらいわかります」

「でもね、エドウィ、やっぱり売店で買うのが旅の醍醐味というかさ」

「では一言、一言声をかけてからにしてください」

「うん、わかった」


千春はエドウィに説教されてちょっと小さくなった。


「千春、怒られてやんの」


真紀がからかう。


「じゃあジュース二つ買ってきたけど、真紀ちゃんはいらないんだね。えーどれどれ、ドワーフ領にしかないポラポラの実で作った新鮮なジュースだって」

「ほう、そんなものまでビン詰めで発売されるとは。なかなかやりおる」

「え、グルド、それっていい意味で?」

「そうだぞ、マキ。ポラポラの実とは栄養たっぷりなのだが酸味が強くてな、長く食用には向かぬとされていたのだが、昨今甘味料も安価になり、ジュースとして売り出したらこれがまたおいしくてな」

「で、でもエドウィがジュース用意してくれてたって言ってたし」

「すみませんマキ、ポラポラのジュースまではちょっと」


エドウィがすまなそうに言った。千春はビンの首を持ってこれ見よがしにぶらぶらさせている。


「千春、からかって悪かったよ。ジュースちょうだい」


真紀は潔く謝った。女にはプライドより大切なものが確かにある。ごめんの一言で新製品のジュースが手に入るなら安いものだ。千春が胸を張る。


「ふふん。まあいいでしょう」


しかし、あきれたナイランとエアリスに、


「たかがジュースでお前らは……」

「勝手な行動はだめですからね」


と結局説教された。


専用列車に乗り込むと、その内装は前回乗った時とあまり変わらないものだった。


「専用っていうから、もっとこう、派手派手しいものかと思ってたよ」


そう感想を述べる千春に、


「もちろん、そういう物もありますが、マキやチハールは好まぬかと思ったので。それにもともと仕事ですからね」


とエドウィ。


「なるほど。落ち着くよ」

「ほんと」


それから、前回の列車の話などを面白おかしくエドウィに聞かせてあげたのだった。


「そうしてね、第二広間に来た時にやっぱり、視線を感じたんだよ」

「視線ですか。マキもチハールもそう言うけれど、私は魔物の視線は感じたことはないですねえ」

「俺もだ」

「俺も長年冒険者をやっているが、そんなことはない。視線を感じていたら狩りも楽だろうが……」

「うーん、狩りかあ、まあ、それがこの世界のシステムだから仕方ないよねえ。あれ、真紀ちゃん、どうしたの下を向いて。あ」

「チハール? どうしたのです? 急にグルドのほうなど眺めて。マキ、酔ったのですか?」

「いや、違くて」


その時、カイダルとナイランははっと腰に手をやった。


「前回の後悔が生きてねえ!」

「毎晩の見張りでわかってたことだろうが! バカか俺ら!」


列車の窓からは、やっぱりゲイザーがのぞきこんでいたのだった。



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