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聖女二人の異世界ぶらり旅  作者: カヤ
帰還編

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帰還 1ドワーフの城

千春:聖女。真紀とは同期で仲良し。25歳。

真紀:聖女。千春とともに日界に召喚される。25歳。

エドウィ:ミッドランドの王子。18歳。

エアリス:エルフ。白の賢者。300歳越え。

グルド:ドワーフ。列車の開発者。300歳越え。

カイダル:ドワーフ領第三王子。冒険者兼鍛冶師。

ナイラン:南領第五王子。冒険者兼カイダルのお目付け役


普通の社会人だった真紀と千春は、日界の神に勝手に召喚され瘴気の浄化をすることになった。いるだけでいいと言われ大事にされるが息苦しさから城出。


変装してのんきに旅をするがさらわれかけたりさらわれたりして結局見つかり、結果としてダンジョンの浄化を手伝うハメに。


そこから城に帰るまでのお話です。

「真紀ちゃん、平和だねえ」

「ほんとだね。こないだまでのことが嘘のようだよ」


真紀と千春は城の自室のバルコニーから庭を眺めながらそう語り合った。


思えば順調だったお忍び旅に暗雲が立ち込めたのは、さらわれてグロブルの町長の所に連れていかれた時だった。


これを聞いたら、エドウィなら、


「いや、そもそも城出をしたこと自体順調じゃないから」


と言うに違いない。カイダルなら、


「人魚にさらわれそうになった時だよな」


と言うだろう。ナイランなら、


「鏡の池で、ゲイザーに襲われたよな?」


と言うかもしれない。しかし、真紀と千春にとっては、町長ほど気持ち悪かったものはない。もちろん、恋愛は自由だ。しかし、それは同好の士と同意の上行ってほしいものである。


「まあ、ダンジョンがあふれたのは仕方ないとしてさ」


真紀はそう言うが仕方ないことではない。今度は千春がこう言った。


「まあ、解決したしねえ」


その後倒れて丸一日寝ていたことはどうでもいいらしい。のんきな二人である。


「結局、ドワーフのお城に行ったしね」

「カイダルの『うち』ね。何が俺んち来ないかだよ! 城じゃん!」


真紀は片手を振り上げて怒りを表明した。千春は、


「まあまあ、アレで王子様だから、プッ」


と口に手を当てた。


「隠しきれてないよ、千春」

「ふふ」


まあ、賄いの面接で城自体には行ったことがあった二人だったが、今回は城の中身が見られる。その程度の気持ちだったのだが。


賄いの仕事をそのまま続けようとしたら、聖女は公式には王族より上であると説得されて、結局謁見の場に出る羽目になったのだった。


エドウィに続いて、千春はナイランに、真紀はカイダルにエスコートされながら王の前に出る。例の竜宮風の重ね着をしている二人が入って来ると、広間には感嘆の声が上がった。千春は前回領都に来た時にも思ったが、ドワーフはおしゃれに目がない。しかし単一民族だから、流行もそう変わるものではない。だからこそ、ちょっと変わったものがあると大騒ぎなのだ。


人間族のナイランと千春が登場したときにも、いかにもお似合いだと好意的な視線が集まった。ドワーフのお城に少年のころから預けられていたナイランはみんなにかわいがられていたし、カイダルのお守りをするようになってからはいっそう重要視されていた。それでも寿命の違う人間族とは、火遊びはしても、本気で付き合う女性はいなかった。


多少身長は違ってでこぼこしていたとしても、やはり人間族には人間族がよい。うなずき合うドワーフの面々は、次にカイダルが真紀と並んで歩いて来た時は息を飲んだ。なんとお似合いか! カイダル様!


そもそもドワーフの中では人間族に及ばないにしても背の高い、しかもがっしりしているカイダルには、どんなドワーフの女性も小さすぎた。わずかにカイダルより背の低いだけの真紀は、ドワーフから見たら恐ろしいほど華奢な体つきで、その折れそうなほど細い腕をそっとカイダルの腕に添えている。


いいんじゃないか。ありだな。素敵ですわね。そんな視線が飛び交っていた。


もっとも、真紀と千春はそれどころではない。ミッドランドのお城でも、静かににこにこしていればよかったから、こういった公式の場は初めてと言ってよい。緊張してやや硬くなっていた。そんな真紀を励ますかのように、添えられた手をカイダルがポンポンと叩く。真紀が大丈夫とカイダルのほうに顔を傾ける。


「大した事ねえ、緊張すんな」

「そうだね、柄じゃないね」


そんな仲間同士の気軽なやり取りは、城のみなさんの頭の中では、


「マキ、俺がついてる」

「まあ、カイダル、頼もしいわ」


と変換されていたことを真紀とカイダルが知る由もない。


緊張してちょこちょこと歩く千春を心配し、


「絨毯に引っかかって転ばないかな、こいつ」


そんな風に千春の頭を眺めるナイランは、城のみなさんの頭の中で、


「この小さな姫さんを、俺が守りたい」


と変換されていることをまた知る由もないのだった。


エアリス、グルドもそろい、ダンジョンの魔物を減らし通常レベルにまで戻したことを感謝され、謁見はあっけなく終わった。その後は、兵と冒険者、それから上層部の者と二つに別れて慰労会となった。兵が気兼ねなくパーティを楽しめるようにという配慮だった。


当然兵たちのところに行こうとする真紀と千春とカイダルとナイランは、もちろんエドウィにつかまって、


「私にだけ社交を押し付けるとかないですよね」


といい笑顔で王様のもとに引っ張っていかれたのだった。そこで真紀と千春のこの状態である。


カイダルの父、母、兄1、兄2、兄1奥さん、兄2奥さん、兄1子ども3人、兄2子ども二人。その他お付きの人に親戚。皆カイダルのようにがっしりしたドワーフに囲まれているのだった。


「これがカイダルが探しまわっていたと言う人間か」

「違いますわ。聖女様ですよ」

「もちろん、聖女であることは大事だが、それより大切なのは、やっとカイダルも執着するような相手ができたということだからな。そっちが大事だろう」


兄とその奥さんと思われる人が話す横で、


「なあ、聖女様ってほっそいのな、何食べてんのさ」


と話しかける、これは二番目の兄の子どもだろうか。


「聖女様、そのご衣裳なんですけど」


とキラキラした目で話かけてくるのは、一番目の兄の娘だろう。見た目は真紀たちと同年代である。というか、少しは年上に見える王と王妃、そして小さい子どものほかは、カイダルの兄なのか甥なのか姪なのか、さっぱり区別がつかない。長命種の面倒なところである。


真紀と千春はカイダルの運命だとか、ナイランがやっとだとか言う不穏な言葉に物申したかったが、もはやどこを見てどこに話しかけてよいかわからず、当然テーブルの上の酒にも食べ物にも手を出せず、たくさんの親しげなドワーフに混乱するだけでパーティが終わってしまったのだった。


二人の顔に張り付いた営業スマイルは最後までしっかり残り、「かの国の聖女は静かでおしとやか」という評判を広めて終わり、後に「それ誰のこと?」と真紀と千春が驚く羽目になるのであった。


「つ、疲れたよ」


真紀は客室のベッドに倒れ込んだ。


「真紀ちゃんが弱音吐くなんて、めずらしい」


千春もソファにどさっと座った。真紀はベッドにうつぶせのままぶつぶつ言った。


「体力と社交は別物だからね。カイダルめ、ちょっと社交したらおいしいもの食べ放題って言ってたのに!」

「城はさすがに別物だったねえ。さ、お茶でも入れますか」


客室にはお湯を沸かして自分でお茶を入れられる設備がついていた。と言っても魔石で温まる湯沸かし器だ。


「さすがドワーフ領。こんなところにも工夫があるよ」


千春はのんびりお湯を沸かし、いくつか置いてある茶葉のにおいをかいでみている。


「真紀ちゃんが疲れてるから、匂いの強いものはやめようか」

「ありがとー。今花の香りのやつとか飲めないわー」


とんとん。真紀が顔をあげる。


「あれ、お客さんだ。誰だろう」


扉のところで声がする。


「エアリスとグルドだ。ちょっといいだろうか」


真紀と千春は驚いて顔を見合わせた。なんだろう。でもとりあえず、扉をあけましょう。




このところ思ったより忙しく、執筆の時間がとれません(泣)。待たせないと言っておきながら申し訳ない。8月半ばまで1人デスマーチ。

とりあえず、書いた分だけでも週1火曜に出していきます。城に帰るまでの話です。


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