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聖女二人の異世界ぶらり旅  作者: カヤ
ドワーフ領編

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悪人にだって俺はなる!

「ダンジョンの魔物を押さえきれないから民を避難させろだと! 無能め! 何のためにわざわざ人間領から来させたというのだ!」


エドウィからの使者に向かって町長はどなった。ひと月近くかけてわざわざ旅をし、さっきまでダンジョンで戦っていた、ここまで必死に魔物をかいくぐってきた使者はその物言いに怒りを隠せなかった。


「命をかけて寝る間を惜しんで戦っているのに、その言い方はありますまい!」

「ふん、それが仕事だろう」


歯牙にもかけない町長に、聞いていたグルドがこう言った。


「ドワーフ、ミッドランド、南領、これらの王族を失ったとあっては、責任の追及は免れまいな」

「な、私は何も」

「何もしなかった町長として、後世に名を残すつもりか」

「くっ」

「ダンジョンに助けに行けと言われているのではない。民を外出させないよう触れまわるだけのことであろう。ここ何日かのダンジョンの不穏なようすは、冒険者からすでに町に伝わっているはず。町長が触れを出せば、従う者も多かろう」

「それは」

「この状況を自分にとってプラスにするか、マイナスにするか」

「……民に触れを出す。まず、各地区の責任者を集めろ」


町長が動いた。


そこからは早かった。もともと有能だから長いこと町長をやってこられたのだから。各地区の責任者は、グルドの言う通り不穏な動きを感じ取っていたし、もうすぐ夜になる。家に閉じこもっていろと言うことに大きな問題はない。問題は何日続くかということだが、それはわからないとしか言いようがない。


また、町に残っていた冒険者は強制的に集められた。


「町長、ダンジョンのそばに何か大きな建物や広い場所はないのか。おそらく兵は疲れ果てて帰って来る。けが人も多かろう。そして、もし魔物が外に出てくればそのまま戦闘が始まるかもしれぬ。灯りをともし、戦いと休息の準備を」

「ダンジョンの入り口は何もない広場になっている。衛兵用の簡易宿舎と休憩所があるからそこはどうか。ただし100人は入らないぞ」

「冒険者も入れたら200人を超えるか」

「集めた冒険者はダンジョンの入り口で待機。時間を稼いでいる間に、戻ってきた兵士の半数は町へ移動させよう」


指示を出し終えたその時、館の奥から騒がしくなった。


「なんだ、この非常時に!」

「あれは、マキ、チハール!」


グルドは思わず叫んだ。やっぱりいた。だけど何をやっているんだ? 少年を引きずって。



その真紀と千春はどうやって抜け出したか。


「食事だ」


少年は夕方に食事を持ってきて、そのまま帰ろうとした。


「ちょ、待って待って、食べ終わるまで待って」

「何言ってるんだ、いまダンジョンから魔物が出てくるかもって大騒ぎなんだよ。いそがしいんだ。鍵は閉め忘れて行くから、それでいいだろ」

「ちぇ、しょうがないなあ、千春」

「うん」


千春は食事についていたパンをとりあげハンカチに包むと、腰のポーチに詰め込んだ。ポーチを取り上げられなくよかった。


「非常食確保でーす」

「よし」


そこからは素早かった。真紀は食事についていたナイフをさっと取り上げると、少年の後ろに回り込み首に手を回し、ナイフを目の前にかざした。その間に、千春は残りのナイフとフォークを手につかんだ。


「さあ、入口まで案内してもらうよ」

「な、裏口なら教えただろ!」

「そんなのすぐに見つかっちゃうじゃん。正面の入口に連れて行け」

「それこそ見つかるだろ!」

「だ、か、ら、お前が人質なんだろ。さあ、行けよ」

「う、あ」


右手にナイフとフォークを握りしめた千春が、左手でそっとドアを開ける。


「おーけー」

「よし、さあ、行け」


冷静に考えると、同じくらいの身長なら少年のほうが力が強いから、逃げ出せるはずだ。しかし、すっかり真紀の雰囲気にのみこまれている少年は、恐怖で抵抗する気が起きなかったのだ。


「おい、お前ら何を、ダナム?」

「ちっ、見つかったか、おい、こいつをけがさせたくなかったらそこをどけ!」


そうしてやっぱり見つかってしまった。脅す真紀の声で、不審に思った家人が集まってきた。


「何を、お前ら!」

「あんたのとこの変態に閉じ込められていたんだよ! いいから玄関まで案内しろ!」


使用人たちはちょっとひるんだ。お館様のご趣味は知っているからだ。


「しかし、玄関にはお館様が」

「この子がどうなってもいいのか!」


真紀は少年の首をさらに締めあげ、千春がナイフで周囲を威嚇する。


「わ、わかったから」


そうして遠巻きにされながら玄関まで移動した。


「玄関は?」

「あ、あそこだ」


よし、ここからは一気に抜ける! 少年は脅されて協力したことになる。目撃者は十分だ。


2人は目を合わせ、一気に駆け抜けようとした。それで初めて、悪役作戦成功となる。




「でもさ、脅して逃げても捕まっちゃったらどうする?」


悪役になるシナリオを千春から聞いた真紀は、失敗した時のことを指摘した。


「その時こそ、この紋所を使うべきでしょ」


千春は額を指した。


「聖女のしるしか」


二人はちょっと黙り込んだ。


「「かっこ悪い」」

「なるべく避ける方針で」

「それな」


千春は意見を引っ込めた。


「捕まらないように、人の多いところ、明るいところに逃げよう。それでさ、ミッドランドの人はいますか!ってさけんで、とにかく人目を集めるんだ」

「わかった。けどできるかな、悪役」

「やるしかない」


そうして、ノリノリで悪役を演じたのは本番に強い真紀だったということになる。一気に駆け抜けようとした時、グルドを見つけた。しかし、もう作戦は変更できない。


「人の多い方に向かうから!」


グルドに叫び走り出す二人だったが、


「待て、外は危険だ! マキ! チハール!」


というグルドの声は二人には既に届かず、あ然とする館の人々を振り切って、外に飛び出したのだった。


しかし人はほとんどいない。それはそうだ。町長の指示により皆引っ込んでいる。唯一、人気があるのは……


「千春、坂の上だ! そこに向かおう!」

「わかった!」


二人が向かった先は、冒険者が集められ、灯りがともされたダンジョン前の広場だった。


ちょっと立て込んでいまして、何日か更新お休みになります。

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