花摘み
ドワーフの女の子の後をついて行くと、畑は案外ジャングルではなかった。目の前には畝に沿って花の下にきちんと空間がある。しかし真紀にはその空間は若干低かったようで、
「いてっ、いって」
と聞こえてきたから何かが当たっていたのだろう。少し行くと、すぽっと広い場所に出た。ドワーフの人たちが三々五々集まって、のんびりしている。真中には大きな鍋が甘いにおいをさせており、すでに大きな鉄板が用意されている。
「おおーい、労働力確保ー」
女子が叫ぶと、
「よくやった! なんだ、人間のこどもか」
とわらわらと休憩中のドワーフが集まってきた。
「兵たちにくっついてきたんだけど、賄いの日雇いだから無職になったんだって。ちょうどいいから手伝ってもらおう」
間違ってない、その説明は間違ってないんだけど、なにか釈然としない真紀と千春だった。
「兵が帰る時はまた雇ってもらえるのかい」
「はい、どのくらいになるかわかりませんが」
「ふむ、こちらはここ5,6日ほどが収穫の勝負なんだよ。手伝ってくれるとありがたい」
「初めてですが」
「大丈夫、花を摘んで、籠にぽいって入れるだけさ」
「それなら、なんとか」
「よし、契約! あれもってこい!」
あれとは、大鍋のスープだった。紫色のそのスープは、スイートポテトのようなにおいがした。
二人がおそるおそるカップを受け取ると、
「あれ、甘芋のスープ、知らないのかい」
と言われた。ジャガイモのスープなら知ってるけど。
「まあ、食べてごらん」
スープにスプーンを入れると、平たく潰した小さなお団子が出てきた。ふうふうしてはむっとかじると、耳たぶの柔らかさのそれはぷりっとした弾力があるのにさくっと噛みきれた。いももちのようなそれに、おしるこのような甘いスープがからみつく。
初夏なのに熱くて甘いスープを、はふはふと食べつくした。はあ、満足。
「これが午前中に、午後にはふかしたまんじゅうがつくんだぜ」
「「やります!」」
「おかわりは」
「「いります!」」
もっとも二杯目は少し胸やけした。
「あたし、スティラ。あんたたち、名前は? ケネス? ライアン? さ、収穫の仕方、教えるわよ」
ドワーフの女の子はスティラというのだそうだ。真紀と千春はさっそく籠をしょって畑についていった。
「あんなこぎれいな人間の子どもなんて、町長の目にとまったら大変だ」
「せめて昼間は畑に隠しておくのがいい」
「そうだな、収穫の手伝いにもなるしな」
そんな風に後ろで話をされているとは思いもよらない二人だった。
さて、ラベンダーの収穫とは。お花をつかみ、下に向けると、ぽくっと取れるというしくみだった。それを背中の籠に放りいれて行く。ぽくっ、ぽい。ぽくっ、ぽい。花が大きいだけに、かごには割と早くたまる。たまったら広場に戻り、馬車の荷台に籠の中身をあける。荷台がいっぱいになったらそれは担当が納屋に運び、乾燥させる。そう言う流れだった。
ラベンダーの花は下から順番に咲いていく。毎日同じ畑を行ったり来たりしても、次の日には花はまた咲いているのだった。
「何をやってるんじゃおぬしらは」
初日に疲れ果てて帰って来ると、グルドはそうあきれた。
「でもね、なんかこう、やりがいがあるんだよ」
「そうそう。段々と重くなる背中。籠をあけた時に荷台にたまっていく花」
「いやー、いい汗かいたなー」
真紀と千春は交互にそう言った。
「こんな日はあれでしょう」
「グルド、いいかな」
「む、それもまたよし」
「今日はエールで乾杯だ!」
真紀と千春とグルドという組み合わせはのんきを加速させた。エドウィからも、エアリスからも連絡がないのにも気づかないまま、真紀と千春は労働に励み、グルドは宿でのんびりし、護衛は仕方なくドワーフの広場で鍋の番をするのだった。
それでもやっぱり、真紀と千春に気づいた人はいた。
「なあ、あいつら」
「ちょうどいい年頃だな」
畑から帰って来る真紀と千春をじっと見つめる冒険者がいたのだった。
「最後にちょうどいい仕事か」
「ダンジョンは兵が入り込んでろくに稼げねえし」
「やりますか」
「宿に泊って少し観察だな」
そのころエドウィは、ダンジョンに入れないことにいら立ちが募っていた。
「人間国の王族が来ることなどめったにない」
「今後も魔石を通じた親交のために」
と、ナイランと共に連日の宴会だった。昼は近隣の有力者を招いたお茶会だ。
特に外交をになっているわけではないエアリスと、ドワーフの王族なのでそれほど価値がないと町長に判断されたカイダルが、兵を率いてダンジョンに潜ってくれている。
そのダンジョンも不穏だ。
グロブルのダンジョンは広くて深い。だから兵が100人入っても、やりようによっては一般の冒険者もきちんと狩りができる。それほど魔物は増えていた。
しかし、そうまでしてダンジョンに潜りたくない冒険者は、町のそこここでたむろしている。
半々で潜らせようとした兵も、結局全員で出ることになってしまった。
そして四日目の今日も、有力者を招いた宴会というものに参加している。
「そろそろ潮時だな」
「もう十分だろう」
そうして眺める広間には、砂色の髪をした人間の子どもたちが給仕として働いている。ドワーフにとっては珍しいので、客人には好評だ。
「内陸の子たちだろうか。なぜわざわざここで働いているんだ?」
「少し話をしたが、出身はそうらしい。内陸で食い詰めていたのを、ここに引き取られたそうだ」
エドウィとナイランは、人ごみから離れてバルコニーでそんな話をしていた。
「おやおや、主賓ですからぜひ中へ」
町長だ。250歳くらいだろうか、そろそろ引退する年なのだが、ダンジョンの町をよく発展させ、ずっとグロブルで町長をしてきたやり手だ。
「少々飲み過ぎたようで、涼んでおりました」
「おや、それはいけない、あちらにあずまやがありますぞ。案内しましょう」
町長はそう言うと、エドウィの腰に手をやった。エドウィはさりげなく避け、
「さすがに、そろそろ我々も本来の目的に戻らねばなりません。もてなしはありがたいが、明日からはダンジョンへいきます。歓迎感謝いたします」
ときっぱり言った。
「それはそれは、せめてナイラン様だけでも」
「いえ、それこそ私の仕事はダンジョンにある。グロブルのためにも、明日からは」
「そうですか、残念ですが仕方あるまい。せめて今日だけでもお楽しみください」
「「感謝する」」
町長はまた室内に戻って行った。
「正直にいっていいか、ナイラン、どうにも気持ち悪いのだが」
「お前もか、初日にもう少し幼いころにおいでいただきたかったとつぶやいていた」
何かが背を這いあがってくるようだった。
「まさか、給仕の子どもたちは……」
「おびえた様子もないから大丈夫だとは思うが……」
二人は夜の庭につぶやいた。
「まさか魔物のほうがましだと思うとは」
「明日こそダンジョンに。絶対に」
そうしてマキとチハールを連れてミッドランドに戻るのだ。
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