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聖女二人の異世界ぶらり旅  作者: カヤ
ドワーフ領編

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鏡の湖とダンジョン

次の日の朝、こっそり兵にまじって真紀と千春からスープを受け取ろうとしたエルフが、ミッドランドの王子に連行されていった他は、何事もなく、一団はエピナーの町から無事に次の目的地に出発した。


「こっそり受け取るとか無理でしょ」

「だいたい2メートル近くある身長だけでも目立つのにさ」


千春と真紀は自分たちのことは棚に上げてエアリスにあきれるのだった。


「でもさ」

「うん」

「元気になってよかった」

「うん。顔が明るくなってた」


大事な人に隠し事がなくなって、本当に良かった。


ラポンドの町からエピナーを経由し、次に向かうのはシエルの町だ。シエルは、エピナーからかなり高い峠を越え、深く下った盆地にある。この町にも小さいダンジョンがあり、そのダンジョンからわき出たと思われる湖が広がっている。その手前に、にぎやかな街並みが広がっていた。


それは峠の上から見ると、まるでお椀の底の鏡のように日差しをはねかえしている。真紀と千春は荷馬車の上から、鏡がしだいに目の高さになって行くのをじっくりと楽しんだ。


「今晩は魚料理かな」

「お、ライアンは魚料理が好きか」


千春がつぶやくとパウロが聞きつけてこう言った。


「好きです。でもノワールからこっち、あまり食べてないので」

「ノワールでは何を食べたんだ?」

「魚のフライを! こう、パンにはさんで」

「いいよな、あれ。ライアン、よく聞けよ? このシエルの鏡の湖ではな、なんと、海の魚がとれるんだぜえ」

「え、でもここ海から10日位かかりますよね」

「そうなんだよ。しかもダンジョンからわき出る水がたまっているはずなんだが、どうも地下で海につながっていると言う噂があるんだよ。なんでもな、月夜に時々人魚が出るらしいんだ」

「人魚!」

「わくわくするだろ?」


むしろぞくぞくするよ! 腰のポーチのうろこがシャランとなったような気がした。


「なんだよ、二人とも変な顔して。人魚はロマンだろ」

「確かにきれいな人たちでした」


ただちょっと海に連れ去られそうだっただけです。


「伝令を出して夕食用に魚の切り身を買ってるからな、今夜は魚のフライだぞ!」

「やった!」


今日の夕食が楽しみになった千春と真紀だった。


峠の移動は見えるほどには進まず、シエルについたのはすでに夕方だった。賄いの面々は大急ぎでスープを仕込んだ。今日は途中の町で仕入れた干し肉とキノコと小麦の麺のスープだ。すべて乾燥したこれらの材料をさっと煮込んで塩で味付けする。仕上げに刻んだ香草を散らす。その間に、すでに切り身にしてもらった鏡の湖の魚に小麦をまぶし、鍋に浅めに油を張り、魚を揚げ焼きにする。


揚がった順から兵にどんどん配って行く。移動で疲れた体を温かいスープと熱々の魚のフライがほぐしていく。


真紀と千春は、行儀が悪いけれど、揚げ焼きにした魚をパンにはさんでぎゅっとつぶしながら、


「今日はだれかが来ると思ったけど、来なかったねえ」

「サウロたちも見えないねえ」


と今日ものんきにご飯を楽しむのだった。


そのころ首脳陣は町長に招かれ、真剣な話し合いをしていた。


「グロブルに急ぎたいのはもちろんわかります。でも、グロブルで起きていることは、当然このダンジョンでも起きているのです。どうか一日でよいから、兵をこのダンジョンにお貸し願いたい」


なんでも、この小さいダンジョンも常になく魔物がわいて、いつもいる冒険者だけでは対処が難しく、深層部の魔物がずいぶん上にあがってきているようだと言うのだ。町長は続けてこう言った。


「ましてグロブルが危機的状況と言うことで、こちらに来る冒険者もむしろ減っているくらいなのです。シエルで魔物がダンジョンからあふれたことはありません。しかし、その可能性がないとは言えない状況なのです。ごらんの通り、シエルはダンジョンのすぐそばに町がある。どうか、どうか検討を」


それを聞いてカイダルは腕を組み、他の面々はそのカイダルに目をやった。


「ふむ」

「カイダル、どう考えますか。ダンジョンのことをよく知っているのはあなただ。ミッドランドの兵は、グロブルのみに派遣されたのではない。ドワーフ領のために派遣されているのです。基本的にはあなたの判断に従おう」

「そうだな、ナイラン、どう思う」

「常にない状況とはいえ、ミッドランドからの兵の派遣ももっと遅れると想定していたことを考えると、日程に多少の余裕はある」

「グロブルはまだ大丈夫と」

「そう判断する」

「ふむ」


カイダルは腕をほどいた。


「エドウィ、一日シエルのダンジョンに兵を借りてもよいか」

「もちろんです」

「では町長、明日一日、できるだけのことはする」

「おお、感謝します」


兵はむしろ喜ぶだろう。移動と訓練だけの半月の日々にはもう飽き飽きしていたからだ。その連絡は夜のうちに行われ、テントの群れにはひそやかな興奮が渦巻いた。


次の日の朝、兵は数人のグループを作ってダンジョンに入って行った。


「真紀ちゃん、そう言えば私たち魔物と言ってもゲイザーしか知らないねえ」

「城でもその勉強はしなかったね」


賄いの面々と半分の兵は町に残っている。


「なんだ、坊主、冒険者になりたくてついてきてるんじゃないのか?」


暇な居残りの兵士がそう尋ねてきた。


「いや、俺たちは親戚を頼ってきただけなんだ。ずっとミッドランドにいて、ダンジョンには興味なかったから」


そう真紀は答えた。


「だから、いざ兵のみんながダンジョンに行くって言っても、ぴんと来なくて」

「そうだな、魔物が金属に弱いって知ってたか?」

「いいや」

「獣人の爪で切り裂くこともできるし、エルフの矢で射通すこともできる。しかし魔物は人を見つけるとすごい勢いで体当たりをしてくるんだ。当たられたやつはケガをするか、無事であっても魔物に力を吸い取られ、弱って死んでしまう。だから直接体で戦う獣人には不利だし、ドワーフは武器の扱いが下手。エルフはそもそも魔物をあまり倒そうとしない。剣で戦える人間が一番魔物を効率よく倒せるのさ。もっとも剣がうまくなければ弾き飛ばされて終わりだがな」

「そうなんだ」


全然知らなかった。


「あの、カイダル、様はどうなの。ドワーフなんだろ」


真紀は気になって尋ねた。


「カイダル様はな、ドワーフでも大柄なだけでなく、めずらしく剣の扱いが巧みなんだよ。ものすごく腕のいい鍛冶師でもあるんだが、やはり剣を使う人の作った剣は違うって評判だよ。あの人がいるから、ドワーフは人間だけに頼ってるって言われずに済むんだよ」

「そうなんだ。じゃあ、強いんだね」

「強い。まず心配ないな」


よかった。真紀は胸をなでおろした。


「今日はうちのエドウィ様も、エアリス様も視察としてダンジョンに入ってるからな。エドウィ様は案外お強いが、エアリス様は剣も弓もからっきしだからちょっと心配だよな」

「そうなんだね」

「あの人はまあ、頭脳派なのさ」


エドウィも、エアリスも慕われてるんだな。


「さあ、交代の時間だ。じゃ、ちょっと行ってくるわ」

「がんばって!」


居残りの兵も交代でダンジョンに消えて行った。戻ってきた兵は成果を上げたらしく、どの人も誇らしげに眼が輝いていた。


「うまくいったようだね」

「うん。エドウィ達はまだかな」


大丈夫と言われても不安は残る。落ち着かない真紀と千春だった。








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