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聖女二人の異世界ぶらり旅  作者: カヤ
ドワーフ領編

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35/169

18歳の気持ち

サウロとサイカニアは久しぶりにマキとチハールと一緒に空を飛んでとても気分がよかった。チハールも城にいた時よりだいぶしっかりと飛べるようになったし、人間はもっと旅に出て成長すべきなのだと思う。


そもそもオルニたちがマキと遠くに飛んだとか、チハールと楽しく遊んだとか自慢するから悔しかったのだ。俺たちのマキとチハールなのに。


「サウロ、楽しそうだったね」


驚いた。エドウィだ。館の入口の陰に立っていた。


「あ、ああ、子どもと飛ぶのは楽しいものだ」

「そうだね。でもサウロはミッドランドでは私以外の子どもとは飛んだことがあまりないよね。そもそもそんなに人間に興味なかったんじゃない」

「そ、そうだったか。俺も成長したということだな」

「へえ。でも上手に飛んでいたね、あの子たち。鳥人と飛ぶのはこつがいるのに」

「身体能力が高いのだろうな」

「小さいほうはそうでもなさそうだったね」


エドウィが意地悪そうにそう言った。なんだ。今日はからむな。そしてエドウィはサイカニアに向いた。サイカニアはエドウィの言う小さいほうをかばうようにこう言った。


「ちゃんと飛べてたでしょう」

「どんくさかったな」

「そんなことはない!」

「今にも落ちそうで」

「チハールをバカにするな! ずいぶん上手になったのだ!」


サイカニア……。鳥人にたくらみ事は難しい。サウロはため息をついて、少しだけ天を仰いだ。


「チハール?」


エドウィは鼻で笑った。


「い、いや、ライアンが、だ」

「サウロ?」


あわてて言い訳するサイカニアではなく、エドウィはサウロに向かった。サウロは横を向いている。エドウィは続けた。


「自分だけマキとチハールと楽しんでいたとエアリスが知ったらどうなるか」

「待て!」

「どうなるか」


どうなるか? 


「城に帰っても、マキとチハールの情報をくれなくなるだろうなあ」

「それは……」


エアリスとは言え、エルフならやりかねない。


「もちろん、私だって絶対に教えない」

「エドウィ」


サウロは情けなさそうに答えた。エドウィは恨めしそうに続けた。


「友だちだと思ってたのに」

「すまない。でもマキとチハールの信頼は裏切れなかった。息苦しく思う聖女を自由にさせてやりたかったのだ」

「なあサウロ、次代の長たるお前だって、私だって、自由だったことがあっただろうか。自由気ままと言われるお前だって、お忍びで城を出れた私だって、ほとんどは王子としてやるべきことにがんじがらめだったろう。マキとチハールは城で大事にされていたはずだ」

「それは」


それはそうだ。しかし。


「なあエドウィ。悪かった。だけどマキとチハールは、かの国でもきちんとやるべきことを果たしてきたんだ。それを無理やり連れて来られて、この世界のために働かされるのと、俺たちとでは意味が違う」

「わかっている! わかっているけど、どれだけ心配したことか! それなのに! あんなのんきにして! お前だって最初無理に連れて行こうとしてたし!」


サウロは少し困ってエドウィの肩をぽんぽんと叩いた。過ぎたことをくよくよとしても仕方ない。羽のない者たちの、見る目のない者たちの悲しさよ。聖女は割といつでもそばにいたのに。


「少なくとも、マキとチハールは我々の部隊と共にいて、まさに目の届くところにいる。それでよいではないか」

「よくない! お前は子ども好きとしてチハールとマキの側に行けるが、王子たる私がどういう理由をつけて下働きの側に行けると言うのだ」


そこか。サウロはふっと笑った。


「カイダルならずかずか行くだろうな」

「あの筋肉か!」


エドウィが生まれたころすでに冒険者として城を出ていたカイダルとは、エドウィはあまり親しくない。


「ともに旅をしたと、そう言えば」


エドウィは悔しげに顔をしかめた。


「おもしろいほどまったく気づいていなかったと聞いたぞ」

「それでも! 一緒に出かけたかった……」

「次一緒に行けばいいではないか」

「次?」

「マキとチハールがこのまま城に引きこもると思うか?」

「……思わない」

「俺はいつでもついていくぞ」

「サウロ」

「私も。せっかくチハールが高く飛べるようになったのだし」

「サイカニアまで」


自由すぎる。ちょっとすねるエドウィにサウロはこう言った。


「正体を暴いて大事に囲いこむこともできるだろう。だが、置いて行かれたとすねてばかりいないで、マキとチハールの様子をよく見てみるといい。城にいた時とどう違うかをな」


そんなことを言われても、やっぱり心配をかけられた気持ちは収まらないのだった。明日一日。そう、明日一日は様子を見よう。エドウィは、テントの群れを一度振り返り、そして館に戻って行った。



次の日の朝、真紀と千春は硬い地面でギシギシする体をテントから引き出し、急いで朝食の支度を手伝った。朝はスープにパンに、そしてお得意の鉄板で大量のソーセージを焼く。ソーセージと言っても腸詰ではなく、ミートローフのように味付けして太い棒に成形しているひき肉をスライスしじゅうじゅう焼くだけだ。それをパンの上に受け取って、あるいは挟んで思い思いに食べる。


昼ご飯はラポルドの町に依頼して、複数の宿屋から兵の人数分を融通してもらっている。これも途中の町にお金を落とすための一つの方策だ。


朝食の後、出発までの間にパウロの買い出しに付き合う。


「ラポルドのチーズは有名だぞ。長持ちしねえんで、今日買ったチーズは今日食べきるんだ。夕食を楽しみにしてろよ」


そうしてすぐに食べるチーズのほかに、カチカチで長持ちするチーズ、根菜類を手分けして買っていく。


「あ」


千春がふと立ち止まった。甘いにおいがする。鉄板に丸く小麦の溶いたものを広げ、片面をひっくり返したところで琥珀色の液体をサッと塗り、二つ折りにした後さらに三つに折って出来上がりだ。


「小遣いはあんのか」

「え?」

「金は持ってんのか?」

「うん!」

「じゃ、行ってこい」

「いいの?」

「すぐ戻ってこいよ」

「はい! おばちゃん、それ二つ!」

「はいよー」

「その琥珀色のものなに?」

「これかい? 樹液を煮詰めたものさね。くせのある味だけれど、おいしいよ」


二人はぱくっとかじりついた。


「あつっ、おいひい」

「おいひい」

「だろ? 熱々が一番さね」


真紀と千春はかじりながら急いでパウロのところに戻ってきた。


「うまいか? 樹液は国によって風味が違うからな。食べて覚えとけ。にしても。朝御飯もしっかり食べてただろう。成長期は違うな」


確かに食べ過ぎているような気はした。真紀と千春は思わずおなかを確かめてみた。よし、たぶん大丈夫。動いているから、きっとなんとかなる。急いで残りのおやつを平らげた。さあ、荷物持ちだ。


そうしてパウロについてちょこちょこと仕事をして、馬車に乗って空を眺め、お昼休憩に鳥人と遊び、そんな二人をエドウィはずっと見ていた。


「なんだ、今日のエドウィ。賄いのほうばかり見て。そんなに子どもが気になんのか」

「まだ18だからな。友だちがほしいんじゃねえか」


カイダルとナイランがそう言っていたが、気にしない。


何で気がつかなかったんだろう。パウロを見上げてうなずくあのかわいい様子。ちょこちょこと走りまわるあの姿。すぐ気になるものに気を取られて立ち止まるくせ。それは主に食べ物なのだが。髪が違ったって、服が男の子だって、あれがチハールでないはずがない。ましてマキと二人並んだらすぐにわかる。大きなハンカチで額の魔石を隠して、今日も一つ魔石を額からはずしていた。


そしてどうしてそんなにエアリスばかり気にしているんだ。チハールは暇になると必ずエアリスを探して心配そうに見ている。私だっているだろう。本部にはグルドだって来ているのに。


ずきりと胸が痛んだ。だが確かに、サウロの言う通り。あんなにいきいきしたチハールは見たことがない。あんなにぼんやり空を見て気を抜いているチハールも。全力で走っているチハールも。大きく口を開けてパンをかじっているチハールも。


「おい、エドウィ、夕食だぞ」

「すまない。今日は兵士と一緒に食べる」

「あ、おい」

「ミッドランドの王子がいなくてどうするんだよ。しょうがねえなあ」


カイダルとナイランは兵士のほうへ歩いて行くエドウィを仕方なく見送った。言い訳はどうするか。


悩んで大きくなるんだ

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[一言] yes!悩んで大きくなるんだ!
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