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聖女二人の異世界ぶらり旅  作者: カヤ
ドワーフ領編

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33/169

軍服の王子たち

次の日の朝、うろこやお金などの大事なものはポーチに入れ、腰にしっかりと巻いたらその上からシャツをはおる。かつらもしっかりとつけ、古ぼけたかばんを持ったら変装の出来上がりだ。


「エドモン、クライス、エマ、お世話になりました」


真紀と千春は改めてそう挨拶をした。


「こちらこそ。楽しかったですぞ」

「マキ、チハール。ドワーフ領に来てくれてありがとう」

「無理はしないのよ」

「「はい!」」


元気に返事をすると二人は駆け出していった。


「またお会い出来るだろうか」

「今度は私たちがたずねてもよいのだよ」

「そうか、そうですね。何か酒とおいしいものを土産に」

「そうだとも。ずいぶん食いしん坊でいらっしゃったからなあ」


クライスとエドモンはそう話し、エマは胸の前で両手を握りしめて聖女の旅の無事を祈るのだった。


「「おはようございまーす」」

「おう、がんばってこいよ」


門番に声をかけつつ、パウロの元に急ぐ。兵舎の前の演習場にはすでに出発の隊列ができつつあった。


「ギリギリだな。荷物はそれだけか」

「「はい!」」

「みんなにはおいおい紹介する。俺たちはここの端で代表の挨拶を聞いて、それから馬車に乗り込むぞ」

「「わかりました!」」


馬車に大きいほうのかばんを乗せると、食料を積みこんだ馬車の側で、出発式に参加した。


「こんなことはほとんどなくてな」

「こんなこと?」


パウロは案外話し好きらしくて、賄いの他の仲間たちと共にいろいろ教えてくれる。


「ダンジョンに魔物が多すぎるってこと、さらに冒険者だけじゃ足りなくて兵が派遣されるということもだ。これもミッドランドと三領が友好的だからだが、それにしてもそうそうたるメンツだよな」

「ほんとですよ。うちのエドウィ様こそそこらへんでよく見かけるが、白の賢者様までねえ」


そこらへんて。扱いが軽すぎる。確かに港町を案内してくれた時は、慣れてる風だったものなあ。


「白の賢者様って?」

「何だよ、有名だろ? 金髪のエルフの中でも珍しい、白髪のエルフ、飛行船を開発した賢者、エアリス様のことさあ」


賄いの若い人が話してくれた。引退して暇を持て余しているただの心配性のエルフかと思ってた。だってまだ30代にしか見えないし。銀髪ではなくて白髪だったのか。千春はいろいろ驚いた。壇上に立ち、白の賢者にふさわしく金の縁取りをした白のローブを着ているエアリスは確かに威厳がある。少しやつれたかな。


「それに鳥人。あいつらは気まぐれでどこにでもいるけど、4人も公式の場に参加してるなんてなあ」

「ナイラン様が南領の代表として、三領と人間領二領のそろいぶみだな」


いろいろ新情報だ。


「あの、ナイラン様って」

「ほら、カイダル様の隣にいる、金髪の。南領の第何王子だったか、あそこは王子も姫もいっぱいいてよくわからん」

「あんまりたくさんいるから、あっちこっちの城に預けられてる中の一人だろ」

「そうそう。最初カイダル様よりちっちゃかったけど、無茶するカイダル様よりよっぽど信頼できるからってお目付役になったんだよな」


王子は二人ではなく三人だった。ドワーフながらやや小柄な人間ほども大きいカイダルは、深い緑色の軍服に剣を佩き、赤髪をなびかせてしっかり兵のほうを向いている。ナイランはくすんだオレンジの軍服だ。あれが南領のしるしなのだろうか。


「そのやんちゃが今回の総大将だもんなあ、やっぱりうちのエドウィ様、若いだけあってちょっと弱弱しいかな」

「何をいう。見かけはともかく、三領の重鎮とも、他の人間領の王族とも親しくし、若くともわがミッドランドの外交の中枢を担う方だぞ。それにほら、うるわしいから若い女性にも人気だし」


パウロはエドウィびいきなようだ。


「やっぱり内陸は参加しなかったな」

「闇界から遠いと、危機感が薄いんだろうよ」

「そう言えば聖女様に暴言吐いてミッドランドに出禁になったって噂、聞いたか?」

「聞いたぜ。まったく。誰のおかげでのうのうと暮らせているのか」


やっぱり内陸は評判が悪いらしい。でも一度は行ってみたいなあ。たぶん真紀と千春はおんなじことを思っていた。ちらりと目を合わせて、ニヤリと笑った。いつかね。お忍びでね。


「さ、代表の挨拶が始まるぞ」


カイダルが一歩前に出た。


「人間領の兵よ! よく来てくれた。常にない瘴気の濃さに、ダンジョンもかつてないほどの魔物が発生している。聖女が二人来てくれたとはいえか弱き若い女性、すべての負担を負わせるわけにはいかぬ。この危機に共に立ち向かおう!」


簡潔な演説に、兵から野太い諾の声が上がる。か弱い聖女も共に声を上げた。そして青い軍服を着ているエドウィもだ。


「ダンジョンは三領にあるとは言え、同じ日界の仲間同士、協力は惜しまぬ!」


拍手だ。


「参謀役として白の賢者エアリス。伝令として鳥人の次代サウロ、サイカニア、オルニ、プエル。人間領からは王族である私、エドウィとナイランが参加する。共に立ち向かおう!」


大きな歓声が上がった。


おせっかいなカイダルと、優しいエドウィしか見たことのなかった真紀と千春は、そのかっこよさに驚きそして心から楽しんだ。だって王子様だよ? 軍服だよ? 演説だよ? まして知り合いだ。大喜びで歓声を上げ、手を振った。そのはしゃいだ様子に周りは微笑ましく思い、遠く壇上から鳥人だけがあきれたように首を振っていた。お忍びだろ? まったく。


人数が少なければ、馬でどんどん進むことも可能だろう。しかし大量の人と荷物であれば馬車を仕立てて隊列を組んだほうが効率的だ。先触れを出して、食料や飼葉の手配もしているが、100人以上の集団を賄うためには持ち込みも不可欠だ。そんな馬車の一つに真紀と千春は乗せてもらっている。幸いなことに天気のいい季節だ。飼葉の袋が積みあがった馬車のてっぺんに乗り、もたれられるように袋を動かし、二人は馬車の旅を楽しんでいた。


客を運ぶ箱馬車よりは乗り心地は格段に落ちるけれど、何より360度眺められるのがいい。領都グレージュからはグロブルに向かって4つの町を経由する。ダンジョンのある山脈に向けて、ずっと山がちな道を登っては降りるのだ。遠ざかるグレージュを眺める二人のもとに、サウロが舞い降りる。浮遊石を使っているから、鳥人一人が増えたくらいでは馬はたいして気にしないのだった。


「よくわかったね、サウロ」

「マキ、どんな格好をしていてもすぐにわかる。鳥人は目がいいからな」

「遠くまでよく見えるってこと?」

「違う。食べられる草なら、大きかろうが小さかろうが、色が濃くても薄くてもすぐにわかる。それと同じだ。マキとチハールは、マキとチハールだからな」

「そんなものなの」

「深く考えたことはなかったが。人間もドワーフもどうやらエルフでさえ気づかないということは、獣人の特徴なのだろうよ」

「なるほど。昨日手を振ったのは?」

「オルニが見ていたぞ」

「さすが!」

「なあ、一緒に飛ばないか」

「目立つもの」

「ではラポンドについてからなら? 高いところから景色を見たくはないか、マキ」

「お仕事が終わって、端っこのほうでこっそりとなら?」

「それでいい」


そう言うとサウロはバサリと飛び立った。


「千春、聖女ってご飯と同列?」

「大事ってことだよ、きっと」


次に泊まるのは農業の町、ラポンドだ。領都グレージュの食を支えている。


「パウロさんが明日市に連れてってくれるって言ってた」

「買いだしだけど、楽しみだね」

「うん」


鳥人は高いところを飛んでいる。真紀と千春は空に向かって大きく手を振った。


明日は更新お休みです。

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