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聖女二人の異世界ぶらり旅  作者: カヤ
ドワーフ領編
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かばんを買っている場合なのか

子どもたちの家に招かれた真紀と千春は、物珍しげにきょろきょろしてしまった。昔の日本の家屋のようにドアも天井も低いが、真紀と千春が困るほどではない。明るい漆喰の壁に、落ち着いた木の家具。お母さんのいる台所には、大きなオーブンが見える。


「ここんとこ聖女様効果で旅人の行き来が激しくてさ。やっと落ち着いたけど、明日あたりから帰りの客がまた通るからねえ。賑やかなこった」


お母さんがそう言って冷たいお肉を出してくれた。子どもが食べやすいように薄くスライスしたパンと、蒸し焼きにしたおそらく鳥の肉を、これまた薄くスライスして盛り上げた皿が並んでいる。


「こう、パンの上に肉をのっけて、最後にこのドレッシングをかけるのさ」


ちょっと酸っぱいドレッシングをかけたお肉はハムみたいでおいしかった。


「あんたら、いくつなんだい? 人の子は背ばかり大きくて、年がさっぱりわからないんだよ」

「あ、俺が14で妹が12です」

「じゃあ、りんご酒はいけるかい?」

「「いけます!」」

「おや、おや、うちの特製りんご酒があるんだけどさ。ちょっと味見をしてみるかい?」

「「もちろんです!」」


その家のりんご酒は、宿屋のりんご酒より一層甘みが強かった。


「隣村の親戚からもらったリンゴで作っているから甘みが強いのさ。その分、アルコールも強めだから少しだけだよ」

「シードルのほうがおいしいのに。ほら、シードルも」


と、子どもたちからシードルも分けてもらい、充実したお昼ごはんを過ごした。


「それにしてもいい空気だね。聖女様が来て以来、少しずつうすくなっていた瘴気が一気に晴れた気がするよ。これでもめ事も少しは減るね」

「もめ事が起きてたんですか?」

「ドワーフは平気だけど、さすがに半年も聖女がいなかったら、少しずつね。けど人間はね、瘴気に弱いから影響も大きくてね。通って行く冒険者もなんだか荒れてるし、グロブルでは結構もめてたらしいよ。あんたらも少し前だったら行かないように止めてたんだけどねえ」

「そうなんだ。ありがとう、お母さん」

「いいんだよ、鳥人と遊んでもらえるなんてめったにないことだもの。こちらこそありがとうねえ」


真紀と千春の手柄ではないから、ちょっと申し訳ない気もしたけれど、普段鳥人にかけられている迷惑を考えたら、このくらいのお礼を受け取ってもいいような気はした。


「鳥人のお兄さんたちには別の家がお昼を出してるからね」

「「ありがとう!」」


その日はもう飛び回ることはなく、村の雑貨屋さんに寄ったりして過ごした。雑貨屋さんによると、人間の好むお土産はやはり浮遊石を使ったかばんで、特に領都に行くとさまざまな機能とデザインのかばんが売っていると言う。


「あんたら空を飛んでただろう。それなら肩掛けではなく、こんなポーチがいいのさ。ぶらぶらしないからな」


と、ベルト二本が交差してしっかり腰につけるタイプのポーチを勧めてくれた。


「こう、普通は後ろに回すんだが、飛んでる時は前に回せば鳥人の邪魔にもならねえだろ。鳥人もこういうやつを使えばいいのになあ」


そう言えばカバンを持っているのを見たことがない。


「オル二、プエル、ちょっと来て」

「なんだ」

「こんなカバンどう?」

「カバンはぶらぶらするから基本身につけない」

「これは?」


ベルトが二本交差するやつはかなりかっこよかった。


「むう」

「飛んでる時は前に回せば」

「あんた、よかったらつけて飛んでみなよ」

「わかった」


オルニはいそいそとつけてみた。


「あんたはこっちだよ」


プエルには黄色いポーチだ。二人は前につけたり後ろにつけたりして飛びまわっていたが、やがて満足した顔で戻ってきた。


「軽い荷物なら両手があくのがいい」

「これで荷物があってもマキとチハールを抱ける」


ちょっと! ノーフェとシュゼだよ! 千春がぱたぱた合図をすると、鳥人はあ、という顔をした。もう。


「おやじ、これをくれ」

「ほんとかい! ベルト二本のやつはうちのオリジナルなんだよ。宣伝しといてくれよ」

「うむ」


真紀と千春は、この店に鳥人が群がる様子がありありと目に浮かんだ。


「おじさん、このかばん在庫は?」

「鳥人に売ったやつと、あんたらが買うならその二つと、残り四つかなあ」

「急いで作ったほうがいいよ。鳥人は流行に敏感だよ、たぶん」

「そうか? 今日までほとんど売れてないぞ」

「一日でかなりの鳥人に自慢に行くと思うよ……」

「そ、そうか、カバン自体は普通のものだから、ベルトを量産すればなんとか……」

「すぐまねされると思うから、今のうちにね」

「ありがとな、お嬢ちゃん」


そして残りのポーチから、白い羽根に映える赤と緑を買って取り置きしてもらい、サウロとサイカニアという鳥人が来たら渡してくれるように頼んだ。だって、絶対すねるから。


そして、人魚のうろこはアクセサリーではなく、うろこのままのほうが高く引き取ってもらえるので、領都で売ったほうがいいとアドバイスをもらった。加工していないうろこはめったに出ないから、細工師に需要があるんだって。エルフの国だともっと高く売れるらしい。いったん領都に行くしかないか。





そのころアーサーの国ミッドランドでは、一夜あけて各地の客人を送り出す一方で、旅に出ようとしている人がいた。


「エアリス、待て!」

「いや、待たぬ」

「あなたが行ってどうするのだ。マキとチハールがドワーフ領のどの地域にいるかもわからぬのに」

「いや、絶対鳥人が知っている」

「しかし、ミラガイアがあなたに教えると思うか」

「それは」


聖女をめぐってエルフと鳥人はライバルでもある。


「それにすぐばれてしまうだろう」


エアリスはそんなことはないとアーサーに言おうとした。しかしエアリスはあまりに有名だ。長生きゆえに本来なら死ぬまで金髪のエルフなのに、300歳を過ぎて銀髪になってしまった。それなのに若々しい容姿を保っている。それに加え、飛行船など斬新なものを作り続けてきたことが評価され、白の賢者としてどの国の子どもでも知っている。


「変装して」

「エアリス。いざマキとチハールが見つかった時、あなたがどこかに行ってしまっていたら合流もできないだろう」

「しかし心配で」


エアリスはこぶしを握りしめた。チハール。マキも。また我慢をしてどこかで泣いていないか。見知らぬ土地でトラブルにあっていたら。そう考えるといてもたってもいられないのだった。


「やれやれ、もう少し黙っていようと思っていたが」

「グルド?」

「城を抜け出すようならと、しばらく前から護衛を依頼している。おそらくその者がついておるから、大丈夫だろうて。マキとチハールよりエアリス、お主のほうがよほど不安だわ」

「グルド、あなたも知っていて昨日の騒ぎを見過ごしたか」

「嘘はついていない。城出する可能性もあるとは思っていたと言うだけのことだ」


アーサーは眉間をもんだ。


「エアリス、いずれにしろエルフ、ドワーフ領からの要請で、ダンジョンに兵士を送らねばならぬ。その時に一緒に派遣するから、それまで待ってもらえぬか」

「やはり半年の聖女の不在は大きかったか」

「今までになく魔物が多いらしい。冒険者だけでは足りぬと要請が来た」


仕方がない。おそらく目指す場所は同じ。それまで無事に、どうか。エアリスは祈った。




その頃千春はのんきにかばん選び。

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