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聖女二人の異世界ぶらり旅  作者: カヤ
ドワーフ領編

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22/169

生きてるって感じ

かたん、と馬車は止まった。


「ガロンスに着いたよ。あんたたち、宿は決まってるのかい」


御者が聞いてくれる。カイダルがすぐに答えた。


「まだなんだよ。子どもも泊まれる宿はあるかい?」

「聖女様効果でここんとこ宿もいっぱいだったんだけどな、さすがに今日はあいてると思うぜ。この先をまっすぐ行ったところにある白馬亭がお勧めだ。というかそこしかないがな」

「わかった」


さあ行こう。その時、バサバサっという音と共に鳥人が下りてきた。


「お前! なんで」

「お前こそ何でここにいる」


カイダルと鳥人はにらみ合った。鳥人はふんっとそっぽを向くと、兄妹をじっと見、こう声をかけた。


「宿まで運ぶか」

「え、いいよ、近くらしいし」

「次の町まで運んでもいいぞ」

「いや、夜だからいらない」

「夜でも飛べるぞ」

「普通夜は休むよね」

「宿まででも運びたい」


千春は真紀と顔を見合わせた。鳥人クオリティだね。そうだね。


「まき、いやお兄ちゃん、明日は先に進むんだっけ」

「いや、この瘴気の濃さでは、一日ここに滞在したほうがいいと思う」

「だよね」


千春は鳥人のほうを向くとこう言った。


「明日もこの街にいるから、明日運んで? 朝ご飯を食べたら、ここに来るから」

「明日だな。わかった。困ったことがあったら、呼べば誰か来る」

「ありがとう」


鳥人はバサッと飛び去って行った。御者は感心したように話しかけてきた。


「あんたたち、鳥人と知り合いかい」

「知ってる鳥人のたぶん友だちだと思う」

「へえ、こんなに近くで初めて見たよ。かっこいいもんだねえ」

「そうだね、見かけはね。じゃあ、おじさん、宿屋に行くね!」

「おう、気を付けてな」

「待て待て!」


カイダルはあわてて止めた。


「みんな同じ宿だ。一緒に行けば手間がねえ」

「そうか、じゃあお願いします」


何となく5人連れ立って宿屋に向かう。子どもだけという旅人もたまにいるようで、難なく二階の二人部屋をとることができた。食事は下の食堂だ。


「おうい、こっちだこっち」


カイダル達の席に誘われる。メニューはと。


「メニューなんてたいていないぞ。宿泊客は宿のおすすめ一択だ」


「そうなんだ」

「じゃあおすすめ四つと、りんご酒二つな!」

「「え!」」

「何だよ、酒くらいいいだろ?」

「じゃあ俺も」


兄のほうが言う。


「子どもはだめだ」

「いや、酒に年齢制限ないよな?」

「背が伸びないぞ?」

「……」

「お子様はシードルにしとけ。シードル二つも頼む!」


子ども二人がちょっとふくれた。背伸びしたい時期なんだろうか。ナイランはクックッと笑っている。


すぐにシチューとパン、そして何かの肉が来た。子どもの分は控えめだ。真紀と千春はシチューをそっとすくって食べた。少し雑味があるけれど、力強い味わいだ。野菜がごろごろ、そして何かの肉がごろんと入っている。箸があればいいのにと思う二人だった。


「そのナイフを使っていいから、スープの肉も小さく切って。そう」


世話好きなドワーフに指示されながら、少しずつ平らげて行く。パンと肉は食べきれなかったので、肉はカイダルとナイランが食べた。パンは妹がハンカチでていねいに包んで持ち帰るようだ。子どもたちはりんご酒を恨めしそうに眺めながら、それでもりんごジュースを少し発酵させたシードルを満足そうに飲んでいた。


「なあ、明日はすぐに出発すんのか」


カイダルは兄のほうに聞いた。


「いや、明日は一日この街にいて、明後日出発することにしたんだ」

「なら何でガロンスまで急いだ」

「旅は臨機応変だろ。カイダルこそ、明日はたつんだろ?」


ノーフェは逆に聞き返した。普通は同じ方向の頼れる人がいたらついて行くもんじゃないのか。なんでこいつらは頼りたがらない?カイダルは思う通りにいかなくて少しいらいらした。


「まあ、確かにグロブルに行く前に領都に寄らなきゃなんねえだろ」

「ナイラン、けどな」

「どうせいとことやらも確実にいるわけじゃないんだろ。旅費がなんとかなるなら、領都グリーズにお前たちも寄らないか。安全で安い宿屋を紹介してやるぜ」


反応が良くないな。ナイランはこう続けた。


「ドワーフは鍛冶の国だろ。火の扱いもうまいし、料理道具も充実してる。領都ではなあ、窯焼きの蒸し肉や、ふんわりした焼き菓子がいろいろあるんだがなあ」


お、食いついたか。目が変わったな。


「そんなの教わらなかった」


教わらなかったと来たか。


「領都に行く途中の町には温泉もあってな」

「温泉?」


お、これも反応がいい。


「熱い湯が自然にわいててな、たいてい貸切で入れるから、冒険者にも家族連れにも人気だな」

「領都は確か盆地だよね」

「あ、ああ、そうだが、よく知ってるな」

「うん、まあ」


兄のほうは少し考えると言った。


「行くにしても、途中の町にも必ず寄りたいんだ。もしかすると二泊する場所もあるかもしれない。だからやっぱり別々に」

「よし、俺たちの用は急ぎじゃねえ。それじゃあ、領都までは一緒に行くか!」

「……妹と相談して、明日の朝返事をするよ」

「それでいい」

「じゃ、俺たちもう部屋に戻るから。いろいろありがとう」

「いいさ」


兄妹は連れ立って二階に上がって行った。と、兄のほうが戻ってきておかみに何か言っている。おかみはニッコリして部屋に持っていくと言っている。湯かな?


「ナイラン、お前反対してたんじゃなかったのか、子どもに構いすぎるって」

「いや? 領都に報告に行く途中だったから、寄り道はどうかと思っただけだ。連れていけるなら問題ない」

「相当なわけありだな。しかもなんかわからねえ目的がある」

「オルニのこともあるしな」

「危うく素性がばれるところだった。何で鳥人がこんなところに。いや、あいつらはどこにでもいるが」

「にしても、くっ。確かに何にでも懐かれてんな、あの妹は」

「シュゼか」

「ノーフェもだな。確かに持ち帰りたいかも……」

「おい……」

「な、そんな変な意味じゃねえよ!」


その横で桶に湯を入れた従業員が二階へと向かっていた。とんとん。


「はい!」

「これ、湯桶一杯分な。100ギルだ。それとこれ。一本500だ。半分ビン代だがな。下で飲めば300で済むのに」

「いや、土産だからいいんだ。合わせて1100だね。はい」

「たしかに」


ばたん。


「ふ」

「真紀ちゃん、やるね!」

「嘆くことないよ、千春。頭を使わなきゃ。さ、体を拭いてさっぱりしたら、いきますか!」

「酒だ!」

「おう!」


湯をかわるがわる使って体をていねいに拭いていく。おもに冷や汗で汚れたかもしれないと思う。髪はかつらで蒸れ蒸れだが洗えないので我慢だ。最後に肌着を洗って干す。何があるかわからないから寝巻きは着ない。昼の服のまま寝る。


「さて千春」

「はい、真紀ちゃん」


真紀はハマナス酒を二本、りんご酒を二本小さいテーブルに並べた。


「本日の収穫です」

「真紀ちゃんかっこいい」

「もっともっと」

「すてきぃ」

「ははは。さて、どっちからのもうか」

「各町でりんご酒の種類が違うって聞いたよ。今日はりんご酒で行こう」

「飲み過ぎてもしょうがないしね」

「よし、かんぱーい」


ビンごと口を付ける。


「はあー」

「うまい」


各町で作る簡単なお酒だけあって、アルコール度は低い。その代わりりんごの果汁の味がそのまま残っていて、ほのかな酸味と濃厚な甘みが口に残る。


「生きてるって感じ」

「そうだね、ねえ、千春」

「なに?」

「誰がお城からついてきた人だと思う」


自由になったと思うほどもう子どもじゃない。



ついに……酒。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 既に読んでいて、楽しくなってきました。 [一言] この冒険者の正体は?楽しみです。
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