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聖女二人の異世界ぶらり旅  作者: カヤ
ドワーフ領編

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21/169

ノワールからガロンスへ

人魚島を無事に離れた真紀と千春は、第二広間で視線を感じてもがんばって見ないようにしたのにゲイザーにのぞきこまれ、


「目は合わせていません。絶対!」


と言い訳する羽目になったり、それでも一瞬目が合ったゲイザーがうれしそうな顔をしたのがわかったりと、多少のトラブルにあいながらも無事ドワーフ領ノワールにたどりついたのだった。正直、愛着がわいてアーチャーに倒されませんようにと祈ったとしても仕方がないだろう。ついたころにはもう夕方だ。


列車を降りると、列車の馬車道からずっと、内陸のほうにも海のほうにも背の低い建物の街並みが続いている。海辺の開けた場所はそう多くなく、すぐに小高い山が見える。その山をひとつ越えたところが真紀と千春の今日の目的地だ。


真紀はさっと周りを見渡した。切符売りのおじさんの言ったところ。あ、あそこが宿のあっせん所だ。そしてもう一つ。あった。近辺への馬車の発着所だ。


「カイダル、ナイラン、お世話になりました。じゃあ、ここで」


真紀は急いで挨拶をし、千春も軽く頭を下げると急いで馬車の発着所に行こうとした。


「待て待て、どこに行く?」

「どこへって、ガロンスの町へ」

「あと一時間は余計にかかるぞ。宿の多いところでもないし」

「でも、決めてるから。予定が狂うと調整が大変なんだ」

「しかしなあ」

「ガロンス行きならあと五分だぞ」


通りがかりに話が聞こえていたらしい男の人がぼそっとそう言って歩いて行った。


「よし、お兄ちゃん切符買ってて」

「わかった」

「あ、おい!」


二人は二手に分かれてしまった。妹のほうは魚のフライを買っている。迷いもなくすぐ隣の屋台でパンを買うと、兄のほうに走って行く。


「しかたねえ」

「行くのか」

「ほっとけないだろ」

「陸にゲイザーも人魚もいないぞ」

「なんかありそうなんだよ」

「……ま、しかたないよな」


カイダルは空を見上げた。


「心なしか鳥人が多いような気がする。まさかな……」

「さ、時間がねえ」

「あ、ああ」


ギリギリだった。馬車は4人掛けが三列ある、比較的大きなものだ。浮遊石があるので重さは大丈夫だが、山がちなドワーフ領では道が広くない。流通はこうした馬車で小回りを利かせていた。乗客は子供二人とカイダルとナイラン、そしてさっき声をかけた男の5人で、座席以外の場所は仕入れの荷物で埋まっていた。


「あれ、カイダル、ナイラン」


ちょこんと並んで荷物を足元においた子どもたちが、不思議そうに二人を見た。


「ま、ひとつ先に行くのも悪くないってことになったのさ」

「そうか、またいっしょだね」


何となくうれしそうな兄の方に、来てよかったと思う二人だった。その横で妹は小さなナイフを器用に使い、一生懸命にパンに魚のフライを挟んでいる。そのパンを二つ作り、それぞれを二つと三つに切り分けた。


「はい。フライが大きいからどうしようと思ったけどちょうどよかった」

「くれんのか」

「夕ご飯までまだ時間がありそうだから」


妹はもう一人の客にもパンを手渡していた。少し冷めかけていたけれど、しっかりと酢と塩で味付けされた新鮮な魚のフライは、パンによく合っておいしかった。そして兄妹は駅で買って飲んでいなかった果物のジュースを半分こにして飲んでいた。


箱型の馬車は両脇に窓もついている。少しずつ山道を登る馬車からは、角度によってノワールの街並みがよく見えた。夕暮れ時になり、ぼんやりと暮れて行く街には一つ、また一つと灯りがついていく。


「なあ、ノーフェ、シュゼ」

「なに?」


ノーフェは窓の外から目を離さずにそう返事をした。


「お前たち、何しにガロンスに行く?」

「ガロンスは途中。グロブルを目指してる」

「グロブルって。最奥のダンジョンの町じゃねえか。闇界にも近い。子どもの行くところじゃねえ」

「でも、そこに母さんのいとこがいると思うんだ」

「いとこって」

「冒険者らしい」

「冒険者ならどこのダンジョンに行くかは風次第だぞ。たしかにグロブルは大きくて、そこに留まっているやつらも多いが……」

「仕方ないんだ。とにかく行ってみるしか」


そう言うノーフェの顔はしっかり前を向いていた。それ以上踏み込んで事情を聴くことははばかられた。


「カイダルとナイランはどこに行くの」

「俺たちはまあ……」

「グロブルだ」

「お、おう、冒険者だからな。グロブルに行こうと思ってた」

「そうなんだ。行ったことあるの?」

「行ったことあるも何も、基本的にそこが本拠地だからな。ちょっと飽きたんでエルフ領のダンジョンに行った帰りだったんだよ」


ちょっと飽きたってなんだよ。子どもにしか通じない言い訳だぞ。ナイランは突っ込んだ。


「へえ、エルフ領からいったんアーサーの国に行ったんだ。飛行船には乗ったの?」

「乗ったぜえ。飛行船は週に一回しか出てないからなあ。さすがに人生初だったよ、俺は」


通じてるよ。うまくごまかされてくれたようだな。飛行船なんて高級すぎて冒険者の乗れるようなもんじゃねえんだが。正直、カイダルとナイランだって探られれば痛い腹はある。あんまりペラペラしゃべるとぼろが出るんだが、さて。


「お、峠に出たぞ。ここからガロンスまでは下りになる」

「そうか」


子どもたちは名残惜しげに海を見た。馬車はゆっくりと山道を下って行く。


「うっ」


突然子どもたちが下を向いて顔を押さえた。


「どうした」


ガイダルが心配そうにたずねると、


「「右目が……」」


と言った。


「「右目?」」


何のことだ。


「うっ、痛っ、ちょっと、ふふ、言ってみたかっただけ」

「痛がるか笑うかどっちかにしろよおい」


子どもたちは「うずく? うずくよね」と言いながら、くすくす笑って下を向いて額を押さえると、なにかを握りこむようにしてカバンに入れた。


「山を越えたら瘴気が濃い」

「わかるのか」

「何となく」


確かに、ノワールは海に面しているから瘴気も海に逃げる。ドワーフ領では山あいの町ではより瘴気が濃い。もっとも、鉱山仕事をすることの多いドワーフは、エルフよりはよほど瘴気には強い。人間はドワーフよりは影響を受けやすい。冒険者でも荒れているやつは増えた。だからこそグロブルには行かせたくねえんだが。


それぞれの思いを乗せて馬車はガロンスへくだる。







千春がご飯担当

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― 新着の感想 ―
[良い点] 封印されし右目が疼くぜ……っ な雰囲気を出しておきながら、額からこっそり石を取るところがおもしろかったです [気になる点] 読み始めたばかりでまだここまでしか読んでいないので、続きが気に…
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