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~半年後その1~

コミックス2巻、発売記ss、多分2~3話です。

「わあ、こんなところが獣人領にあったなんて!」

「見渡す限りの草原に、遠くに峰の白い高い山があるって、これ、行ったことないけど」

「「アフリカのサバンナみたい!!」」


 エアリスの飛行船の窓から見下ろす獣人領は、真紀と千春にとって今まで見たことのないものだった。


「今まで見た一番広い場所が、北海道だからなあ」

「そうだねえ、それでところどころに大きな干し草ロールが転がってて」

「そうそう。でも、比べ物にならないくらい広いよ、あ、あれ」

「象さんだ!」


 着陸体勢に入り、地面が近くなったことで、景色はよりはっきりしたものとなった。


「本来ならば今頃、私はマキとチハールと共にエルフ領の山奥の滝を見に行っているはずだったのに」

「エアリス……」


 飛行船を操縦しながらぶつぶつ言っているエアリスに、エドウィがあきれている。


「じゃんけんで負けたのだからしようがないではないですか」

「じゃんけんなど、まったく非論理的な方法で決まったとは情けない」


 そう、なんと日界にもじゃんけんはあるのだ。しかし、表情が変わらないくせに考えすぎるエアリスは、直感でじゃんけんをすることができず、負けることが多かった。


 それならなぜじゃんけんで決めたのかと真紀はあきれてエアリスを見た。もっとも、もとはと言えば、真紀と千春がどこに行くか決められなかったのが原因なのだが。真紀は窓から外を眺めている千春を横目でちらりと見た。


 千春が内陸にさらわれて半年たった。気丈に振舞ってはいても、毛布に巻かれて無理やり連れ去られ、地下に閉じ込められた影響は大きく、めったなことでは体調を崩さない千春も、すべてが終わった時にはさすがに寝込んだ。


 寝込んでいても聖女の体は魔石を生成する。今まで、魔石自動生成器くらいに思ってあまり気にしていなかったが、弱っている身にはやはり負担なようで、治ったように見えてもなかなか元の調子には戻らなかった。


 その間にも、内陸ではアーサーが、ノーフェと一緒に内政の立て直しに励んでいた。千春をさらわせたアドル侯は、王の代理とはいえ、悪政をしいていたわけではなかった。アドルのやりたかったことは、魔石も含め、内陸だけですべての者が自給できることだった。


 だから見つかったダンジョンをひそかに開発し、国の兵を一部、特殊任務として魔物を倒し、魔石を取る仕事に就かせていた。気を付けていれば命の心配はないうえに、特別手当が出るので、任務に就いていた兵の中にはアドルに心酔している者もいて、そういう者たちは聖女をさらうことをおかしいとも思わなかったらしい。


 その開発のために、どうやらドワーフ領から後ろ暗い所のあるものを労働力として連れてきていたらしい。それに内陸に魔物の出るダンジョンは、城だけでなく鏡の湖にもあることがわかった。ドワーフ領内部の組織に気づかなかったドワーフ領にも、列車でそのドワーフが内陸に運ばれていたことに気づかなかったミッドランドにも衝撃が走った。


 各領ともに自国の犯罪の洗い出しに、内陸への援助、この半年どこも大忙しだったのだ。


 そんななか、さすがの真紀も、旅に出たいとはなかなか言い出せなかった。なにより、体調の思わしくない千春の側についていたかった。


「城でのんびり本でも読んでるから、真紀ちゃんだけでも行ってきなよ。鳥人に頼めばすぐ動いてくれるでしょ」

「うん。でもね」


 真紀は一人旅も好きだ。でも、仲良しと行く二人旅はもっと面白いということを、この何か月かでわかってしまった今、時間があるからと言ってホイホイと出かける気にはなれなかった。


 しかし、旅でなければいいのではないか?


 そう思った真紀は、内陸のダンジョン整備に残ったカイダルとナイランのもとには行っていた。


「やっほー。今日も来てみたよ!」

「今日も来てみたって、マキ。チハールは元気か」

「もうほとんどいいんだけど、疲れやすいから鳥人との遠出はまだ無理だね」

「そうか」


 そう返事をして、ミッドランドのほうをふと眺めてしまうナイランは、鏡の湖のダンジョン担当だ。カイダルは城のほうと、二手に分かれて働いているらしい。カイダルが城担当なのは、内陸の人たちに、三領の者に慣れてもらうためだそうだ。


「ダンジョンの感じはどう?」

「かなり下のほうまで行ってみたが、正直なところ、他国の冒険者を呼ぶほど魔物がいないんだよ」


 ナイランは髪をかきあげながらため息をついた。


「城のほうはかなり昔からあったようで、それなりに規模も大きいんだがな。ここは内陸の兵を訓練して、今までのように特別手当を与えて管理していくのが一番な気がする」

「そうなんだ」

「だからこちらは問題なく終わるだろう。それより、城のほうに行ってやれよ」


 ナイランが真紀に余計なことを言う。


「いや、だって、あっちは人手も多いし、ちょっと遠いし」

「鳥人だったらすぐだろうに。なあ、サウロ」

「もちろんだ」


 サウロとサイカニアは面白がって真紀を連れてきてくれている。鳥人の次代長なのだから、それこそ、内陸の人に鳥人に慣れさせる使命があると思うのだが、


「鳥人は、行くなと言っても山ほど行くだろうよ。そして実際行くなとは言っていないので、山ほど行っているぞ」

「そ、そんな気はしてたよ」


 使命などぶっ飛ばす自由さがそこにはあるのだった。


「カイダルが待ってるぞ。行って来いよ」

「ま、待ってるとは限らないし」


 真紀はそっぽを向いた。


「まあな、100歳を超えたカイダルでも、人族である俺より100年以上長く生きる。だからあいつら、気長は気長なんだが、それに付き合ってたら俺たちのほうが先に寿命がきてしまうぞ」

「そうか、寿命が違うのか……」


 ナイランは初めて気づいたというような真紀を見て、ふっと笑った。


「別に何かしろって言ってるわけじゃない。ただ、会いたい気持ちがあるなら、会えるうちにたくさん会っとけってことさ。別に、恋人じゃなくても」

「こここ、恋人とかそんな」


 そんなレベルではない。そして真紀は悩むのも苦手だ。


「そうだね、ついでだからちょっと城まで行ってくる」

「それでこそマキだ」


 そんな風にしょっちゅう内陸だけは行っていたのだ。これは旅行じゃないと言い訳しながら。


「カイダル!」

「よお、マキ。また来てくれたのか」

「何の役にも立たないけどね」

「そんなことはない。マキが来てくれるだけで、民の士気が上がる。それに、俺も嬉しい」


 前までなら、カイダルはその言葉を恥ずかしげもなく真紀の目を見ながら言っていただろう。しかし、今のカイダルは微妙に目をそらす。それが周りにはもどかしいやら、おかしいやらで、マキとカイダルは相変わらずなのであった。




コミック版「聖女二人の異世界ぶらり旅」2巻が、8月1日、今日発売です! カイダルと真紀がカッコイイ、また物議をかもしたお風呂シーンのある巻になります!


カイダルの世話焼きって絵にしてもらうと、ほんとに「ええ~」というくらい暑苦しいですが、同時にとてもかっこいいです!コミカライズオリジナルのオマケ話もありますので、ぜひどうぞ!

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