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 アーサーはまるでアドル侯を憐れむかのようだった。


「王は国をまとめる役割を担うもの。その国の中でどのような役割分担をしてもかまわないが、ただ一つ、国王、あるいは国王の代理として外交を担う場合、それは他領すべての合意がなければならないのは知っておろう」


 つまり、いくら本人が国王の代理を名乗ろうが、アドル侯が今、他の領の代表からそれを認められていない以上、何の権力もないということになる。


「その場合、国内のどの有力者より他国の王のほうが発言権が大きい。この意味がわかるな」


 アドル侯はおそらくたじろいだのだろう。後ろ姿が大きく揺らいだ。


「あ、まずい」

「何? 千春。あ、ほんとだ」


 アドル侯も気になるが、千春と真紀は他にも気になることができてしまった。


「仕切りは閉じてたと思うんだけど、別の入り口があったのかなあ」

「なに、仕切りなど我らが蹴り飛ばしてきたわ」

「え? あの固い岩を?」

「張りぼてであったぞ」



 千春と真紀が気にしていたのは、城の上に少しずつ集まってきたゲイザーだった。千春だって真紀だって、ゲイザーを目撃するのはたいてい夜だ。そうでない時はダンジョンがあふれた時なので、どうしても非常事態だと思ってしまう。実際非常事態ではあるのだが。


「いやいや、アミア、何もこのタイミングでゲイザーを外に出さなくてもよかったんじゃないの? ただでさえ緊迫した状況なのに」

「なに、ゲイザーについてはそなたらが完全にコントロールできるだろう。切り札の一つとして必要かと思ったまでだ」


 そう言われれば黙るしかないが、普段は表情が変わらないはずのサウロが、一瞬アミアを驚いたように見たのに千春は気が付いてしまった。


 つまりあれだ。


「勢いでやったことに、適当に理由をつけた、と」

「なんのことだ、チハール」

「いえいえ、なんでもないです」


 千春は慌てて顔の前で手を左右に振った。ここで真実を暴いてもどうしようもない。


「よし、千春、私はアーサー達の動向を見てるから、千春はゲイザーをよろしく」

「わかった。とりあえず、なるべく目立たないところ、えーと」


 千春はあちこちに目を動かした。


「チハール、こちらの壁の内側になるべく集まってもらいましょう」


 エドウィのアドバイスで、下から見上げてもわかりにくい所に集まってもらうようにする。その少しの間にも、話はどんどん進んでいるようだ。


「つまり、この国に今代表となる国王の所在がはっきりしていない以上、次の代表が決まるまでは、この私、ミッドランドの王アーサーが、一時的にハイランドの代表を兼任する」


 その声はアドル侯だけでなく、屋上にも聞こえたし、しんとして成り行きを見守っていた城の者たちにもはっきりと聞こえた。


「アーサーよ、ありがとう。自分がふがいないが、アーサーなら任せられる」

「父上……」


 横になっていたハイランドの王が静かにつぶやいた。


「お、まだ続くみたいだよ」


 真紀の声に、一瞬王に向いていた視線がまたアーサーのほうに戻った。


「短期間のことだ。ノーフェ王子はしばらく私のもとで代表の仕事をしっかり学んでもらい、いずれはノーフェ王子がこの国の代表となるだろう」


 アーサーがこの国の代表を兼任すると言った時に生じた不安は、いずれはノーフェが代表になるというアーサーの言葉の前に消え去った。屋上にもほっとした空気が流れた。


「し、しかしアーサー殿とて正式に各領に認められたわけでは……」


 アーサーは後ろに控えている面々を手で指し示した。


「彼らは各国から許可をもって来た証人でもある」

「し、しかしハイランドは」

「国王が病になって表に出てこなくなった時点で気が付けばよかったのだ。そなたには統治する力があったかもしれないが、あったとしても罪を犯した時点で資格を失っている」

「罪など犯してはおらぬ!」

「ではさらった聖女はどこへやった」


 気が付くといつの間にやら城門が開いて、各国の兵士だけでなく、町の人々も勝手に城に入り込んで話を聞いていた。


「どれだけ緩いの、この国は……」

「そもそも城門があっても民を拒む城などこの世界にはないのだよ。普段はあの城門も開けっ放しに違いない」


 アミアがそう予想したが、屋上の人々のようすからするとその通りのようだ。


 そして庭ではアーサーの言葉に、アドルが勢いを取り戻していた。


「聖女? さらった? 何のことやら」


 手を両側に開いて肩をすくめている。


「欧米か」

「ハイランドだよ」


 そんなことを突っ込んでいる場合ではない。いよいよ自分たちの登場だろうか。真紀と千春は少し張り切った。


「アドルよ、もしそなたが、聖女をさらったとしても、城の一部屋に閉じ込めてせめて大切に扱っていたら悪事は露見しなかったであろうよ」

「何のことだ」


 憐れむようなアーサーの言葉に、アドルは不審そうな顔をした。


「知らぬのか、聖女は魔物と心を交わせるのだ」

「心を?」

「魔物を通せば、一人の聖女からもう一人の聖女に情報が伝わる。聖女をさらって魔石を作らせようとしたのが仇になったな」

「まさか」


 アドルは思わず城のほうを振り返った。それではそこに聖女がいると言っているようなものだ。これでアドルを信じたかった城の者も、不信感を持ったに違いない。


「し、証拠がない」

「まだ言いはるか」


 アーサーはため息をつくと、屋上を見上げて大きい声を出した。


「エドウィ!」


 エドウィはそれを待っていたように真紀と千春、そしてノーフェと王に頷いた。


「さあ、出番ですよ」

「いよいよだね」


 張り切る真紀と、ちょっと疲れている千春を鳥人がさっと抱き上げ、アーサーの前に連れて舞い降りた。


「な! 聖女め! ど、どうやって外に」

「語るに落ちたね、悪党め! 千春の状況は逐一私に連絡が来ていたのさ!」


 真紀がぴしっとアドルを指さした。


「まさか、本当に魔物が、いや、そんなことは」


 青くなるアドルをふふんと言う顔で見ると、真紀は千春に声をかけた。いや、真紀も聖女だろうと、突っ込む人は千春を含めて残念ながらいなかった。


「千春!」

「おっけー! 魔物よ、おいで」


 途端に城を乗り越えるようにして、屋上に固まっていた魔物たちが降りてくる。そのようすはまるで城から黒い水が流れ落ちているかのような不気味なものだった。


「止まって! そのまま上で待機!」


 千春の言葉通り動き、ぴたっと魔物は止まった。


「鳥人をだまして千春をさらったことも、城の地下の牢獄に閉じ込めて魔物の魔石を簡単に手に入れようとしたことも、すべて伝達ずみなんだから! さあ、おとなしくお縄につくがいい!」

「お縄って、真紀ちゃん……」


 決め台詞を言う真紀にそっと千春が突っ込んだ。しかし周りは誰も気にしていなかった。


「アドルをとらえろ」


 アーサーの言葉にがくりとうなだれたアドルには、もう抵抗する気力は残っていなかったのだった。





真紀→「この紋所が目に」

千春→「それはやめようって最初に言ったじゃない」

真紀→「そうだった(ノ≧ڡ≦)☆」


無事助かりました!

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[一言] 普通に処刑案件でワロリンヌ
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