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聖女二人の異世界ぶらり旅  作者: カヤ
内陸編

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救出

 王の居室につながるドアから来るなら、敵ということはないだろう。千春はノーフェの後ろにかばわれながら、ドアの開く様子をうかがった。しかしそこから出てきたのは、あまりにも予想と違う人物だった。


「え、サウロ? アミア?」

「私もいますよ」

「エドウィ!」

「私もね」

「真紀ちゃん!」


 助けに来てくれるのなら真紀とエドウィだと思っていた。もちろん、サウロもアミアの登場も嬉しかったが驚きが勝り、真紀とエドウィの顔を見てやっと安堵した千春だった。真紀はノーフェの後ろから飛び出した千春と、鉄格子越しに手を握りあう。


「大丈夫? つらいことはなかった?」

「運ばれているときはつらかったけど、まあ、ここは居心地は悪くなかったよ」

「あの駄目鳥め! やっぱり一回蹴り飛ばしておくべきだった!」


 千春は苦笑した。一方で居心地が悪くなかったという言葉に、ノーフェは驚いた。


「何を言う! たった今、槍を突き付けられたばかりではないか!」

「そういうノーフェこそ、殺される寸前だったしね」

「そ、それは……」


 ノーフェはうつむいた。そのノーフェの前にエドウィが歩み寄った。


「ノーフェ」

「エドウィ……」

「本当は言いたいことはたくさんあります。ですが、まずこれだけは言っておきます。王とシュゼは確保してあります」

「おお、感謝します!」


 ノーフェは思わず膝をつき、感謝をささげた。しかしそんなノーフェには見向きもせず、真紀は鉄格子をちらりと見ていった。


「さ、そんな場合じゃないよ。早くここから出よう!」

「でも、鍵がかかってるの」

「鍵! 当たり前か!」


 鉄格子はこの場で枠を作ってはめ込まれたもののようだ。それほど頑丈ではないが、ノーフェや千春が触れたくらいではびくともしなかった。もちろん、真紀もだ。


「では我らの出番だな」

「うむ」


 前に出てきたのはアミアとサウロだ。


「え、何をするの?」


 あたふたしているのは真紀だが、二人を見て千春が目を丸くした。


「サウロ、羽がない!」

「今頃? 今頃なの?」


 真紀が思わず突っ込んだが、他の人は二人を静かに見守っている。千春もそれどころではないと思い、追及は後にすることにした。アミアとサウロは静かに鉄格子に手をかけた。


「「ふん!」」


 ぐにゃり。鉄格子はあっけなくゆがんだ。


「これだけ開けば、チハールは出てこられるだろう。さあ」


 にっこり微笑むアミアは地下だというのにきらきらしい。しかし、その隙間はほっそりした女性がやっと出られるだけであった。


「え、ノーフェは」

「私はいい。チハールだけでも行くのだ!」


 ノーフェに押され、それでも戸惑う千春にアミアが肩をすくめた。


「やはりその者も助けねばならないか」


 真紀はあきれてアミアを見た。ノーフェという名前も、王子だということも知っているくせに、わざと冷たい言い方をするんだから。


「だが、成人の男子が通り抜けるには少々せまいな、それなら」


 アミアは腕を組んで見守っているサウロをちらりと見た。サウロは首を横に振った。


「足の力なら長にはかなわぬ」

「そうか、ではチハール、それに人の子よ、少し横にずれるがいい」


 何のことかわからないなりに、千春とノーフェがずれると、アミアは鉄格子の扉の正面に立った。


「はあっ!」


 気合のこもった蹴りと共に、がっしゃーん、と、鉄格子の扉が鍵ごと吹き飛んだ。


「うそ……」


 あっけにとられる千春にアミアは、


「たいしたことはなかったな。さあ」


 と言った。


「さあ?」


 事態について行けない。そこに小さいゲイザーがふよりと横切った。さあ、愛し子よ、外に出るんだ。


「そうだった! ノーフェ!」

「あ、ああ!」


 まず千春が、それからノーフェが牢から出てきた。


「真紀ちゃん!」

「千春!」


 思わずぎゅっと抱き合うふたりだったが、そんな場合ではない。


「さあ、チハール、狭くて暗い階段ですが、頑張って屋上まで登りましょう」

「ありがとう、エドウィ」


 そう目を見て千春に感謝されただけで、エドウィはここまで頑張ったかいがあるような気がした。


「ふむ、こちらに魔物の気配が濃い」


 アミアが魔物の洞窟の方を見つめて呟いた。


「どうやら廊下側に洞窟との境目を開ける仕掛けがあるみたいで、その壁は上がったり下がったりするの。でも仕掛けがどこにあってどうなっているのは知らなくて」


 千春が申し訳なさそうにそう言った。


「ふむ、少し見てみようか。エドウィ、愛し子を頼んだ」

「アミア」

「不安そうにするな、愛し子よ。私は大丈夫だ」


 サウロが自分も残るからと千春に合図をしてくれた。サウロに羽がない、しかも自分たちを運ぶ以外の仕事をすることに戸惑いを隠せない千春だったが、今自分がここでためらっていたら、救出作業が遅くなってしまう。


「先に行くね」


 こうして千春はやっと救出されたのだった。




「さて、この仕切り、岩で出来ているようだが実は木の板に漆喰を塗ったものだろう」

「そうでなければ廊下から簡単に操作はできぬしな」


 アミアは最初から廊下に出るつもりなどなかった。


「牢の扉より簡単であろう。蹴り飛ばしてくれるわ」

「では一緒に」

「うむ」


 二人は頷きあった。先ほどと違い、二人で立つ余裕は十分にある。


「「はあっ」」


 もう誰にも遠慮はいらぬので、思い切り踵から叩きつけたら、壁はあっさりと反対側に吹き飛んだ。


 ぶーんぶーんと、ハチの唸るような音が響き、向こう側からひとつずつ、やがて数え切れないほどの魔物が現れる。開いたままの廊下側の扉をアミアは指さした。


「行くがよい。巡る命の中で、ダンジョンの外を見る機会があってもいいだろうよ」


 アミアの声に押されるように、魔物は廊下へと移動していく。


「人には通れぬすき間も、お前達なら出られるだろう。外へ出て、愛し子の助けになるがよい」


 わかったと、魔物が言ったような気がした。


「我らには魔物の声は聞こえぬのにな」


 アミアは苦笑した。


「さ、人魚の長よ、われらも」

「うむ。すまぬな、地下は辛いだろうに」

「体は辛いが、心はすがすがしい」


 そうは言うが、よく見るとサウロはじっとりとした脂汗をかいている。相当辛いのだろう。


「正直なところ、地下がこんなにつらいとは思わなかった。我らが空に特化しているように、長殿も水に特化しているだろう。なぜ空でも地下でも平気なのか、理解できぬ」

「神も原初の生き物を残しておきたかったのだろうよ」


 そんな軽口でも叩かなければ倒れそうなサウロを先に行かせ、時には肩を貸す。


 そうして屋上に出た時には、遥か遠くから、エアリスの飛行船がやってくるのが見えた。


月木は「転生幼女」、金は「異世界癒し手」、水は「ぶらり旅」の予定です。


【宣伝】「転生幼女はあきらめない」は2月15日発売です!予約も開始されています!詳しくは活動報告を。

まずはなろうで読んでみてくださいませ!幼児がよちよち頑張るお話です(´ω`)

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