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アミア

「アミア」

「そういえば、一度島で会ったとはいえ、ちゃんとした礼はまだだったな」

「それはもういいよ。人魚族の力は今しっかり思い知ったけど」


 アミアと並んで湖を眺めながら、あの時助けに来なくても人魚族で何とかしていたのだろうなと思うが、まあ、そのおかげでトラブルが先延ばしにされたのだから問題ない。面倒だからと自分たちに丸投げしたサイアには腹が立つけれども。


「サイアだが」

「あいつか」


 さすがの真紀もサイアには冷たい。


「別に腹を立ててもいいし、なんなら聖女には顔を見せるなと言ってやればいい」

「でも、アミアのことを思ってたし、それに結構力のある人じゃないの?」

「ああ。人魚族の次代ということになる。が、人のことを思ってやった行動なら、何をしても許されるわけではないだろう。結局愛し子だけでなく鳥人も南領も巻き込んだのだからな。それで聖女の勝手ということで済ませられるわけがない」

「うん。そうだね。それにサイアが次代になる頃には、私たちはきっともう寿命だろうからね」


 まあ、その根っこにアミアが自由すぎたという大きな理由があるのだが。


 そしてサイアについてはきっと次の聖女が苦労するのだろう。そうだ、サイアは性格が悪いから気を付けるように何かに書き残しておかなくちゃと真紀は決心した。もっとも日記のたぐいは続いた試しがないのだが。


「マキよ」


 きっとアミアのほうが長生きだ。


「そんな寂しいことを言わないでおくれ。いや、待て」


 急に口調を変えると、アミアは並んで座っていた真紀の体をアミアのほうに向かせ、真紀の両肩をそっと抱えると、上から下へとゆっくり見下ろした。


 アミア以外がそんなことをしたらセクハラだと言ってぶっ飛ばしたかもしれないが、そもそもが親戚のおじさんのような人だ。もっとも真紀がそう思っているのを聞いたらアミアは盛大に嘆くことだろうが。それに、アミアは真紀を通して違うものを見ているような気がして、とっさに冗談に紛らわすこともできなかった。


「存在が変化している。マキ、エルフ領で何があった」

「存在が変化? 何があった、ってエルフ領ではいろいろありすぎて」

「何か普段と違ったものを食べたり飲んだりしなかったか」

「そりゃ、いろいろ珍しいものを食べたけど」


 アミアの剣幕に驚いたが、飲み食いしたものと聞かれたら一番はアレだ。


「いやー、一番は蜂蜜酒だな。熟成具合によって甘みの強いものからアルコール分の強いものまでいろいろあるんだけど、どれもおいしくて」


 いろいろ片付いたらまたエルフ領に行こう。


「蜂蜜酒。いや、蜂蜜酒ではない」

「ん? そのときハチの皆さんにも会ってさ。いやあ、魔物だけじゃなくハチとかマンドラゴラとかと話が通じるとは思わなかったよ」

「それか……ハチの女王には」

「子育てに忙しいからと会えなかったけど、おみやげにローヤルゼリーくれた。なんか言ってたな。足りないものがあるから飲めとか。サプリみたいだよね。あ、サプリって言うのはね」


 おや、アミアが考え事を始めてしまった。自由な人だ。それならそれでいいと思い、真紀は物思いに沈むアミアの隣で、飛行の疲れを癒すべくのんびりと湖を眺めた。制圧などと言っていたのに、どう見ても楽しそうに跳ねている人魚たちと、それを岸辺で見ている町人も見える。離宮は制圧されても、町の人には関係がないようだ。


 アミアが突然口を開いた。


「愛し子よ、我らはおもったより長い付き合いになるやもしれぬな」

「アミアの言うことはいつも難しくてよくわからないよ」


 もっと具体的に言ってくれと思う。そういえば、ドワーフ領の湖で会った時だって、魔物に聖女が好かれるのだとはっきり言ってくれればよかったのではないか。まあ、人魚と鳥人について深く考えても仕方がないような気がする真紀であった。


 遊んでいる人魚はともかく、広い庭園には人魚と鳥人が集まり、鳥人の中でも体格のいいものが人魚を抱えて飛び立ってみようとしている。あ、失敗した。もう一度だ。


 何度か失敗したあと、飛び立った一組はだいぶ長い間上空を飛んでいた。それを見て鳥人と人魚は次々とペアを作り、空を舞い始めた。かなりの数だ。


 しばらくするとサウロが急いで戻ってきた。


「人魚は見た目より重いから、正直なところ無理かもしれぬと思っていたが、いったん飛び立てば案外いける。ただ、長時間は難しい。休憩を何度か入れないと王都までもたぬと思う。なあ、人魚の長よ。どうしても行かねばならぬのか」

「行かねばならぬ。こたびのこと、全種族が怒っていると人族に知らしめねば、また同じことが起こるであろう」

「仕方ない。ところでその、長殿は」

「もちろん行く」


 アミアは立ち上がるとサウロと向き合った。二人ともほぼ二メートルである。白い髪白い羽の鳥人に、日に跳ね返るオパールの輝きを持つ人魚と。見た目はこの上なく素晴らしいのだが。


「アミアは重いよ」

「マキ、身もふたもない」

「だって重くて持ち上がらなかったもん」


 それでも本人が行くと言っているのなら、仕方がない。


「飛び立つ時に、補助を頼む」

「うむ。跳ねればいいのだな」


 アミアをサウロが抱え込んで、ぱっと。軽やかに真上に飛び上がり、すぐさま大きく羽を動かしたサウロは、アミアを連れてあっという間にどこかにに飛び去り、ポカンと口を開けている真紀の元へとすぐに戻ってきた。


「はやい……」

「完璧よね」

「サイカニア?」

「兄さんのタイミングに合わせて飛び上がり、空気の流れを読んで兄さんに無駄な力をかけさせない。一族では相当重いほうだと思うけれど、きっと一緒に飛ぶのは楽だわ」


 いつの間にかサイカニアが隣に来ていた。確かに、他の人魚より軽そうに見えるほどだ。


「力も強く、状況の判断も早い。人魚ではこれほど優れた長はまれよ。先代はもっと他種族に興味はなかったし、次代もまだまだ視野が狭い。兄さんも優秀。時代が必要としたのかしら」


 サイカニアがこういうことを言うのを初めて聞いた。マキはちょっとかっこいいとは思ったが、出会いの残念な印象が抜けずどうもピンとこないのだ。


 少し離れたところにサウロとアミアは降りてくると、


「うん。いけそうだ。だが、他の者ではこうはいくまい」

「確かにな」


 とお互いに話し合っている。


「ねえ、サウロ」

「なんだ、マキ」

「私とエドウィは軽いから、他の鳥人でも大丈夫だよ、きっと」

「しかし、疲れ方が全然違うからなあ」


 真紀のことは、他の人には任せたくないようだ。


「私より、人魚の長を連れて行ったほうがインパクトが大きいと思うんだよね。私はひっそり登場でいいから」

「仕方ない。長は私が運ぼう」


 そしてその夜のうちに、鳥人の多くは人魚を連れての移動となった。それでも湖にはかなりの数の人魚が残る。


「サイア、ここは拠点となる。決して人間に取り返されるな」

「わかりました。長もお気をつけて」


 サイアもやっぱりここに来ていて、残って指揮をとるようだ。


「愛し子も」


 そしておまけのようにそう言った。


 城にあと一歩というところまで移動し、最後の拠点である山の中で休憩していた時、真紀が急に立ち上がった。両手がぷるぷる震えている。


「どうしたのだ、疲れたか。休んでおかねば明日がつらいぞ」


 心配するサウロを見て、真紀はすとんと座り込んだ。近くの者が注目する中、真紀が口にしたのは。


「ノーフェも千春と一緒に投獄されたって」


 事態が早く動きすぎる。サウロとアミアは一瞬頭を抱え、明日の計画を練り直す、眠れない夜が始まった。






基本月木は「転生幼女」、金は「異世界癒し手」、水は「ぶらり旅」でしばらく行けたらなと思っています。


それから「転生幼女はあきらめない」は2月15日発売です!

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