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鳥人と人魚

 なるべく身を軽くするため、着替えなどはもたない。必要最低限のものを腰のポーチに入れて、防寒のための装備をする。真紀とエドウィは、鳥人への指示をミラガイアに任せたサウロとサイカニアと向き合う。


「海まで二時間。一旦休憩して、その後ミッドランドまで三時間。正直、人と一緒には今まで飛んだことのない距離だ。マキ、エドウィ。俺も自信があるとは言えないが、耐えられるか」

「サウロったら、やっぱり」


 クスクスと笑う真紀にサウロはいぶかし気な顔をした。


「やっぱりとはなんだ」

「だって、最初会った時にさ」

「あの時に、なんだ」

「サウロ、千春に、海を越えられるって自信ありげに言ってたじゃない。ほんとはあの時だって自信がなかったんじゃないの?」

「それは」


 サウロが珍しく困った顔をして横を向いた。


「今はあの時とは比べ物にならないほどお前たちが大事だから。ほんの少しの危険もないようにしたいのだ」

「サウロ……」


 ほんのちょっとからかうつもりだっただけなのに。サウロがくれた一言は、マキの胸をぐっと詰まらせた。なんと心のこもった言葉だろうか。本当に、みんな私を泣かせようとするんだから。


「無理して内陸で動けないと困るからね。つらかったら早めに言うよ」

「そうしてくれ」

「では、マキ、行きますよ」


 エドウィの声と共に、二人は、獣人領の皆が見守る中、助走してサウロとサイカニアにさっと掬い上げられ、そのまま海へ続く森へと消えていった。


「あれがまだ召喚されてたった数か月の聖女とはな……」


 つぶやいたのは人族の冒険者だ。


「人族で鳥人と親しく付き合えると思ったものさえほとんどいなかったものを」

「うむ。今代の聖女は、鳥人どころか、ドワーフとも、エルフとも、そして鳥人以外の獣人とも親交を持った。しかもすでに三領の余分な瘴気をあらかた浄化してしまっている。聖女の不在の半年間を、あっという間に取り返してしまった」


 ザイナスは腕を組んでまるで自分のことのように自慢する。それがこの何か月間か頑張った真紀と千春への評価なのだ。日界の、どこに住んでいる者も思っていること。「我らの聖女」と。


「内陸にもひそかに訪れているため、内陸も恩恵を受けているはずなのだが。お忍びであったのがもどかしい」

「内陸かあ。俺はミッドランドの出身だから今一つピンとこないが、獣人への差別がひどいってホントか?」


 思わずつぶやくザイナスに、冒険者がふと尋ねた。冒険者となって三領に来るものは、荒くれ者も多いが、好奇心が強く、獣人にもドワーフにもまったく動じない者がおおい。


「少なくとも、実際に会った民は、ドワーフや聖女について何のわだかまりもないようだったが。ああ、人魚は魚扱いだったか」

「人魚島に行ったことない奴らには人魚が人だという実感がないのかねえ」


 人魚が普通に立って歩いて、あまつさえ露店で物を売っているところを見たら、魚だとか獣人だとか区別すること自体意味がないことがすぐにわかる。


「自分の国を出りゃあいいだけのことなんだがなあ」

「今はまだ費用がな」


 飛行船などまず無理だし、列車すら結構な値段がするのだから。


「それもこれもすべて落ち着いてからだ。内陸がすぐに聖女を返せばいいのだが」

「しらを切るだろうなあ。あのちっちゃい聖女さんが、早く帰ってくるといいなあ」


 それが聖女を知るものすべての願いである。



 一方、真紀は本気のサウロとサイカニアを初めて知った思いだった。高い所は大丈夫とはいえ、森の風の影響を受けないように少し高い位置を滑るように飛ぶサイカニアは、真紀を抱く手を緩めることもなく、二時間かからずに海まで飛びきった。


 一旦浜辺に降ろされた真紀は、バキバキいう体をうーんと伸ばし、屈伸運動をする。


 鳥人が飛びやすいように姿勢を維持するのにも筋肉を使う。運ばれるほうにもコツがいるのだ。隣で同じようにエドウィが伸びをしている。


「少し休憩しよう」

「わかった」


 サウロの声に、真紀はちょっと浜辺へ向かってみた。水遊びなどしている余裕などはないが、せっかく海に来たんだから、近くで波を見たいではないか。このあたりは波が少し荒いのか、大きな波も打ち寄せてくる。ざっぱーんと、ひときわ大きい波が打ち寄せると、そこには見知らぬ人魚が数人いた。


「え、あ、人魚のみなさん?」


 思わず一歩下がったのは、今までの人魚との交流の経緯からいっても仕方ないだろう。


「愛し子よ」


 しかし人魚は遠慮なしにずんずん近づいてきて、海水で湿った手で真紀の手を取った。


「愛し子と鳥人が通るかもしれぬということで、我らがあちこちに配置されています。長より、鳥人への伝言をと」

「アミアから? それならサウロに言わないと」


 なぜ自分に言う必要があるのだと真紀は思った。


「いえ、このような時ですが、聖女を間近で見たからにはぜひ挨拶をと。それでは鳥人に紹介していただけますか」

「ええ? うん、ちょっと待ってね。サウロ!」


 サウロもサイカニアも人魚を見かけてすぐ近くで見張っていたので、声をかけるまでもなかった。


「人魚が鳥人に話があるなどと珍しい」

「次期長殿とお見受けします」


 人魚はすっと頭を下げた。


「聖女のお一人が連れ去られたのを我らは海から確認しております。方角から言っておそらく内陸へと長が判断し、すでに内陸の鏡の湖へ先遣隊を送り出しております。しかし、湖から先、水の道がなく、また馬車などでは着くのが遅いと。鏡の池から、鳥人に内陸の城まで連れて行ってもらいたいとのことでした」

「人魚を、我らが運べと……」


 さすがのサウロも呆気にとられた。


「鏡の湖から王都まで、鳥人なら何時間もかかるまいと。それを見越してなるべく軽い者を派遣しているとのことです」


 サウロの顔が引きつった。カイダルのようながっしりした者も運べはするのだが、カイダルはそれでも170cmほど。二メートルを超えることもある人魚を、運べるかどうか。


「人魚は空は大丈夫なのか」

「我らの故郷は海。空に高く跳ねることもあれば、海に深く潜ることもある。陸でも問題ありませんし」

「ううむ」


 聖女のために何かしたいという人魚の気持ちはわかる。通常時であれば、むしろ面白いと思ったかもしれない。


「ミッドランドを通るときに、鳥人たちに鏡の湖に寄るよう声をかけてみよう。その際、他の鳥人にも伝言がいきわたるように取り計らっておく」

「それで十分です。次期長よ、ありがとうございます」


 人魚はそう言って軽く頭を下げると、覚悟していた真紀をそれぞれ抱きしめて海へと帰っていった。


「いつか人魚全員にハグされたことになりそうな気がする」

「それにしても、鳥人と人魚が手を結ぶとは……」


 エドウィが難しい顔をしている。


「え、結んだら駄目なの?」

「ダメではありません。非常時ですし。でも、すべてが終わってあの気ままな二種族が手を結んだままだと、いろいろ厄介そうだなと思っただけです」

「ああ」


 鳥人にも人魚にもお世話になった以上に迷惑もかけられている身としては、そう言うしかなかった。


「さて、ではそろそろ行きましょうか」


 とりあえずミッドランドへ。そして内陸へ。






次も水曜日更新の予定です。




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