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聖女二人の異世界ぶらり旅  作者: カヤ
内陸編

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動き出す

 その頃獣人領では、どうやら千春が内陸に連れていかれたらしいということはわかって、方針がつぎつぎと決まっていった。朝の内には鳥人は次々と伝令としてあちこちに飛び立っていった。


 まず、今一番戦力が集中しているエルフ領へ。もしダンジョンが落ち着いているのなら、できる限りの兵を乗せて飛行船はそのままローランドへ向かう。いつ動いてもいいように、人間領に兵力を移すのだ。エアリスも機動力のある小さい飛行船を、とにかく本人ごと人間領に移す。もちろん、カイダルやナイランも連れて行ってもらう。


 ドワーフ領にも使者が出ている。ドワーフ領からは、内陸のダンジョン対策に、採掘をする専門家を中心とした人材を列車でミッドランドに動かす予定だという返事が来ている。


 人魚からも伝言が来ていた。すでに人魚は水の道を通って、内陸へ移動を始めていると。


 ローランドにも、ミッドランドにも使者が行き、それぞれの城で対策を考えることになっている。少なくとも、三領の者が人間領を通るのを妨げることのないように要請が行っているはずだ。


「千春、なんか大事になってきたよ……」


 真紀は不安になって思わず背中を丸めてしまった。サウロは自分が動きたいだろうに、ミラガイアと一緒に鳥人の司令塔としてどっしり構えて指示を飛ばしている。ザイナスもレイアも、鳥人以外の獣人から人をえりすぐってドワーフ領のノワールに向かわせている。獣人型で獣人領を高速で駆け抜けた後、列車で人間領に移動するのだという。


 既に列車は臨時便がどんどん出されている状態だそうだ。


「おい、あれはなんだ!」


 後ろの方で叫んでいる声がして、真紀ははっとそちらに振り向いた。


「エアリスの、飛行船……なんで、ローランドに向かったはずじゃ……」


 どうやら不測の事態だったらしく、ザイナスを始め獣人たちは大慌てで洞窟の前の広場を空けている。そこに飛行船がふんわりと降りてきた。


 着地した途端、飛び出してきたのはエドウィだ。


「マキ!」

「エドウィ」


 エドウィは広場をぐるりと見渡すと、すぐに真紀を見つけて走ってきて抱きしめた。普段だったら手を握っただけでも赤くなる奥手な王子だが、今はそんな事を言っている場合ではなかった。大事な真紀が千春と引き離されてどんなにつらい思いをしているか。それだけが心配だったのだ。


 真紀はエドウィの肩に顔をうずめた。弟のように思っていたエドウィだけれど、この時ばかりは兄のようでもあり、真紀はやっと肩の力が抜けたような気がした。


「話は聞きました。マキ、大変だったでしょう」

「私はいいの。こうしてみんながそばにいるから。でも千春が……」


 真紀はエドウィがひそかに千春を慕っているのを知っていた。私どころではない、本当は千春が心配で仕方ないだろうに。


「チハールのことは、今各国が、そしてみんなが何とかしようとしています。もちろん心配ですが、今はマキのほうが心配な気がして」

「エドウィ……」

「そうだぞ、マキ。いつだってさらわれるのはチハールで、それをどれだけお前が心配してつらい思いをしているか、俺たちは知ってるからな」

「カイダル! アーロンも!」


 エドウィの後ろに所在なげに立っていたのは、カイダルとアーロンだった。


「ナイランは指示をするものが必要だろうと言って、そのまま大きいほうの飛行船でローランドに向かった。俺はまあ、自由に動いた方がよさそうだからな」


 アーロンが苦笑しながら真紀を見た。


「その、マキ」


 カイダルは遠慮がちに真紀に近寄ると、エドウィと同じようにおずおずと抱きしめた。


「あいつにはゲイザーがついてる。いざとなれば、しなやかで強い。その、心配するな、って言ってもするだろうけど、とにかく」

「うん」


 真紀は素直に頷いた。カイダルの温かい気持ちが、熱となって伝わってくる。エドウィよりがっちりした広い胸で、カイダルの装備の革のにおいに包まれて、真紀はなんだか泣きそうになってしまった。


「うん、ありがとう」

「そ、そうか」


 真紀は顔を上げると、にこりと笑ってカイダルから離れた。そこにすごい勢いでエアリスがやってきて、有無を言わせず真紀を抱き込んだ。


「エアリス……」

「マキよ、頑張ったな」


 どうしてみんなこんなに優しいんだろう。エアリスだって千春を溺愛しているはずなのに、こうしてまず真紀の心配をしてくれる。こんな人たちのためだから私も千春も、ちょっと無理してでもがんばろうと思うのだ。誰かに強制されたからでもなく、自分から進んで。だってみんなだって自分の役割を必死に果たしている。決して、真紀と千春だけに押し付けているわけではないのだ。


 エアリスが抱き込んでいた真紀を離し、大丈夫かというように顔を覗き込んでくる。嬉しくて泣きそうな以外は大丈夫だよ、と真紀は口の端を上げて見せた。


「大丈夫ではなくても、仕方ない、そうだな、マキよ」

「うん。千春を助け出すまでは」


 そのようすを見ていたザイナスが、腕を組んだまま首を横に振った。


「やれやれ、エアリス、お前たちはすぐにローランドに行かねばならなかっただろう」

「む、ザイナス。私たちは自由に行動したほうが結局は皆のためになると思うが」

「確かに、言うことを聞くメンツではないか……」

「しかし考えがないわけではないのだ」


 エアリスはわがままでこのようなことをしているのではないと強調した。


「ローランドよりミッドランドのほうがハイランドに近い。それに、ローランドの王より、アーサーのほうが、ハイランドの王と仲がよい。したがって、私はアーサーの近くにいて、アーサーの補助をするべきだと思うのだ」

「人族の王が出る事態だと判断するか」

「おそらく。公式の場でハイランドの王を見なくなって久しい。人族に介入できるのは人族であろう」

「そうだな。我らは聖女救出に集中するが、人族への配慮も必要か。仕方ない」


 真紀はその話を聞いておろおろしてしまった。国が動くってこと? それじゃ戦争みたいじゃない。


「マキ、内陸のしたことはそれだけ大きいことなのです。同じ人族を裏切り、三領を裏切り、神をも裏切った。しかし、それは王族や国の代表に任せてください。マキのすることは、チハールを助けること」


 エドウィがにっと笑って見せ、それからまじめな顔に戻ってエアリスのほうを見た。


「さ、エアリス」

「そうだな。ザイナス、我らはこれからすぐにミッドランドに向かう。6,7人なら乗れるが、連れていくべきものはいるか」

「ちょうどよかった。このあいだの潜入メンバーを、四人。そして私だ」


 ザイナスは残って指示をするものだと思っていた真紀は驚いた。


「ザイナス、お前は指揮をとらなくていいのか」

「なに、レイアがいる。人族の前には獣人代表として私が立った方がいいだろう。レイアも納得済みのことだ」

「よし、それなら急いで準備をしろ。それからマキはどうする」

「え、私」


 真紀は突然聞かれて驚いた。やるべきことがはっきりしたら、サウロとサイカニアと直接海を渡ろうと思っていたのだ。そこに突然飛行船という選択肢が出てきた。飛行船のほうが楽だが、鳥人と飛ぶ方が早い。


「マキ、そのために私が来たのです。今人族で鳥人と長時間飛べるのは私と真紀だけです。二人でサウロとサイカニアと共に先行しましょう」

「エドウィ、いいの?」

「ミッドランドの城経由で。少しでも早く父上に状況を知らせましょう。マキはなるべく早くチハールのそばに行った方がいい。ゲイザーと意思を疎通するためにも」

「うん!」


 これでやっと動ける。マキの瞳が力強く光った。


次も水曜日更新の予定です。




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― 新着の感想 ―
そういう話じゃないのはわかってるけど、マキちゃんのカラテ炸裂してほしい…
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