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聖女二人の異世界ぶらり旅  作者: カヤ
ドワーフ領編
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大人でいるって大変なこと

毎日外出するのに、そうお金を使うわけではなかったが、いちいち宰相にお金の支出をわずらわせるのはいやだったので、真紀と千春はそれぞれに口座を作ってもらった。また魔石が落ちたから、それを買い取ってもらい、一人当たり500万ほど口座に入っている。


聖女としての手当は、別に聖女用の財産として前代までのものとまとめてもらっている。真紀の緑茶や、千春の女性用ズボンなどは特許料がもらえるようで、


「それもこの魔石の口座に入れておくようにしましょうね」


とセーラが手配してくれた。これは商業ギルドで聖女だと仰々しくならないように、一般人として作ってもらった。そのため街に下りるときにいちいち王や宰相に小遣いを用意してもらわなくてもよくなった。


そのお金を持って、雑貨の店や服の店などに二人はよく出かけた。さすがに護衛も店の中までは来ないので、少し気を抜いていられる時間だ。グルドに選んでもらって、カバンも買い込んだ。大きなカバンだが街に出る時にも持って買い物を楽しんでいる。


鳥人にも慣れて、少年の姿に着替えてカバンを持ったまま部屋のバルコニーから城門まで運ばれている姿がよく見られるようになり、午後の聖女のお出かけとして、城に働く人からは暖かい目で見られていた。


そんな日々もあっという間に過ぎ去り、城には各領からの代表が集まりつつあった。通達ののち、獣人領からはドワーフ領を経由して10日、エルフ領からは飛行船で一日。人間領の内陸からはやはり10日。南領からも10日ほどで、お披露目に参加する面々が集合したのだった。


各領地大きい問題もなく、久々の慶事とあって、城にも街にもたくさんの人が詰めかけている。


真紀と千春は、聖女に会いたがる高貴な面々に、いやな顔一つもせずにこにこと対応していた。


「安全のためにそろそろ街に行くのも控えてもらってよいだろうか」


というアーサーにも、


「そうですね」

「そうします」


と大人しく返事をしたのだった。


「なあ、エアリス、ザイナス」

「「なんだ」」

「マキとチハールの様子、おかしくはないか」

「アーサーもそう思うか」

「思う」

「そうか、毎日穏やかに過ごしていて良いと思うが」


少し憂い顔をするアーサーとエアリスに対して、ザイナスはそう言った。しかし、アーサーに、


「よいことはよい。しかし、最初の何日かを思い出してみろ」


と言われると、


「確かに、もっと元気いっぱいで生き生きとしていたな」


となった。


「最初のころと比べると、なにかうすい壁が一枚できたようで、もどかしい」

「なにか原因はあるのだろうか」

「……気になることはなくはない」

「なんだ、エアリス」

「内陸の者どもだ」

「エドウィとも年近い王子と王女がいるから、早く来て交流していたと思うが、それがどうかしたか」

「人懐こいマキとチハールが近寄らぬ」

「気がつかなかった。そこはエドウィが見ているはずだが……」

「マキとチハールは元気とはいえかの国の聖女。繊細でないわけがない。セーラをはじめ、護衛の者にも声をかけて注意すべきではないのか」

「そうするか」


原因はなくはなかった。真紀と千春はうんざりしていた。そもそも出だしから強烈だった。内陸の人たちとは、正式な挨拶の前にたまたま庭園で会ったのだった。サウロとサイカニアと一緒に、城に先に来ていた南領の客の小さな子どもたちと遊んでいるときのことだった。小さな子たちは低いところを鳥人に運んでもらって大喜びだ。


「ほう、今代の聖女は暇なことだな。城中が客のもてなしで忙しいというのに、鳥人と戯れているとは」


振り向くと、侍従に先導されて3台の馬車からおりた10人ほどの人々がこちらを見ていた。この国の衣装と違い、女性はスカートをふんわりと膨らませたワンピースを着、男性はジャケットを羽織り首元にゆったりとスカーフを巻いている。


どこぞの王族が来たのに違いない。声を出したのはおそらくなかほどの中年の男性。


眉をしかめるサウロとサイカニアだったが、何かを話す前に千春が止めた。正式に紹介もされていない中、うかつな事を話すべきではない。


先導していた侍従があわてて、


「こちらが当代の」


と紹介を始めようとしたが、


「必要ない。早く休みたい」


と言うとこちらを無視して足早に去っていった。エドウィと似た年頃の男性がチラリとこちらを見て興味なさそうに通り過ぎて行く。また年若そうな少女が、ふたりを上から下まで眺めると、ふんと顔を背けて行ってしまった。


「サウロ、サイカニア、あれなに?」

「おそらく内陸の王族だろう」

「聖女に会いに来たんじゃないの?」

「そうだと思うが、内陸のものはよく知らぬ」

「そうなんだ……」


まあいい。別に披露されたくてされる訳でもない。くだらない式典でも必要なら出るだけ。やることさえすませれば、それが後の自分の平穏な生活のためになるのだから。それが真紀と千春の考え方だった。


しかし。


額の魔石はどういう訳か生成のスピードをゆるめず、リボンを巻いていてもともすると落ちることがあった。


それを内陸のものに見られた。


「汚らわしい」

「瘴気を集める体なんて」

「聖女宮にこもって出てこなければいいのに」


彼らはそう言った。護衛はたしなめようとしたが仮にも他国の王族、これも千春と真紀は止めた。汚らわしければ見にこなければいいものを、彼らは物珍しげに見にやって来てはけなしてくる。


さすがに参ってきたところに、その事件は起きた。


お披露目前日の晩餐会の後、真紀と千春が南領のかわいらしい王女と話をしていた時のことだ。王女とその付き人の子どもたちは真紀と千春、そして鳥人にもよくなつき、それを大人たちもほほえましく見守っていた。


「メイヤ様、少し聖女から離れた方がよろしくてよ」

「まあ、シュゼさま、なぜ? 楽しくお話ししていますのに」


小さい王女は不思議そうに言った。さすがに知り合いのようだ。真紀と千春はまたかと思ってうんざりした。


「まあメイヤ様、ご存知ないの? 聖女は額に瘴気を集めていますのよ。近づいたらメイヤ様も汚れます」

「シュゼさま、メイヤはこの間習いました。聖女様は身をもって私たちのために瘴気を浄化してくださると」

「浄化するために瘴気を集めるから汚いのよ。さあ、シュゼと向こうに参りましょう」

「いやです。メイヤはマキさまとチハールさまのそばが好きなの」


小さいメイヤははっきりと言い切った。すばらしい!


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