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聖女二人の異世界ぶらり旅  作者: カヤ
内陸編

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馬鹿なの?

 千春ははっと目が覚めた。明るくなっている。体は毛布に包まれたままだが、顔は出ているし、手足が楽に伸ばせるようになっている。途中で包みなおされたようだ。すっと心を澄ませると、ゲイザーはついて来ていないようだ。ん、ちょっと待って。なにかいる。


 千春は顔を動かして、気配を捜した。


「上だ!」


 見上げてみると、かごの隅っこに小さいゲイザーがひっそりとくっついていた。


「君、ちっちゃいゲイザー君、だよね。ミッドランドで会った」


 ゲイザーは隅っこからふよりと出てくると、くるりと回った。手のひらに乗せられそうなくらい小さかったゲイザーは、エルフ領で見たより少し大きく成長したようで、もう両手のひらに余るほどになっていた。


「ついて来てくれてたんだ」


 千春の心に、夜の闇に紛れてとっさにドアから入ってこっそりとかごの天井に隠れるゲイザーの姿が伝わってきた。このちっちゃいゲイザー君は楽しいことをさがしてふらふらしていたのだから、きっと気まぐれでついていてくれたのだろう。それでも千春はなんだかほっとして、温かい気持ちになった。


 近くに仲間、いない。昼、苦手。そう気持ちが伝わってきた。


「うん、それでもどこかには、少なくとも夜になればゲイザーがいるから。そしたらなんとかして真紀ちゃんに連絡を取ってもらおう」


 ゲイザーはくるりと回ると、また天井の隅に戻って行った。毛布は今は軽く巻かれているだけなので、千春は毛布からごそごそと抜け出し、窓から外を見てみた。


「あれ、もう下は水じゃない。獣人領の中のどこかにいるということは」


 ここは愛し子に初めて会ったところ。小さいゲイザー君のそんな声が聞こえた。


「だよね、やっぱり」


 ゲイザーには国とかそういうくくりは意味がないだろうから、初めて会ったところに近いという意味なんだろう。つまり、海を越えて人間領に来たということになる。下を眺めると、水田ではなく、麦の畑が見えるから、どちらかといえばミッドランドよりの場所を、人目を避けて飛んでいると見た。


 それにしても、鳥人たちの目的地はどこなんだろう。


 鳥人はお前たちを自由にしてやると言った。自由ってなんだ。


 私たちはどこにいても聖女だとすぐにわかる。確かに、誰もいないところに行けば自由には暮らせるだろう。しかし、自給自足の生活なんて、したいと思ったこともないのに。


 そう考えているうちに、やがて平地は遠のき、山が近づいてきた。


「まさか、まさかね。内陸に行っちゃうとか? こないだ行ったばかりだよ? あと内陸に自由なんてありえなくない?」


 そんな千春の思いを無視し、鳥人はどんどん山のほうへと移動し、やがて広場のようになっている場所に舞い取りた。ドスンと。


「相変わらずへたくそよね。さっきはよく起きなかったよね、私。本当に疲れてたんだなあ」


 ぶつぶつ言っていたらかごの扉が開いた。


「さ、聖女よ、疲れただろう。下りたらいいぞ」


 やっぱりあの四人の茶色い鳥人たちだ。ええと、マロとかオミとかなんとか言っていた。


「ラモと」

「モアよ」


 それだ。後はもっと長い名前の……。


「アレクトロとエルリアンだ」


 その四人組が、多少疲れた顔をしながらそこに立っていた。自分はいいことをやったと思っているのだろう。達成感に満ち溢れた顔をしているので、千春は腹の底から怒りを隠せなかった。かごから少しふらつきながら外に出ると、腰に手を当てて、


「ちょっと! 誘拐犯! 真紀ちゃんのところに返しなさいよ!」


 と怒鳴ってしまったのは仕方ないと思う。


「ゲホゲホっ」

「ずっと飲み食いしていないもの。さあ、まず水と食べ物を」


 思わずむせた千春に、モアが荷物から、パンにいろいろ挟んだものと水筒を出してくれた。千春は怒ってはいたものの黙ってそれを受け取ると座り込み、水を飲み、もくもくとパンを食べ始めた。腹が減っては戦はできぬ。ましておとといは熱を出したんだしねと気合を入れた。


「ごちそうさまでした」


 たとえ誘拐犯が相手であっても食事の挨拶は大切だ。千春はそれから、座ったままでもう一度言った。


「もとの場所に返して」

「獣人領に戻したら、またあいつらのいいように引き回されてつらくても仕事をしなければいけないことになる。それはできない」

「私がそれでいいと言っているの。どうしてあなたが勝手に私の気持ちを決めるの?」

「おまえ、働かされすぎてちゃんとした判断ができなくなってるだろ。俺、聞いたから。日界に召喚されてからこっちどれだけたくさんの仕事をしたか。鳥人なら一生かかってもやらないくらいの仕事量だ」


 確かにたくさん働いたと思う。しかし、それでも日本にいた時だって同じように働いていたのだ。一生この生活が続くわけではない。聖女がいなかった半年を取り返すために、最初だけ頑張ろうということだと千春はわかっていた。


「ねえ、聖女」

「千春だよ」

「チハール」


 いちいち聖女と記号のように呼ばれるのも腹立たしい。千春はモアに名前を言った。


「ねえ、みんなが好きだから、みんなのために我慢して無理をしているんじゃないの? イヤって言えなくて」


 モアのほうがまだましなことを言っている。


「みんなが好きだからやっているのは正しいよ。みんなよくしてくれたもの。無理をしているかと言われたら、無理をしてるよ。だって、無理をしなかったら怪我をする人や病気になる人が出るんだよ」

「それは、チハールが心配することじゃないでしょ。獣人領のことだもの」


 千春は、今までどちらかというと人間が三領の人たちに、差別的な気持ちを持っているのだと思っていた。しかし、モアの言っていることは、逆に言えば、獣人領の人は人間領に何かあっても心配することではないということになる。


 ミッドランドにいるときは気づかなかった。でも、千春が思っているより、人間領と三領の人たちの心の距離は遠いのではないか。お互いに関係ないと思っているとしたら? 千春はぞっとした。


「だから、お前を大切にすると約束してくれた人間領のもとに連れていく。聖女はもう三領へは来ないほうがいい」

「ちょっと待って! それはもしかして」

「内陸だ」


 内陸が聖女を大切にするなんて絶対にない。


「内陸が聖女をいらないと言って経済封鎖されたのを知らないの?」

「知っている。が、俺の知っているいい人間は内陸の者だけだ。噂は信じない」

「噂ってちょっと」


 馬鹿なの? ねえ、馬鹿なの?


「ちょっと!」

「聖女は周りの者にうまいこと言われて、俺の言うことを信じないかもしれないと内陸の者に言われた。何を言われても気にせず、連れて来いと」

「馬鹿なの?」

「夜になったらたつ。聖女は休んでおくといい」

「ねえ!」


 今度は思わず言葉に出てしまった。しかし、モアこそ心配な目を向けるものの、それからは何を言っても鳥人は一切答えなくなってしまった。千春はかごに隠れているゲイザーに祈るしかなかった。どうやら内陸に連れていかれるらしい、助けてと伝えて、と。





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