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千春の行方

「どうしたのだ、マキ、そんなに震えて」


 駆けつけてきた鳥人の、ミラガイアより先にサウロが真紀の異変に気付いた。しかも真っ青なことに。


「鷹羽もいるか」

「こんな遅くに、なんだいったい」


 茶羽の鳥人の代表はザイナスの言葉に不機嫌をにじませていたが、招集を受けて素早くやってきた。


「千春がいないの」

「またか!」


 サウロの言葉は平常時なら笑えた一言だ。今はただ現実としてみんなにしみわたった。


「少し見当たらないくらいで我らを呼びつけるわけがあるまい。マキ、ザイナス、一体何があったのだ」


 意外なことにミラガイアが冷静に事態を把握していた。


「まず、いないとわかった状況だが、昨夜熱を出したチハールは早めに宿に戻ったはずだった。皆も見ていたように、カラテと言うものを求められて披露していたマキがあとから宿に戻った時には、チハールはそもそも宿に戻っておらず、荷物の移動のようすもなかった。これがまず現状だ。次に、聖女がゲイザーと意思を通じることができるのは皆わかっていると思う。これはゲイザー経由の情報だ。マキ」


 ザイナスがまず、千春がいないという現状を説明する。そして真紀にバトンタッチする。真紀は落ち着くよう自分に言い聞かせ、順番に説明していく。


「ゲイザーにいろいろ聞いたところ、千春は突然毛布のようなもので体を覆われ、かごのようなものに入れられて、今はどこかの水の上を運ばれているらしいです」

「水の上だと……船か?」


 ミラガイアの疑問に真紀が首を横に振る。


「いえ、ばさりという羽音が伝わってきますから、おそらく空を」

「ばかな。それではまるで鳥人が犯人であるかのようではないか、いい加減に」

「ソニッド」


 茶羽の代表をミラガイアが静かに押さえた。そしてサウロに目をやる。


「サウロ」

「わかった。聖女を運んできたかごの確認とラモとモアたちの所在の確認をする」

「待て! ラモとモアだと!」


 ソニッドと呼ばれた茶羽の代表が子どもの名前を呼ばれて驚きと怒りをあらわした。それに目もやらずサウロとサイカニアはばさりと飛び立った。


「ソニッド、騒ぎ立てすると代表と言えどそなたを拘束することになる。やましい所がなければ静かに待っているがいい」

「くっ」


 状況から考えて、風呂を覗いたうえ、罰を受けても平気で抜け出してきた茶羽の四人組が一番怪しいのは確かなのである。


 まずサイカニアが戻ってきて、


「かごがない」


 と言い切った。表情のわかりにくいサイカニアだが、焦っているようすが伝わってくる。その後しばらくしてサウロも戻ってきた。鳥人を何人か引き連れて。


「ラモもモアも、アレクトロもエルリアンもいない。これらは謹慎中の奴らの監視だ。事情を聴くために連れて来た」


 その鳥人たちはなんで自分たちが呼ばれたのか分かっていないようだった。


「お前たち、ラモとモアは」

「謹慎などいつものことだと、だいたいおとなしくしていましたが夕方に出かけてそういえばまだ帰ってきていません」


 当たり前のことをなぜ聞くのだというその調子に、全員が呆気にとられた。真紀が思わず口に出した。


「それ、監視の意味がないじゃない」

「見てはいましたよ。だが、そもそも別の仕事をしているのに、監視人がいないからと代理で頼まれた仕事です。出ないように見てはいましたが、出てしまったものを止めるのは仕事ではない。それにラモとモアはいつもそうじゃないですか」

「それが鷹羽のやり方か」


 ミラガイアの言葉にソニッドは目をそらした。それを忌々しそうに見ながら、ミラガイアは続けた。


「ソニッド。今はチハールの捜索を優先する。ラモとモアの取り巻きを今すぐ集めろ。犯人と決まったわけではないが、なぜさらったのか、どこに連れて行こうとしているのかが気になる。マキ」

「ミラ……」

「今のチハールのようすはわかるか」


 真紀は少しうつむいた。わからないのだ。


「ゲイザーはそれほど早くないから、何体かついていったみたいだけれど、力尽きてしまって。それでもよく鳥人の速さについていけたものだと思います。千春が今どうしているかはわかりません」


「わかった。マキは明日のために休んでほしい。水、と言うのが海でなければいいと願うのみだ」


 休んでほしいとわれても不安が大きくて休めるわけがなかった。だが、すべてを心配そうに見ていたオーサが一緒にいてくれ、やがて千春ほどではないにしても疲れていた真紀も眠りについた。


 次の日、ミラガイアの不吉な言葉は現実となった。


 ラモとモアの取り巻きだけでなく、事件を聞きつけてたくさんの鳥人が自主的に集まった結果、あっという間に行先の見当がが付いたのだ。そしてその行先を聞いても、かなりの数の人が、不思議に思わなかったらしい。もっとも、最近、聖女たちについて精力的に仕事をしていたサウロとサイカニアは別だった。


「内陸?」


 サイカニアよりも表情の変わらないサウロが、珍しく呆然とそうつぶやいた。


「なんでサウロが驚くんだよ、サウロのおかげなのに」


 鳥人の若い者はむしろ驚いたようだった。


「サウロが人間領はいいものだと言っただろ? 俺たち茶羽は白羽よりは飛行距離が短い。だから好奇心は強くても、海は越えられないって勝手に思ってたんだよね。でも、サウロのおかげで、例えば途中で人魚島で一度羽を休めたらいけるんじゃないかってことになって、そうしてラモとモアを中心にやってみたら案外簡単に行けてさ。むしろ俺たちのような若い世代は途中で休む必要すらなかった」


 と誇らしげだ。


「俺たちが任務でいない時にそんなことをしていたのか」

「もともと遠くにまで行ける白羽にはわからないかもしれないね。実際白羽の連中は、やっと茶羽もできたかくらいの目でしか見てなかったし」


 そうサウロに答えて肩をすくめる若い茶羽に、


「視野が広がったこと自体はいいのだ。行動範囲が広がるのもいい。私も茶羽の一員として、今回人間領での仕事は大変楽しかった。が、限度と言うものがあるだろう!」


 怒っているのは同じく茶羽のクリオだ。クリオとカエラは、内陸で人魚の救出作戦を手伝ってくれた鳥人たちだ。好奇心は強いものの、仕事に手を抜いていたという記憶は真紀にはまったくない。だからこそ茶色の鳥人にも警戒心はもたなかったのだが。


「それで、内陸の王都まで遊びに行っていた奴らが、好奇心から内陸の王族と仲良くなったと」

「王族かどうかはわからないよ。けど、獣人に差別がひどいって聞いてた内陸の人たちはずいぶん好意的で、特に王城での歓迎はすごかったんだよ」


 真紀もザイナスも、それにミラガイアも信じられないという顔をした。


「バカな。内陸が聖女への不敬で経済封鎖されたことを忘れたか」

「俺たちにとってそれが何の関係がある? 今、俺たちに親切にしてくれる奴らと敵対しろと?」

「それは、もちろん敵対する必要はない。が、もともと獣人を特に嫌悪する傾向が強い国だ。何か裏があるとは思わなかったのか」

「そんなこと思ってるのお偉方だけだろう。俺たちはサウロの言った通り、民間人として内陸に観光に行って、仲良くしてきただけだ」


 サウロが天を仰いだ。鳥人は自由だ。それが大切なことだと思ってきた。が、他国に訪れて、他の国や種族の考えを知らない者たちが、こんなに幼い考え方をしていたとは気づきもしなかった。少なくとも茶羽の代表の子どもくらいは、他国の城付きの経験をさせておくべきだったのだ。



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