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聖女二人の異世界ぶらり旅  作者: カヤ
エルフ領編
124/169

飛び立つ時

「あの子たちは何を悩んでいるんだろうねえ」

「オーサよ、我らが頼んだことはとても危険なことだ。悩みもするだろうよ」


ぽつりとつぶやいたオーサにザイナスが答えた。


「それに、獣人領といえど一つにまとまっているわけではない。エルフの国はまだ飛行船が通っているから人間にも親しみがあるが、獣人領と人間領はお互いに無関心というところがあるからな」

「確かにね。犬人族は問題ない。けど、猫人族は賛成しているけれど真意は見えにくい。というか真意があるかすら怪しいけれど」


オーサは苦笑した。


「鳥人族も、一枚岩じゃない。そんななか招くのは無責任かもしれないけれど」

「きちんと部族長会議を経て決まったことだ。公式には大丈夫だろう。ただ自由すぎる種族が何をするか見当もつかぬのは確かだな」


だが聖女を守ろうとし始めたらきりがないのも確かなのである。それにザイナスは楽しみでもあった。


「伝統を守るとか、自分の領地のみで暮らすとか、つまらんではないか。そんななかでマキとチハールがどんな風を起こすか」

「父さんもちょっと変わり者だよね」

「そうだろうか」

「そんなところがさ」


ザイナスは思う。獣人領は他の領と違って種族が一つではない。しかも原初のころはもっといくつも種族があったという。今では伝説となっているが、牛族や兎族など、主に草食の種族だったらしい。しかし例えば人間とドワーフが結婚し子をなせば必ずどちらかの種族の子どもしか産まれないという命の理の中で、獣人族でいつの間にか残ったのは犬人族と鳥人族と猫人族だけだった。理由はわからない。絶対数の多さかもしれないし、生命力の強さかもしれない。人数はそれなりに拮抗している。


「どれだけ自由かが理由という気がしないでもない」

「父さん?」

「いや、なんでもない」


犬人族に関して言えば、群れとしての結束の強さと、群れとして暮らす人族との親和性だろう。


「エルフ領としてももう少し聖女方にはいてほしかったところだが。特に魔物が落ち着いたら、奥地の方にもぜひご案内したかった」

「トールよ、ご案内したいもなにも、次期王たるそなたがここを離れるわけにもいくまいに」

「母上、そのうちいやでも王となり、ますますここを離れられなくなる。それならば少しでも遠くへ行きたいと思うのは道理ではありませんか」


五人もいた姫が誰も王位を継ごうとしなかったから、トールが若くして次期王となった経緯がある。そう言われると一の姫も口をつぐまざるを得なかった。


「本当はザイナスと聖女方について獣人領に行きたいのだが、それは我慢しよう」

「もっと気軽に王族が動ける時代が来ればいいですな」


ザイナスはトールにそう話しかけた。トールしかり、アーサーしかり。国王には仕事が多すぎると思うのだ。


「まことに。おや、聖女方が戻ってきたようだ」


控えの間から、真紀と千春が元気に出てきた。その顔は明るい。


「お待たせしました」


真紀がまっすぐにザイナスを見てそう言った。


「二人で話した結果、獣人領に向かうことにします」

「おお」


ザイナスの優しい目が一層優し気に細められた。それを見てサウロが動いた。


「ではさっそく行くか」

「待って待って、早い早い」


千春が慌ててそれを止めた。


「急いでいるのはわかるけど、そもそもさっき飛んできたばかりでしょうに」

「大丈夫だが」

「運ばれているほうはどうなの?」

「大丈夫だろう」

「いやいや、サウロが決めることじゃないよね」


そのやり取りにザイナスとオーサは苦笑している。


「サウロ、私たちはあんたたちみたいに体力馬鹿じゃないんだよ。マキとチハールには準備もあるだろうし、一晩くらい休ませておくれ」

「空は楽しいのに」

「鳥人はそうだろうけどね」


オーサは肩をすくめた。それから改めて真紀と千春のほうを向くとこう言った。


「エルフ領に来た時の準備のままで大丈夫。ダンジョンの中に入れなんて無茶なことは言わないから、城で着ている普段着でいいよ。それから、獣人領には各種族の代表はいるけれど、王族はいないので謁見とかそんなこともないからね。気張らずにおいでよ」


真紀と千春は目を輝かせて、しかしまじめに頷いた。


結局、次の日出発するまでに、エアリスもエドウィも帰ってこなかった。もっとも帰ってきたところで、鳥人の速さで移動できるわけはない。今回は連れていく人数の関係でアーロンも残ることになる。


アーロンは、ザイナスとオーサの後に箱に乗り込んだ真紀と千春に向かって真剣にこう言い聞かせた。


「お前たちだけで鳥人のもとにやるというのはものすごく心配なんだが、『獣人の良心』とまで言われるザイナスが一緒だからな。大丈夫だと信じてる。だがマキ」


アーロンは真紀をひたと見つめた。


「私? え?」

「無茶はしてくれるな。いくつ心臓があってももたないからな」

「アーロン……」

「エアリスとエドウィに関してはちゃんと話しておくから心配するな」


そう言うと、にこりと笑って見せた。真紀は図らずも胸がドキッとした。なんなの、普段いつも仏頂面の無表情のくせに、アーロンのくせに、笑ったらすごく素敵だなんて!


「ないわー」

「出し惜しみするなって感じ」


真紀に千春が同意すると、隣でオーサが笑い転げた。アーロンはそれを見てやや苦い表情になり、すっと一歩引いた。代わりに一の姫と五の姫がやってきた。


「離れていても、ライバルじゃからのう。悔しかったら戻ってくるのじゃ」

「姉様はまったく。まだエルフ領のどこも見に行っていないのですから。必ず観光に来るのですよ」


そう言って真紀と千春の手を取った。


「私はライバルじゃないけどね、アイラ」

「必ずまた来るからね、リーア」


真紀も千春もそう言って笑った。


「さ、ドアを閉めて、カギはこう」


オーサの説明通り、箱の内側にドアを引いて、内側から鍵を閉める。重さの調節は外から行うらしい。カチカチとダイヤルを回す音がする。


「よし、十分軽くなったわ」

「では心の準備はできたか」


サイカニアとサウロが外から声をかける。同時に、予備の鳥人が何人か飛び立つ準備に入る。バサッと羽音がしたかと思うと、思ったより静かに箱が地面から離れたのがわかった。


「おお」

「うわあ」


箱はゆっくりゆっくりと上に上がっていく。


「すごい」

「こんなに繊細な飛び方もできるんだ」


失礼な二人である。


「まあ、普段の言動を見ているとわからないかもしれないけれど、サウロとサイカニアは近年まれにみるほど優秀な次代だと言われてるんだよ、鳥人の間ではね」


オーサの説明に心底驚いた二人だった。ザイナスはくつくつと笑いながら、


「鳥人の間では、というのがポイントだな。優秀なのは間違いはないが、急進的過ぎて鳥人族からも他の獣人族からも反発をされることがないわけではない。しかし」


真上に上がった箱は、ゆっくりと動き始めた。次第にスピードを増していく。


「優秀だ」


青空に力強く飛ぶ鳥人の羽が日をはじいて美しい。どんどん遠ざかるエルフの城を見ながら、獣人領に思いをはせる二人だった。



ぶらり旅を書き始めてから一年、短編以外投稿していなかったので、リハビリに新作を書き始めています。書きたかった赤ちゃん転生です。

「転生幼女はあきらめない」(6話まで投稿)


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