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聖女二人の異世界ぶらり旅  作者: カヤ
エルフ領編
123/169

大切にしたいもの

ザイナスの説明は続く。


「マキ、チハールよ。一緒に作戦を遂行したのが、ついこの間のことだったな」

「うん。大変だったよね」


千春はわが道を行く人魚の長を思い出しながら思わず遠い目をした。


「私も、マキとチハールも、ただの偵察だったはずなのにな」

「結局、救出に巻き込まれて」


ザイナスと千春はふふっと笑いあった。しかしザイナスは顔を真剣なものに戻した。


「マキとチハールとは、召喚されてすぐからの間柄だ。つらい時にそばにいてやれず、歯がゆい思いもしたし、もっと大切にしたいと思っていた。だが」


だが、なんだというのだろうか。


「ドワーフ領から帰ってきたとき、エドウィが言うのだ。聖女のお二人は決して守るべき弱い人ではありませんとな。きちんと話し合って、思う通りに動いてもらうのがよいのですと」


さすが、エドウィ。ここにはいないエドウィの株はまた上がった。


「しかしドワーフ領から帰ってすぐにマキもチハールもエルフ領に旅立ち、私もすぐに任務で出かけて、エドウィの言うことを実感する間もなかったのは確かだ」


確かに、飛行船にも見送りにさえ来れなかったほどだ。


「だが思いがけずアミアの件で協力することになった。そのことで二人の力強さも、覚悟も、我らが過小評価していたことにようやく気付いたのだ」


ザイナスは真紀と千春を交互に見てこう言った。


「獣人領から正式に依頼する。無理はさせないつもりだ。だが、魔物を魔石に還す手伝いをしてもらえまいか」


隣でサウロも一歩前に出た。


「獣人領の総意ではあるが、鳥人族からも改めてお願いする。わが獣人領に招かれてはくれないか」


そう言われたらやるしかない。真紀はむしろ張り切って返事をしようとした。だがそこで真紀の手をぎゅっと握った人がいた。


「千春?」


それは意外なことに千春だった。あのサイアの頼みでさえ引き受けた千春が、なぜザイナスの頼みをすぐに引き受けないのか。仲間が困っていたら、絶対に見捨てないはずの千春が。


「ザイナス、サウロ。その返事をする前に、まず真紀ちゃんと二人で話し合わせてくれませんか。それほど時間はかからないと思う」


千春の手は真紀の手を握ったままだ。


「確かに、即決できるわけがない。それでは、しばらく待とう」

「ではちょうどよい。その間に旧交を温めようではないか」


頷くザイナスに次期王のトールがにこやかに話しかける。


「ではマキとチハールには控えの間を」


五の姫がてきぱきと決めてくれた。アーロンもサウロも、ザイナスと共に行くようだ。二人の姫が部屋に案内してくれると、すぐにお茶の用意がされた。


「のう」

「アイラ、どうしたの」


一の姫が真紀に話しかけた。


「正式な依頼じゃとて、無理はするなよ」

「え?」

「もちろん、エルフ領にいてほしいという利己的な気持ちがないわけではない。しかしそなたら、話を聞いてみたら召喚されてここまで、ほぼ休みなしで移動しておるというではないか。確かにエルフ領も大変だし、獣人領も大変だが、それは自分たちですべきことなのじゃ」

「アイラ……」

「とにかく、よく考えるのじゃぞ」


そう言うと焦ったように出て行った。


「ふふ、アイラと真紀ちゃん仲良しだよね」

「なんだかね。千春とはライバルだけど、私はライバルじゃないからかな」

「ライバルじゃないよ、もう」


千春はそんなことを言う真紀に苦笑した。


「にしても千春、珍しいね。千春なら絶対すぐに行くって言うと思ったよ」

「うん、行きたいとは思ってるんだ。何よりサウロやサイカニアや、ザイナスのためなら危険でもやるべきだと思ってる」

「だよねえ。千春ならそう言うと思ってた。なら、なんですぐに行くって言わなかったのさ」


真紀は素直にそう聞いた。千春は真紀をちらりと見ると、視線を下に落とした。


「前回さ、アミアを助けに行った時」

「うん」

「自分が後悔しないほうを選んだけど、結局いろんな人を巻き込んで」

「ああ、まあ、そうかも」

「あれでよかったのかなってずっと思ってて」

「よかったと思うけど?」


真紀は迷いもせずに答えた。いろいろ悩むことはあっても、やると決めたらやるしかない。それにそもそも悪いのはサイアだ。


「それに今回は私たちが突っ走ったわけじゃないし。向こうからの正式な依頼だよ」

「うん。でもね。私最近ようやっと気づいたんだけど」

「ん?」

「サイアに。サイアにきっといいように使われたんだよね」

「あ、気づいたか」

「やっぱり?」


ゆっくり休む時間ができるといろいろと考えたくなるものである。


「私って押しに弱いところがあるからなあ。きっぱり断るとか、相手の真意を考えるとか苦手なんだよね」

「確かになあ。周りもそれをわかっていて押してくるところもあるし」


それは日本にいた時もそうだった。


「私ね、サウロやザイナスが私たちのこと利用しようと思ってるとか、そんなことは思ってない。でもね、他の人はどうかわからないと思ってる」

「他の人?」

「ディロンやコリートだって、私たちの力を怖がってた。まだ見ぬ獣人領の人たちが、全員好意的だとどうして言える? 私たちをいいように使おうとしか思っていなかったら?」

「千春?」


どうしたのだろう。ここまで千春が暗くなっていたことなど一度もなかったのに。


「そうして、もし、真紀ちゃんに何かあったら?」

「あ」


同じなんだ。どんなことがあっても千春を守ろうと思っている真紀と、真紀の事を大切に思っている千春と。自分が無理をして、真紀を巻き込むかもしれないということを怖いと思っている。


「千春、ありがとう」

「真紀ちゃん……」


隣に座って、肩を寄せ合う。


「ほんとのこと言うとさ、エアリスに千春を取られたような気はしてたんだよね」

「ええ、ないない」


その否定ははエアリスがちょっとかわいそうでもあった。


「もちろん私のことも大事にしてくれるけど、明らかに千春推しじゃん。それにエドウィだって」

「そんなこと言ったら、カイダルは?」

「おおっと、そう来たか」


二人はふふっと笑った。


「なぜだろうね、寿命の長い種族がいるからかな、それとも忙しくてまだ余裕がないからなのかな。ドキドキする気持ちもあるけれど、まだはっきりさせたくないというか」

「わかるわかる」

「でもね、だからこそ真紀ちゃんだけは失いたくないんだ」

「千春、うん。私も」


千春は絶対に失いたくないんだ。だけどね。真紀は少し大きな声でこう言った。


「だからって、引っ込んでいても始まらないんだよ!」

「うんうん。黙って城に滞在してたって、結局事件は向こうからやってくるんだもの」


マンドラゴラとか。最近はミツバチの皆さんも気軽にやってくるようになった。


「だったらこっちから行くしかないじゃない?」

「そうだそうだ!」

「それが大切な人のためになるなら、もっといいじゃない?」

「そうだそうだ!」


真紀は千春と向き合った。


「お互いに、守り合っていこう」

「そうして、一緒に前に進もうよ」


決意はできた。


「さあ、獣人領へ!」

「おう!」


二人の旅は続く。






お話はまだまだ続きます!

ぶらり旅、週一更新に戻ります。水曜日の朝6時を更新を目指します!


それから新作として「転生幼女はあきらめない」を始めました。赤ちゃんに転生して頑張るお話です。

https://ncode.syosetu.com/n2421eu/

とりあえず水曜日以外更新の予定です。


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