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聖女二人の異世界ぶらり旅  作者: カヤ
エルフ領編
122/169

謎の箱

怪しい箱型のものは、上部の前後二か所に丈夫なロープのようなものがついており、それを鳥人が二人で持って運んでいるようだ。確かに、町の中では人々が魔石を使って軽くした荷物を平気で運んでいたし、何なら列車も飛行船も魔石のおかげで軽量化し、かつ動いている。大きな箱だとて魔石を使えば持ち運ぶのは問題ないだろう。


しかし問題は、その箱で何を持ち運ぶかだ。


鳥人たちは静かに舞い降りてくると、箱をそっと地面に降ろした。


「マキ、チハール」


にこやかに声をかけてきたのはサイカニアだ。


「一緒にいたかったんだけど、獣人領でトラブルがあって、戻らなきゃいけなくてね」


そう言って煩わしそうに肩をすくめた。しかし、その後ろから別の声がかかった。


「マキ、チハール!」

「え、ザイナス? それにオーサ?」


驚いたことに、その後元気に声をかけてきたのは、ザイナスとオーサだった。二人は、鳥人たちが運んでいた、奇妙な檻のような箱から降りてきた。真紀と千春は、その箱をしげしげと眺めた。


「やっぱり、あれだよね、私がうっかり口にしてしてしまったあれ」

「真紀ちゃん、間違いないね」


そうおののく真紀と千春が、ザイナスたちと話し始める前に、サウロが割り込んできた。


「マキ、チハール。お前達の依頼したものがついに完成したぞ!」

「いや、依頼してないし」


真紀のつぶやきはどこかに消えてしまった。


「さあ、ちょっとこっちに来い」


そう言ってザイナスとオーサの横を通って箱につれてこられると、箱は大きめの観覧車のようだった。ザイナスが仕方ないなあと言う顔をしてそれを見ている。


向かい合わせで、獣人でも足がゆったり伸ばせる四人がけの席が固定されている。座席の下が荷物置き場なのだろう。窓のところはガラス張りになっているが、外側は檻のように補強材で覆われている。


「ある意味夢のようだけど」


千春のつぶやきもどこかに消えた。


「重くないの?」


という質問には、


「このような人工的なものにすれば、魔石が使えるから、列車と同じように、本体はかなり軽くなっている。当然、中に人が入ったとしても重さは調整できる仕組みだ」


という答えが返ってきた。その隣で、


「まあ、かなり早いうちに完成されていて、近距離ではかなり有効なことがわかっていたが、これが初めての長距離の試験飛行らしい。しかしなあ」


ザイナスが腕を組んでため息をついた。


「慎重に飛んでくれればかなり快適なはずだ。だが、サウロが慎重だと思うか?」

「思わない」

「それにところどころ思いもかけない複雑な気流があるそうで、多少上下してな」


返事をした千春がザイナスの顔色を見ると、多少どころではないかもしれないという印象を受けた。


「サウロ、父さん、気持ちはわかるけど、今はそんな場合じゃないよ。話は王の前で」


オーサの声に、ザイナスははっとした。


「聖女がかかわることなので、マキとチハールも一緒に」


真紀と千春に声をかけると、その後ろのエルフの姫たちに気づき、


「一の姫、五の姫、久しぶりにございます。申し訳ないが緊急事態なので、王と次期王にお目にかかりたいのだが」


と言った。


「ザイナス、久しいの」

「姉様、では」

「うむ」


一の姫と五の姫はザイナスとは親しいらしく、挨拶を交わすとすぐに指示を出し、王のもとに先触れを向かわせた。


「ではこのまま一緒に参りましょう」

「マキ、チハール、ともに」


五の姫の声とともに、ザイナスが真紀と千春に声をかけた。さらに、サウロとサイカニアに声をかけた。


「サウロ、サイカニア、屋内は好まぬだろうが、これも鳥人の代表としての務めだ。一緒に行くぞ」

「仕方がない。これも使者としての務めだ」


サウロはそう言うとサイカニアと共に羽を小さくたたんだ。真紀と千春はザイナスを両側から挟むようにして並んで歩いた。


「マキ、チハール、エルフ領はちゃくちゃくと浄化されているようだな。今回三領を横断してみてわかったが、やはり獣人領が一番瘴気が濃かった」


そのザイナスの言葉に反応したのが一の姫のアイラだ。


「二人がエルフ領に来てからたったの一週間だが、初日で城の瘴気はほぼなくなったのじゃ。そこからおそらくかなりの勢いで瘴気が減っていると思うが、辺境の地からの連絡はまだ来ぬ。ドワーフ領からここまでの間がどうだったか教えてはくれぬか」

「ドワーフ領はそもそも聖女が最初に訪れた三領ですからね、一の姫。三領の中ではもっとも瘴気が薄かったのは確かです。しかし、空が区切られているわけではありませんからな」


アイラに答えて、ザイナスが丁寧に説明する。


いわく、ドワーフ領に近づくにつれ、瘴気がどんどん薄くなり、そのことで初めて獣人領の瘴気の濃さが実感できたこと。逆に、ドワーフ領は獣人領から瘴気が流入しているようで、獣人領と接するあたりはやはり瘴気が濃い目であること。ドワーフ領では瘴気を意識しないほどだったが、エルフ領に近づくと多少瘴気が増したような気がしたこと。エルフ領は、獣人領よりは瘴気がだいぶ薄くなっていること。


「まだ正常に戻ったとは言えないでしょうが、異常なほどに濃かった時期に比べればだいぶましでしょう。さすがに聖女が一か月以上滞在していたドワーフ領は別格でした」


という結論である。


「マキ、チハール、感謝する。おぬしらがエルフ領に来てくれて本当によかった」


一の姫がそう言ったので、二人は胸が温かくなったが、


「姉様はそうは言ってもエアリスが帰ってきたらきっと人が変わりますからね。その感動はその時まで棚上げにしておくほうがよくてよ」


五の姫が厳しいことを言うので、思わず笑いだしてしまった。


「エルフのおてんば姫たちとも仲良くやっているとは、さすがマキとチハール」

「何か言ったかの、オーサ」

「いえ特に」


ぼそっとオーサが言ったことは聞こえないままでいい。


和やかな雰囲気のまま真紀と千春が謁見した場所に向かう。衛兵が扉を開くと、今度は王と時次期王だけが待っていた。


「ザイナス! オーサ!」


トールは嬉しそうに玉座のところから下りてきて、ザイナスとオーサと抱き合った。とても仲がいいようだ。


「父さんは親善大使だからね。どこの国にも知り合いがたくさんいるよ」


オーサがこっそり教えてくれた。


「旧交を温めたいところだが、まず用事か。主にミッドランドにいるはずのそなただけでなく、鳥人の次代までやってくるとは、よほどの事態か」


トールはすぐに真顔になってそう尋ねた。尋ねながらも一行は王のそばまでやってきている。


「ザイナスよ、そして次代が三人もそろっていったい何があった」


のんきな王も表情を引き締めている。


「お久しゅうございます。知っての通り獣人領ではダンジョンは国の管理で、冒険者も受け入れてはいますが基本はわが娘のように国の者が魔物を討伐しております」


ザイナスはそう話を始めたが、その説明はおそらく真紀と千春のためのものであった。真紀と千春もそれを知って真剣に聞き入っている。


「したがって、ドワーフ領やエルフ領より後回しでいいと判断しておりましたが、このところ予想を上回る勢いで魔物が増加しており、国の者だけでは間に合わない可能性が出てきました」

「なんと、冒険者をほとんど必要としない獣人領がその状態か」


王は白いひげを手でひねった。


「もちろん、ミッドランドにもドワーフ領にも使者は出しており、向かえるものを手配してもらってはいます。しかし知っての通り、三領は地続きとはいえ領の境目は山がちで小さい馬車で移動するしかない。もちろん飛行船も飛べぬ」


だから飛行船は基本的にエルフ領と人間領との往復なんだと真紀と千春は初めて知った。


「だから」


ザイナスはマキと千春をしっかり見た。


「今回はやむを得ないことながら、聖女の力を直接借り受けたいという、獣人領からのお願いに参った次第です」


真紀と千春は呆気にとられた。






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