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聖女二人の異世界ぶらり旅  作者: カヤ
エルフ領編
113/169

エルフ領の生物

「それなら、まずどんな所がおすすめ?」


千春はワクワクして聞いた。五の姫は勢い込んで説明を始めた。


「そうね、景色を見るなら奥の地に行くのがいいわ。巨木の森にあるエルフの集落なんてもう神秘的で。本来エルフは森の民だったらしくて、沿岸部に住んでいるエルフは一度は行ってみたいと思うものよ」

「なるほど。そこはぜひ行きたいなあ」


千春は憧れるような目をした。エルフと巨木など、絵に描いたように理想的な観光だ。


「でもそこはダンジョンの近くなのよ。今回聖女の二人はダンジョンのそばには行かないと聞いたわ。だからその手前のほうで見に行くところを考えましょうよ」

「千春と真紀」

「え?」

「名前。私が千春」

「私が真紀」

「あ」


そう言われて五の姫はちょっとほほを赤らめた。


「私はリーアよ。チハール、マキ」


やっぱり私はチハールなんだと思いながら、千春は五の姫をちょっとかわいいと思うのだった。


「なんじゃ、三人とも仲良くして。さっきまでライバルだったじゃろ!」


一の姫が隣で怒っている。真紀はニヤニヤしながら背の高い一の姫と肩を組んだ。


「まあまあ、アイラ? だったよねえ。わかってるって、仲間に入りたいんでしょ?」

「なっ、私はあれじゃぞ? 次期王の母で、つまり子育ても終わった、大人の女じゃぞ? そんな、仲間に入りたいなどということはない!」


プイっと横を向いているが肩の手はほどかない。真紀は、棒読みでこう言った。


「あーあ、人生の先輩についてきてほしかったんだけどなあー。仕方ない、若い者だけで観光に行きますかー」


そして組んでいた肩から腕を外し、リーアと千春の背中を押して三人で歩き出そうとした。


「ちょ、待て、待つのじゃ」

「えーなんですか」


真紀は振り返りもせずにそう言った。


「確かに若いものだけでは不安じゃ。ここはひとつ、人生経験の長い私が監督役を務めねばなるまいて」


真紀はくるりと振り向いた。


「そうですか? では今日はもう遅いので、どこかでお茶でもしながら観光計画を立てたいなあ」

「それなら温室はどうじゃ」

「温室? 夏の終わりなのに?」


千春が不思議そうに尋ねた。


「夏の間は外に開放してあってな、植物の多いのんびりした空間なのじゃよ。しかもエルフ領独自の植物もあるらしい」

「あるらしいって」

「他領から来たものがそう言うのじゃ。だって我らにとっては当たり前にそこにあるものなのだから、独自かどうかもわからぬのだもの」


それはそうかもしれない。真紀が調子よくこう言った。


「じゃあ温室にお邪魔して、知らない植物にびっくりしますか!」

「それがよいのじゃ!」

「姉さまったら、もう」


リーアはすぐに乗ってしまう一番上の姉に苦笑しながら、少し離れて控えていたお付きの人に合図する。真紀や千春の突然の行動にも動じないでそっとついてきていたお付きの人は頷くとすすっと下がっていった。あの人が今、お茶のしたくに行ったんだなあと千春は愉快に思った。


温室は王宮の居住区のすぐ横にあるのだが、そもそも王宮が大きすぎるし、五の姫がなんでも解説したがったので、たどり着くのに時間がかかったのだったが。


「夕食まで時間があるので、軽いものにいたしました」


と言ってお付きの人は軽くつまめるものと、おそらく紅茶を持ってきてくれた。しかし、真紀と千春はそれどころではなかった。


「ひゃ、な、なにこれ、うっわ」


と声を上げているのは真紀で、千春はひたすら固まっている。二人の周りには、、葉のついた白い人参のようなものが枝分かれした足のようなもので歩き回り、それだけでなく真紀や千春にたかってあまつさえ登ろうとしているではないか。一体どこに手があると言うのか。


「何と言われても、そろそろ根別れの時期のマンドラゴラじゃが」

「まあ、さっそく人間領にはないものが登場ですわ! マキ、チハール、よかったですわね」


かわいく首をかしげる姫たちだが、


「マンドラゴラあ?」

「あの、根を引っこ抜くと叫んで、叫び声を聞くと死んでしまうっていうあの?」


と真紀と千春は大騒ぎだ。


「まあ、かの国は不思議な国と聞き及びますが、そのような恐ろしい植物が生えているとは、本当に不思議なものですわ」

「いっそのことエルフの国にずっといてもよいのじゃぞ」


気の毒そうにふたりを見やるリーアとアイラに、


「違う違う、マンドラゴラは空想上の生き物で、私たちの生まれた国では動く植物なんていなかったんだって!」


一生懸命手で人参もどきを追い払う真紀と、危なくないのならと安心してスカートを登ろうとする人参もどきを興味深そうに眺める千春だったが、


「かといってそんなにマンドラゴラに懐かれる者も見たことはないのう。マンドラゴラは時期になると根っこのところから二つか三つに分かれて、新しい場所に移動するのじゃ。ひたすらに移動するだけで人にたかっているところなど見たことがないが、まあ被害にあったという話も聞かぬから大丈夫じゃろうて」


アイラが首をひねる。もっとも、真紀にも千春にも心あたりはありすぎるほどある。動ける生物はみんな聖女が好きなのだ。


「よく見るとかわいい」


千春がしゃがみこんで手にマンドラゴラを乗せてみている。


「顔はないのねえ。ひげ根が手の役割をしているのかなあ」


おわんの形にした手に、わらわらとマンドラゴラが登ってくる。


「ふふっ、くすぐったい」


そんな千春をあきれたように眺める真紀の足元では、マンドラゴラたちが不満そうに真紀の足をぴしぴしと叩いている。


「二人いるんだから、自分たちにもかまえって? 仕方がないなあ」


真紀もその不気味なかわいらしさに負けて、しゃがみこんでマンドラゴラに手を差し出した。


「姉様、これは……」

「さすが聖女というべきか、ううむ」


その光景を驚きながらも見守る姫二人に、お茶も冷めますよとお付きの人が声をかけようかという頃、温室の外が急に騒がしくなったかと思うと、アーロンにエアリス、エドウィが駆け込んできた。


その騒がしさから真紀と千春を守るように、マンドラゴラがいっそう二人に群がった。


「マキ、チハール」

「あなた方は、まったく」


あきれるアーロンとエドウィだったが、


「今回、私たちが怒られる要素なんにもないよね?」


真紀の叫びももっともなことであった。


「ふむ、おもしろい。だが少々邪魔でもある」


エアリスは顎に手をあててそうつぶやくと、真紀と千春のほうにさっさっと近づいていった。


「エアリス」


千春の一言は、マンドラゴラを踏まないようにね、という静かなメッセージだ。踏んでも抜いても生えてくるこのマンドラゴラに気を使う理由などエアリスにはなかったが、千春を悲しませたくなかったので千春の手前で止まった。


すると、マンドラゴラがいっせいにエアリスに振り返った。もっとも、どちらが表か裏かもわからなかったのだが、どうやら顔もあるということらしい。そしてエアリスとマンドラゴラはしばらくにらみ合った、ように見えた。どけ。いやだ。そんな感じだ。


「大丈夫、大切な人よ」


千春の声に、マンドラゴラは今度は真紀のほうにいっせいに振り向いた。


「お、おおう、大丈夫、千春の言う通り、いい人だよ」


そう保証すると、マンドラゴラはしぶしぶとエアリスに道を開けた。エアリスは当然のように千春に近寄った。


しかしその周りでは、


「なんと、マンドラゴラは聖女の言葉がわかるのか……」


と姫たちがおののいていたのだった。


「これが当然の反応だよな」

「むしろマンドラゴラにどけと威圧するエアリスがおかしいですよね」


あきれるアーロンとエドウィとともに。

1巻は序章に過ぎなかった! 次々と起こる事件、巻き込まれる真紀と千春、そして聖女とは!


という緊迫しながらも基本のんびりな『聖女二人の異世界ぶらり旅』2巻は5月10日発売です。


書影は下に(^ω^)

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