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聖女二人の異世界ぶらり旅  作者: カヤ
ドワーフ領編
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夜間飛行

結局3日目は今後のことをどうするか十分話し合わないまま、疲れ果てて寝てしまった二人だった。


ところで千春はうるさい目覚まし時計が嫌いで、日本では小鳥の声が聞こえる目覚まし時計をもう10年ほども使っていた。一方真紀は寝入りも寝起きもいいので、目覚ましは実質使ったことがない。そんな千春は本物の鳥の声で目覚めてみたいと憧れていた。


それは大学生の頃だった。友だちと高原に旅行に行った時のことだ。自然が豊かで、夜は灯りもなく真っ暗な道をたどるとペンション群に行きつくその場所で、千春はわくわくして朝を待った。結果、


「ジジッ、ジュジュッ、ギャーギャー」

「ケーン、ケケーン」

「ギョー、ギョー」

「チチチッ」

「うるさーい!」


怒りながら目覚めたのだった。一番さわやかなのは都会のスズメかもしれない。たくさんの野鳥の鳴き声は時には暴力になるほどうるさいと知った。


と、朝から千春は真紀に思い出を語った。


「うん。わかる。すごくわかるよ。というか今わかった。小鳥でもそれなんだもん。大きい鳥ならましてだよね」


二人はいまだに一緒のベッドを使っていて、やはりあおむけになって天蓋を眺めていた。窓のカーテン越しにさわやかな朝の光が漏れているのに、遠くには大きな影が飛び交い、ばっさばっさと羽音がし、バルコニーからはがやがやと話し声がしている。警備はどうなった。バルコニーの下からは、おそらく兵士と思われる人たちの怒号が響いている。


「あれだよね」

「おそらく」

「真紀ちゃんさ、まだ獣人の国にどんな人たちがいるか気になる?」

「気になるというかさ」


真紀はちょっと詰まった。


「鳥人でさえあれじゃない? もし、もしだよ、猫人とかがいて、やっぱり2メートルあって、そして人懐こかったら?」


千春は震えが走った。たくさんの猫に囲まれてもみくちゃ。ある意味幸せだ。その猫が2メートルでなければ。


「ザイナスさんは大丈夫だったけど、犬人がみんな人懐こかったら?」


千春の頭に、なん十匹もの犬人が飛びかかってくるようすが浮かんだ。待てはきくのかな?


「じ、獣人国は最後にしよう」

「もっとこの世界に慣れてからで」


とん、とん。その時ノックの音がした。


「セーラでございます」

「どうぞ」


呼ぶ前に来るのは珍しい。セーラさんは扉を開けて中に入ると、困ったようにほほ笑んだ。


「大変申し訳ありません。昨日のうちに鳥人の次代は帰ったのですが、今代の聖女と話をしたとたいそう自慢げに語ったらしく」


あいつめ! 話なんかまともにしなかったじゃないか。


「また妹さまが、聖女は二人、たいそうかわいらしかったとそう語り、昨日のうちに鳥人ネットワークで獣人国に知れ渡ったよしにございます。そこから夜を徹して押し寄せたもののようで」

「聖女が落ち着くまで様子を見るようにとも言われてましたよね?」

「その重要性がどのように伝わったのかまでは……」


セーラさんは顔をそっとそむけた。夜間飛行か!


「とにかく、今城のものが事態を落ち着かせていますので、このままお部屋でお待ちくださいますようにと。ただいま朝食をお持ちいたします」


セーラさんはそっと出て行った。真紀が言った。


「城のものに事態を落ち着かせられると思う?」

「むりだな。だって話を聞かないもん、やつら」

「だね。アーサーさん大変だな」


正直、その辺の力関係もわからない。争い事はないようだったが、アーサーの力が強いとも言えないようだった。


「どうしたら落ち着くと思う?」

「好きなようにさせるのが一番なんだろうけど、昨日みたいに力づくで来られるのは絶対いやだ」


千春はそう答えた。


「ごめんね、千春」


しょぼんとした真紀に千春はこう言った。


「だから自分から行く」

「獣人国に?」

「違うよ。瘴気がどうとか最初かっこいいこと言ってたけど、要はさ、聖女を見て、連れて歩きたいんでしょ。だめだと言えば隙をついてさらおうとする、そういう、つまり、おもしろいこと大好きみたいな一族なわけでしょ」

「それっぽかったね」

「だからね」

「うん」

「ちゃんと聖女はいますよって顔見せして、一回運ばれている姿を見せたらいいと思う」

「なるほど、聖女は鳥人は大丈夫ですよ、でも今は慣れてないから後で行きますよってそうアピールするのか」

「そう」


今日もワンピースに、浴衣風の重ね着。色の組み合わせが様々でこれはこれで毎日が楽しい。真紀と千春は手早く洗面を済ませ着替えると、顔を見合わせた。


「行きますか」

「行こう」


そしてがやがやしているバルコニーに続く窓をさっとあけた。


喧騒はそこから静まって行った。下であたふたしていた兵士も何事かと止まった。


千春はぐるりと見渡した。鳥だらけだ。あいつは。どこだ。いた。ほんとは殴りたいけど。


「サウロ!」


声をかけるとバッサバサ飛んできた。


「おお」

「聖女だ」

「二人だ」

「小さい」

「聖女が」

「次代の名を呼んだぞ」


誰だ小さいって言ったのは。


「チハール! マキ!」


鳥人のあけたスペースにしゅっと舞い降りてくる。かっこいいことはかっこいいんだよ。


「みんなチハールとマキを見たがってな。落ち着くまで獣人国には来ないだろうからって言ったが、来ないなら行けばいいだろうと言うことで連れて来たぞ」


無駄に前向きで行動力がある。


「聖女が落ち着くまで待てって言われてたよね」

「落ち着いたか?」

「……」


なんだろう。疲れる。落ち着くまで近くで待つということか。


「サウロ、たぶんだけど、長来てるよね」

「何でわかった! ほら、あそこに」


朝っぱらから庭にはアーサーがいて、大きい白い羽の人と話をしている。あ、眉間をもんだ。千春はふーっと大きく息を吐いた。真紀と目を合わせると真紀はうなずいてこう叫んだ。


「サイカニア!」

「マキ!」


鳥妹もニコニコと舞い降りてきた。


「「長のところに連れていって」」

「いいのか、チハール怖がってたろ」

「いきなりじゃなければ大丈夫。ゆっくりね」


そして鳥人が注目する中、二人は鳥人の兄妹に運ばれてゆっくりと庭に降り立った。あ、パンツ見え……。てないだろう。


「マキ、チハール、朝からすまない」


アーサーがそう言った。


「いえ、でもこれはどういうことでしょう」


千春が尋ねた。


「そなたたちが今代の聖女か」


サウロにそっくりな白い羽根の人がそう言った。これがたぶん、長。聖女にずっと会いたくて、でも嫌われていた。日本ではそれはストーカーって言うんだよ。


長い距離を飛ぶにはもう年をとりすぎているんだろう。疲れた顔をしている。


「マキ、チハール、こちらが鳥人の長、ミラガイアだ。ミラガイア、今代は二人、マキと、チハールだ」

「マキ、チハール」


長は大切な人を呼ぶようにそう口に出した。


「朝から騒がせてすまない。どうしてもお顔を見たかった」


本当にそれだけなんだよ、この鳥の人たちは。それで海を越えてきちゃうんだ。


「ミラガイア様」

「ミラと」

「ミラ様、私たちは昨日、初めて獣人領、エルフ領、ドワーフ領に招かれたばかり。この国に来てまだ4日なのです」

「おお」


初めて知ったという顔をしている。長だよね?


「真紀も私も、旅をするのは好きです。鳥人に運ばれるのも、突然でなければいやではないのです」

「では!」

「いずれ獣人領も行きます。でも、こちらの勉強をちゃんとして、ある程度計画を立てて行きたいの」

「すぐには」

「無理です。違うことが大きすぎて慣れるのが大変なの」


ミラガイアはがっかりした顔をしている。


「ミラよ、嫌われてもおかしくないことをそなたたちはしていると、いい加減気づいてくれ」


アーサーが言う。千春は続けた。


「朝早くとか、突然来るのはだめ。突然連れ去るのもだめ。普通の時間に、普通にお付き合いしましょう」

「来ても会ってくれるか」

「もちろんです。突然はだめですよ」


ミラガイアの顔はぱあっと明るくなった。


「では私と少し空の散歩を。サウロとサイカニアだけ良い思いをして。私もずっとそうしたかったのに」


小学生だな。中身は。千春は真紀を見た。今度は真紀ちゃんの番。


「わかったよ千春。じゃあ私が、え、ちょ、ええー……」


急に連れ去られる怖さを思い知れ、真紀ちゃん! 千春の明るい笑い声が庭にはじけ、和やかな空気が広がったのだった。真紀以外は。うん。パンツは見えないな。


鳥人編終了。旅は……いつ……

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