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聖女二人の異世界ぶらり旅  作者: カヤ
エルフ領編
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姉妹対決

「どうする、エアリス」

「どうすると言われても」


エアリスはいつにも増して深刻そうな顔をして途方にくれていた。そんな男どもが頭を抱えている中、真紀は違った。


「この際はっきり聞くけど、あの人誰なの? それに恋人なの?」


真紀は腕を組んでエアリスに問いただした。エアリスはそれに慌てて返事をした。


「恋人? まさか、あれは一の姫、つまり王女なわけだが、すでに嫁しており、いや、未亡人で」

「「未亡人?」」


真紀とエドウィの声が揃った。寿命の長い種族では伴侶を失うものは少なくないし、再婚も当たり前だ。嫁したというところで一瞬安心した真紀だったが、未亡人と聞いては黙っていられない。もう一言なにか言おうとした真紀だったが、千春に服の端を引っ張られた。


「千春……」


心配そうに振り向く真紀だったが、千春は案外普通の顔をしていた。いや、普通に見える、のだが。真紀は急に寒気がした。千春はまっすぐエアリスのほうを向いた。


「エアリス」

「チ、チハール、違うのだ、私は決して」

「エアリス」

「……はい」


エアリスはしゅんとした。


「あの人をどうするの?」

「そのまま放り出してしまえ」


千春の質問にアーロンが後ろで小さくつぶやいた。


「アーロン、仮にも女性にそのような扱いはできぬ、しかしどうしたものか」


エアリスは本当に途方にくれていた。服を着て外に出て行ってもらうしかないが、そのためには寝室に入って説得しなければならない。しかし入りたくない。


「エアリス、さっき部屋のドアを閉めた時、外に人がいたようだけど」

「ああ、五の姫が入り口からずっとついてきていて、謁見だからと言って何とか振り切ってきたのだが」


何となくみんなでドアのほうを見ると、ドアの向こうにはまだ人の気配がする。


「五の姫ってことは、一の姫の妹よね」


千春はつぶやいた。


「仲はいいのかな」

「あまりよくはないぞ」

「アーロン……」


仮にも王族のことなのだから、あまりそうはっきり言ってはどうかと心配するエアリスだったが、アーロンは気にせず続けた。


「200歳ほど年が離れていて、エアリスをめぐっての恋のライバルだ」

「アーロン! 私はどうも思っていない! 小さいころ遊んでやったせいか、いまだになついて何か勘違いしているだけなのだ」

「そう言う認識なんだ」


エアリスの返事を聞いて千春は腕を組み、真紀のほうを見た。


「な、なに? 千春」

「真紀ちゃん、私たち早くさっぱりしたいよね」


ハラハラして見守っていた真紀は突然の展開にあわあわして答えた。


「う、うん、塩だらけだしね」

「だけど服を着て出ていくように説得するのも面倒だよね」

「う、うん、ちょっといやだな」

「じゃあ、つぶし合ってもらおうか」


部屋に一瞬沈黙が落ちた。


「つ、つぶし合うって言った?」


真紀の声が沈黙の中に響いた。


「真紀ちゃん、ドアを開けるよ」

「ま、待てチハール!」


エアリスの制止も聞かずに、千春はドアを開けた。


「エアリス様! まあ、なんですの、あなたは」


外にいたのはやはり先ほど見た五の姫で、しかしきらきらした美しい顔は千春を見て一瞬にして戸惑いに代わった。千春は無表情に言った。


「入って」


一瞬の沈黙の後、お付きの人たちが騒ぎ始めた。


「その物言い、五の姫様に向かって何ということでしょう」

「失礼な」

「だから人族は」


後ろで聞いていた真紀はイラっとした。しかし千春の背中が何も言うなと言っている。


「入らないの?」


千春の声に、五の姫はそれでも何とか言い返した。


「ここはエアリス様の部屋でしょう。何の権利があって、あなたは」


千春はふふんという顔をした。


「権利? 私はエアリスの客として呼ばれているの。エアリスの許可は得ています。入って」


もちろん、エアリスの許可など得ていない。しかしそんなことは五の姫一行にはわかるわけもなく、後ろの男たちは気圧されて何も言えず、一行はしぶしぶとエアリスの部屋に入ってきた。そして奥のほうで戸惑っているエアリスを見つけて、


「エアリスさま!」


と寄っていこうとした五の姫の前に、千春は手をすっと伸ばした。


五の姫は思わず止まった。千春、怒ってる、珍しく怒ってるよ。真紀は胸の前で手を握りしめた。


「そっちじゃないの。こちらに」


そう言って、エアリスの寝室のほうへ行った。


「そ、そちらは」


五の姫が顔を赤らめた。見た目は20歳前後、正直千春や真紀のほうが年上に見える。そんな見た目が若い女の子がもじもじと顔を赤らめているのだが、千春は躊躇せず、ドアを開けた。


「どうぞ」

「でも」

「どうぞ?」


千春に促され、五の姫は恐る恐る部屋に足を踏み入れ、息をのんだ。


「姉上!」

「なんじゃ騒々しい」

「なんと破廉恥な!」

「未婚の者が寝室に踏み込むことこそ破廉恥であろう」


寝室で始まった騒ぎに、千春は肩をすくめてドアを閉めた。


「千春、ドアは開けておいたほうが面白いんじゃない?」

「だってドアを閉めないと着替えられないでしょ」


だんだんおもしろくなってきた真紀だったが、千春は乗ってはくれなかった。怒り、継続中。


寝室ではしばらくバタバタしていたが、やがて静かにドアが開き、五の姫一行と、それから一の姫と思われる人が出てきた。人族で言えば30を過ぎたほど、それこそエアリスと並ぶとちょうどいい年頃の、美しい妖艶な女性が、髪を緩く横でゆわえたまま立っている。もちろん、服は着ていた。


「エアリス、つれないにもほどがある。めったに帰ってこぬゆえ、待ちわびていたものを」


甘えるようにそう言う一の姫に、千春のこめかみがぴきっと音を立てたような気がした真紀だった。


「一の姫、戯れが過ぎます。何度申されても、私ではお相手にはなりませぬ。残りの人生、ともに過ごせる人をお探しなさいませ」


エアリスは少し迷惑そうに、しかし丁寧にそう答えた。


「姉上、とにかく一度戻りましょう。こんなことが父上に知れたらどうなることやら」

「どうなるもこうなるも、恋愛は自由。城の者は今更私が何をしようと興味など持たぬ。父上は好きにするようにと言っているし」


千春は黙ってドアを開けた。一の姫は皮肉気に口の端をあげた。


「出て行けと? この城の姫に?」


千春は無言を通し、ただ扉を少し余計に開いた。


一の姫はエアリスのほうに振り向くと、


「少しは長く滞在するのであろう。またゆっくりとな」


と微笑むと、すっと部屋を出ていった。


「姉上!」


五の姫もそう言うと、エアリスに挨拶だけはして慌てて出ていった。


千春はバタンとドアを閉め、くるりと振り返った。


「さて」


その千春の一言に、部屋には緊張が走った。










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