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聖女二人の異世界ぶらり旅  作者: カヤ
エルフ領編
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アイドルって大変

「いいか、まずエアリスが先に出ておとりになる。エアリスに人が集まるだろうから、そのすきに飛行船のドアからそっと出て、マキは俺の後ろ、チハールはエドウィの後ろについて、素知らぬ顔で城に入る。城に入ったら、エアリス用の部屋まで5分、俺の部屋までは10分かかるから、とりあえずエアリスの部屋に移動するぞ。かばんは持ったか。できれば胸の前に抱えて」


そんなに? そんなに大変なの? 真紀と千春はごくりと唾を飲み込んだ。


「持ったよ」


二人はセーラが用意してくれていた着替えの入ったカバンを胸に盾のように抱えた。それを見てアーロンが頷く。


「よし、エアリス」

「うむ」


エアリスは真紀と千春に目をやり、安心させるように大きく頷くと、少し気合を入れて飛行船のドアを開けた。


「賢者殿だ!」

「白の賢者殿だぞ」


エアリスはその声を気にしたようすもなくすたすたと城の入り口に向かう。しかし、入口に向かう階段に足をかけようとしたところで、ついに取り囲まれてしまった。長命種は年齢がわかりにくいのだが、千春から見たら10代から20代に見える、比較的若い人たちが集まっているようだ。その数30人ほど、主に男性だ。何人かは急いで持ってきたらしい書類の束などを握りしめている。


「エアリス様、すみません、飛行船が見えたものですから。このアイデアを見ていただけませんか」

「これは浮遊石を利用した小型飛行船の設計図で」


残された4人は飛行船のドアから顔を少しだけ出してそのようすをうかがっていた。


「なるほど、アイドル的なものではなく、賢者様としての人気か」


ふむふむと少し安心したように納得する千春に、真紀は首を振った。


「千春、甘いよ。階段の上を見て」


城の入り口の前はゆったりした5段の階段になっているが、その階段を上がったところには今度は20人ほどの女性の集団が待ち構えていた。


千春はほうっと感嘆のため息をついた。なんて美しい人々なのか。皆揃って背が高く、日に輝くような淡い色の金髪に様々な濃淡の緑の瞳。高い位置で髪を結いあげ、幾房かにまとめて垂らしている。


エアリスが普段着ているのはエルフ特有の模様の入ったシンプルな黒か白のガウンのような服だが、さすがに女性は違うようだ。基本的には内着として無地のおそらくワンピースを下に来て、その上には男性よりやや裾が広がった、しかし体に沿った重ね着をしている。その組み合わせが色とりどりで美しい。


真紀や千春のようにふんわりと帯でまとめているのではなく、体に沿うように胸の下のところからボタンや皮ひもで押さえられている。そしてそのボタンの上は。


「はあ、エルフってさ、物語ではその」

「言うな千春。わかってる。私のほうが衝撃が大きいんだから」


真紀にそっと肩を叩かれた。


「たわわとかさ。ないわー。美人なだけで十分じゃない」

「神はエルフをひいきしてるよね」


二人はうんうんと頷いた。しかしそんな二人の感想は無視してアーロンは声をかけた。美人と言うところには同意しなくもないのだが、そもそもエルフは恋愛対象外であり、見慣れてもいるアーロンには、美人だろうがそうでなかろうがエルフはエルフ以外の何物でもなく、ありふれていてさして興味のないものだった。


「さ、俺たちは正面じゃなく、左側の衛兵の後ろの通用口から入るぞ。この角度だと後ろじゃなくて左横がいいな。よし、ついてこい」


四人はアーロンの合図とともに、自然に見えるように飛行船の入り口からすっと外に出ると、初めからそこを目指していたような顔をして衛兵のほうに向かう。エアリスを囲んでいる若者たちはその動きに気づいていないようだ。しかし階段の上の女性たちは、上から見ていたので気がついた。


「あれ、アーロンじゃない?」

「隣の若者は見たことがないわね。青い目が美しい。ミッドランドの子かしら」


そんな声が聞こえる。しかし4人は聞こえなかったことにして、急いで入り口に向かう。もう少し。しかし無情にも声はかけられた。


「アーロン」


そのすこし透明感のある高めの声にアーロンがしまったという顔をした。女性たちの集団から、エルフにしては少し背の低い女性が前に出てきた。年のころはエドウィと同じ10代後半くらいに見える、目の大きいかわいらしい顔だちの人だ。


「五の姫だ。気づかなかった」


小声でそう言われても真紀と千春には何のことやらわからない。ただ美しい人が出て来たなと思うだけだ。


「アーロン、城に戻ってきたならまず父上に挨拶を。それに、その客人はどなた?」


柔らかな声で厳しいことを言う。


「今やろうとしてたとこなのに」


ぽつんとつぶやいた真紀に、アーロンは小さく、そして激しく頷いた。


「そうなんだよ、マキ、そう」

「アーロン?」


五の姫と言っていた人の声に、アーロンは渋々階段のほうに振り向き、軽く腰を折ると、


「今から向かうところでした。連れはミッドランドの一行です」


その声に合わせて三人も黙ったまま軽く腰を折る。


「まあ、それならば」

「失礼、五の姫、おっしゃる通りまず陛下に挨拶をしてまいりますので。それでは」


アーロンは五の姫の言葉をさえぎると、真紀と千春をせかして城に入った。二人はずっと背中に視線を感じていた。


衛兵はアーロンとは知り合いらしく軽く頷くと通してくれた。エドウィのことはちらりと見、そして真紀と千春には一瞬目を見張ったが髪と額に目をやるとすぐ納得して通してくれた。


「しつこいんだよ、あの人はさ。さ、急ぐぞ」


アーロンにそう言われても真紀と千春はつい足を留めそうになった。正面の入り口からはすぐホールに行けるようだが、横の入り口は居住区に向かう廊下につながっていた。その廊下は広く、窓から差し込む明かりに映えるのは壁のタペストリーなのだ。


それはおそらく物語なのであろう。刺繍なのか、織物なのかはわからないが、人や風物が移り変わるさまが描かれている。


感心して壁を眺めている二人にアーロンは苦笑して、


「長命であるということは暇を持て余すということでもあるようだ。いくらでも時間があるからこういうものもできる」


と辛辣なことを言った。


「ミッドランドの城にもいくつもエルフから送られたものがありますが、本場の物はさすがですね」


エドウィも感心したように眺めている。


「さ、ここから二階に上がるぞ。上がってすぐのところだ」


アーロンに声をかけられて、美しい装飾のある階段の手すりに手をかけながら二階に上がる。上がってすぐのドアにアーロンはカギを差し込み、ためらいもせずに開けた。全員が部屋に入るとアーロンは内側から鍵を閉めた。真紀がそれをいぶかしげに見ると、


「念のためだ」


と言った。


「さ、この奥が寝室で風呂もついているはずだから、二人はまず塩を落としてこい」

「ありがとう」


正直なところ、かなりべたべたしていたのでありがたい。真紀は居間になっている入り口の部屋から寝室のドアを開けた。


そして閉めた。真紀は隣で固まっている千春を心配そうに眺めた。


「マキ、何をやっている。早く準備をして用を済ませたほうがいい」

「うん、わかってるんだけど、あの」

「なんだ。のぞいたりしないぞ」

「それはそれで無神経な発言だな。そうじゃなくて、もう、ほら」


真紀はアーロンの腕をつかんでドアのところへ連れて行った。そしてドアを開けた。


「なんだまったく、エアリスが何か変なものでも隠していたとか……」


アーロンもドアを閉めた。


「どうしたんですか」


頭を抱えているアーロンにエドウィが不思議そうに声をかけた。


「一の姫だ」

「一の姫?」


さっきは五の姫と言っていなかったか。


「真紀ちゃん、私たち、ここにいたら邪魔なんじゃないかな……」

「千春、たぶん違うから」

「そうだよね、エアリスだってよく見たら素敵だし、恋人の一人や二人、いてもおかしくないよね」

「いや、よく見なくても素敵だし、恋人が二人はおかしいし、ええ、そうじゃなくて」


うつむく千春に、真紀が手を上げ下げして焦っている。


「せっかく久しぶりに故郷に帰ってきたんだもの、恋人との水入らずを邪魔しちゃいけないんじゃないかなあ」

「うおい、違う、絶対違うと思うよ、ほら、アーロン、何とか言って!」


真紀はどうしようもなくてアーロンに声をかけた。


「チハール、心配するな、エアリスには恋人はいないはずだ」

「じゃあベッドの中にいたのは?」

「ベッドの中に?」


エドウィはそれを聞いて思わず寝室のドアを開けた。そして閉めた。呆然としている。


「肩があらわに……」


こんな時だけれど真紀はエドウィの純真さにおかしくなった。


「裸の女がベッドにいたって言えばいいでしょ、まったく」

「エアリスが、まさか、そんないかがわしい……」

「いかがわしくねえから」


アーロンがやっと立ち直ってそう言った。


「エアリスは城の姫様がたに猛烈にアピールされてるんだよ。まさかベッドで待ち伏せとは思わなかったが」

「恋人じゃないの?」


千春の代わりに真紀が尋ねると、アーロンは肩をすくめて答えた。


「研究一筋、浮いた噂もない」

「よかったよ。もしそうじゃなかったら許さなかったね、私は」


真紀は指をぽきぽきと鳴らした。


「なんでマキが怒る」

「千春を大事にしないやつは許さないんだから」


そこにガチャガチャと鍵を開ける音がした。エアリスだ。部屋に入ってくると急いで鍵を閉めた。閉める前に、女性の集団が見えた。


「やっとたどり着いた。だから城は面倒なのだ」


少し息を荒くするエアリスは、皆のようすがよそよそしいのに気づいた。


「どうしたのだ。マキとチハールは風呂はよいのか?」

「ええと」


真紀が言葉を濁す。それを見ながら寝室のドアを開けたエアリスは、


「さっさと謁見して城を出よう、まったく、え」


と言ってドアを閉め、眉間をもんだ。城に来たことを激しく後悔しながら。


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作画は文月路亜さま、原画は鏑家エンタ様、真紀や千春が表情豊かに、そしてイケメンがよりイケメンに! 漫画ならではの工夫や表現もあり、すごく面白いです。

◆3/5配信開始(web版雑誌売り:有料)

B's-LOG COMICS Vol.62

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ニコニコ静画 「Flos」 


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