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聖女二人の異世界ぶらり旅  作者: カヤ
エルフ領編
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バッカの城にて

一方、真紀と千春一行はその日はローランドの山沿いの村の近くまで運ばれ、そこで一泊した次の日、城のあるバッカの町まで運ばれた。潜入情報捜査のはずが、思ったより大事になった以上、城を素通りと言うわけにもいかず、城まで運ばれた一行はしぶしぶと王の前まで出る羽目になったのだった。


救いはこれだ。


「チハール、マキ!」


エアリスが城で待っていてくれた。グルドやヴァンを送り届け、兵の出発を報告するとすぐにこちらに舞い戻ってきてくれたものらしい。


「エアリス!」


二人はしっかりとエアリスに抱きこまれた。自分たちで決めて出かけたこととはいえ、状況に振り回されてへとへとに疲れていた真紀と千春は、久しぶりに肩の力を抜けてほっとした。


「信じられん。これがかの白の賢者とは」


それを見たアーロンが呆然とつぶやいた。白の賢者と言えば、穏やかと言えば聞こえはいいが研究とミッドランドへ遊びに行くこと以外あまり興味を示さない孤高の人と思われていたし、実際アーロンがエルフの城で見かけても、その印象のままであった。


姿勢よく大股でローブをなびかせゆったりと歩くが、ややうつむきがちの顔に複雑に編み込まれた白銀の髪がほんの少しかかる、それを城仕えの若いエルフの者が称賛のため息をつきながら見送るが、白の賢者の視界には誰も入らないともっぱらの噂だった。


それがこうだ。


「チハール、マキ、何もなかったか。こんなにやつれてしまって。勝手な人魚など放っておけばよかったものを」


ぎゅっと抱きしめて落ち着いた後は、大きな背をかがめると、千春のほほに手を当てて顔をのぞきこんでいる。真紀はにこにこしながら一歩引いてそれを眺めていた。


子どものように賢者の手にほほを預けている千春には何のやましいこともなかったが、それは恋人同士の睦言のようで回りには思わず顔を赤らめる者もいたほどだ。


「大丈夫だったよ。でもいろいろ大変でね……」


千春が話し始め、大変だと言ったところで、エアリスはまた、千春をぎゅっと抱きしめた。


「そうだろう、そうだろう、もう大丈夫だからな」

「いや、うん、大丈夫じゃないのはエアリスだよ……」


さすがにエアリスの胸の中から千春のぶつぶついう声が聞こえ、真紀の顔はにこにこからくすくすに変化している。


「白の賢者殿、話ができぬ。さすがにそろそろよいだろうか」


ついに咳払いと共に王のキリアンから苦言が呈された。なかなか報告に来ないので業を煮やして自分から出向いてきたのだ。もっともアーサーでもそうしただろう。この世界の王族はそれほどかしこまったものではなく、皆効率重視なのだから。


「すまぬ。あまりに心配でな」


エアリスはそう言うと千春と真紀の後ろに立つ。


「いや、賢者殿は特に必要ないが……」

「ここからエルフ領までは私が付き添いである。同席に何の問題もない」


そう言い張るエアリスに困り果てる一同だったが、真紀がアーロンに放っておけと目配せをし、アーロンがそれに頷き、


「父上、賢者殿が同席しても何も問題はないではないですか。事情も知っておられます。それより、ここではなんですから執務室へ移動しましょう」


そう場をおさめてくれたので、やっと執務室への移動になった。


執務室でやっと腰を下ろした一行は、代表としてエドウィが事の顛末を話した。もちろん、真紀と千春が夜に勝手に抜け出したとか、こっそり酒を飲んでいたなどと言う話は省いてある。


「内陸にダンジョンあり、と。馬鹿な。闇界より最も遠い地ではないか……。それに人魚の長の情報を集めにいったのではなかったのか……むしろ助けて帰ってきたなどと」


キリアンは話を聞いて思わずうなった。そのつもりだったんだけれどもと真紀と千春は遠い目をした。


「懸念材料と言えばチハールのかつらが飛んで聖女とばれたかもしれないということくらいですが、それは知らぬと言い張ればいいこと。人魚と鳥人の印象が強すぎて、私もアーロンも全く印象に残らなかったことと思われます」


エドウィはそう締めくくった。いや、そのハンサムさで鏡の湖の町の若い女性を虜にしていたのエドウィだよね。ローランドのハンサムな兄弟として市場で二人ともめちゃくちゃ目立っていたよねと真紀は思ったが、賢明にも口をつぐんでいた。


「鳥人か……」


キリアンも遠い目をした。実は何日か前から鳥人が大挙して城に押し寄せ、我が物顔にうろつき、大喜びの城の子どもたちを空に連れまわして大騒ぎなのだ。


キリアンがそれをほんの少しこぼすと、アーロンはハッとして千春を見た。千春は視線を合わせないようにしている。


「チハール、こうなることをわかってたな……」

「わ、わかってないし」


千春はあくまで視線をそらしていたが、


「そうだ、王様」


とごまかすようにキリアンに話しかけた。


「キリアンと。アーサーのことは呼び捨てと聞いたが」

「ええと、キリアン」


千春は言い直すと、


「私たちは行きも帰りも鳥人に運んできてもらいました。もちろんアーロンもです。鳥人が子どもをと、今おっしゃっていたと思いますが」

「ああ、確かに」

「別に大人でも鳥人に運んでもらえますよ。だってアーロンだってエドウィだって運べたんだもの」

「大人でも……」

「少しの訓練で。頼んだらきっと喜んでやってくれますよ」


千春の声が悪魔のささやきに聞こえた真紀だった。


「なるほど、さっそく頼んで」

「父上」

「おお、そうだった」


千春にうっかりごまかされそうになってしまったキリアンだったが、アーロンの一言で我に返った。


「こちらでも内陸の動向は気にかけておくとしよう。アーサーとも連絡を取らねばならぬ。それよりアーロン、エドウィ、それに聖女方も」


四人はしっかり頷いた。


「すぐにエルフ領に向かいます」


代表でエドウィが宣言した。


「そのための私だ」


これはエアリスだ。先ほどは取り乱していたが、白の賢者の言うことには重みがある。キリアンはほっとしてエアリスにこう言った。


「何日か城にとどまってもよいが」

「いや、予定もある。キリアン、悪いがすぐに飛行船で出発しようと思う」


そうきっぱりと言い切ると、エアリスはエドウィを見た。


「荷物はそのままです。すぐに出発できます。アーロンは」

「俺も大丈夫だ。しかし聖女方は」


アーロンは頷き、真紀と千春を見たが、答えたのはエアリスだった。


「大丈夫だ。セーラに念のためにと予備の荷物を持たされてきた。エルフは気が利かぬからと」


セーラさん……。確かに駄エルフとかいってたしなあ。


「ではすぐに出発する」


エアリスがそう宣言したので、真紀と千春はキリアンに改めて向き合い、


「本当にローランドの皆さんにはお世話になりました」


と頭を下げた。アーロンだけではない。馬車を先に持って行ってくれた人、数台の馬車でごまかしてくれた人など、実は何人の人に助けてもらったかわからないくらいなのだ。


「よい。問題なかった」


キリアンはそう言って王様らしくなくにやりと微笑んだ。


「さて、鳥人に一言言ってくるか」


これからローランドにはいっそう鳥人が増えるかもしれない。そんな予感を残して執務室からさっさといなくなってしまった。


「さあ、マキ、チハール、私たちも出発しよう」

「俺たちもいるけどな」


エアリスの声にアーロンがそう突っ込む。


「でも正直ちょっと疲れたよね」


真紀が本当に正直にそう言った。


「そうであろう。だから少し寄り道をしようか」


エアリスは小さな声で答えた。


「「寄り道?」」

「予定があると言っただろう」


エアリスはさっと左右を見て誰もいないのを確かめると、真紀と千春のほうにかがんでこう言った。


「飛行船があるのだ。一日くらい我らが遅れても何の問題もない」


真紀と千春はうんうんとうなずき、エドウィとアーロンはあきれた顔をした。


「エルフ領に行く途中に、きれいな島があるのだ。そこに今日は泊まろう」


真紀と千春はきらきらした目でエアリスを見上げた。ついにぶらり旅が始まるのか!






次回、「渚のバカンス」かも。

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