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聖女二人の異世界ぶらり旅  作者: カヤ
エルフ領編
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短いようで長かった任務の終わりに

鳥人に抱えられた真紀と千春たちは、最初の計画通り、追手がかかっても大丈夫なように、街道を外れた山中の中継地点へと運ばれた。行きと違って商人に偽装する必要はなく、むしろなるべく早くローランドへと向かうのが目的だったからだ。


あらかじめ下見していたという空き地は広く、下を走ってきたザイナスたちも集合して、結構なにぎやかさだった。今日はここで野宿になる。


もっとも、ゲイザーも着いてきていたのには笑えた。周りを飛ぶ鳥人たちが警戒していたが、ゲイザーたちはいたって静かなものだった。洞窟から目的もなく解き放たれたゲイザーは、むしろ闇夜の飛行がとても楽しいものだったに違いない。


空き地にはゲイザーを中心に丸い空間ができ、見渡すと中には第二形態になって警戒している者もいたが、真紀と千春にゲイザーが静かに魔石に戻されると、鳥人からはひそやかにほうと言う感嘆のため息が上がった。


「私たちも近くで見るのは初めてだわ」


サイカニアは興味津々でそう言った。


「グロブルでも思ったが、本当に体には影響はないのか」


サウロは心配そうな顔で言った。


「体は大丈夫だよ、ありがとう」


千春はそうは言ったが、疲れた体に鞭打ってサウロにしっかりと向き合った。腰に手を当てて。サウロが、なんだ? と首を傾げる。


「内陸には来ないって約束だったよね」

「それは……」


千春の追及にさすがにばつの悪い顔をした。


「それに、鳥人にハイランド観光を勧めたとか」

「それはよいことだろう」


今度は得意そうだ。ゲイザーの気持ちですらわかるのだから、サウロの気持ちなどわかりすぎるほどわかるのが、逆に悩ましい。


「将来的にはいいことかもしれない。でもね、今回は秘密のお仕事でしょ。ザイナスたちのお仕事も邪魔しちゃったみたいだし、アーサーの国が責められたら困るでしょう」


いつもいつもサウロのわがままを聞いていると思われると困る。もっとも、今回の本当の困った人は人魚の長なのだが。


「なぜ人はそこまで国境にこだわる。俺たちはたまたま獣人領にいるが、陸続きだからドワーフ領もエルフ領もよく遊びに行っていた。ミッドランドも含めて、来るなと言われたことは一度もないぞ」


言っても無駄だからではないかと千春は思うのだったが、そういう意味では鳥人にあれこれ言えるノーフェはそれはそれで大したものかもしれなかった。


「でもノーフェも言っていたけど、ミッドランドのお城付きには違いないんでしょ? それってアーサーと結びつけて考えられちゃうんだよ。またアーサーが眉間にしわを寄せて働くことになるんだから!」


千春は粘った。これからだってこういうことはあるだろう。ちゃんと話しておかなければならない。


「では、それはみんなが変わればいい」

「はい?」

「いままでハイランドは何となく煙たくてあまり行ったことはなかったが、それがよくなかったのかもしれない。これからはどんどん国境など関係なくどこにでも行くべきだ。少なくとも、鳥人はそうあるべきだとは思う」

「よくなかったって……」

「ミッドランドばかり優遇していると思われていたことだ。そんなつもりはなかった。長は聖女のそばをうろうろしたかっただけだし、俺たちはエドウィのところに遊びに行っていただけだ。伝令の仕事はついでに過ぎない」


いや、伝令の仕事は仕事でしょうに。千春はあきれると共になんだか説得されそうになっていた。疲れがどっと押し寄せてきた。


「なんかもういいや。今度からちゃんと話を聞いてね」

「わかった」


絶対わかっていないが千春は疲れてしまった。もう休みたい。しかし、急に話が決まってしまったためテントなどはない。幸い晴れているし、夏なので一晩草の上で寝ることになる。


しかし頑張った千春と真紀にご褒美があった。


「マキ、チハール、おいで」


ザイナスの優しい声に振り向くと、ザイナスが寝そべっておなかを見せてくれている。ここに寝ていいよという合図だ。


「いいの?」

「もちろん」


二人はふらふらとザイナスのそばに歩いて行った。


「ちょっと父さん、二人は無理よ。マキかチハールかどちらかは私と寝ようね」


オーサも声をかけてくれた。真紀と千春は目で語り合った。ラッシュ色が本当はいいのだけれど。千春のほうが小さいから、千春がオーサ。いいよ。じゃあ真紀ちゃんがザイナスね。よし、と合意が得られた。


その時ばさりと羽根を広げる音がした。


「マキ、チハール」


サウロだ。広げた羽根をそっと胸の前で交差させる。


「俺の羽に包まれて寝てみたくはないか。ひな鳥も喜ぶ、極上の羽毛だぞ」


羽毛! 真っ白な羽根に包まれて眠る。千春はふらふらと一歩サウロのほうに踏み出しそうになったが、真紀に止められた。


「真紀ちゃん、羽毛が……」

「千春、しっかりして。羽毛の持ち主はサウロだよ」


千春はハッとした。そうだ、羽根が付いているけどサウロではないか! とんでもない。


「マキめ、余計なことを」


真紀はちらりとサウロを見てふふんと笑った。説教は千春に任せたが、真紀だって自由な鳥人には少し腹を立てていたのだ。いい目を見させてなるものか。


真紀はザイナスに、千春はオーサのおなかに寄り掛かりつつ、草の上にそっと横たわり、毛皮を楽しむ間もなく眠りについたのだった。とにかく、人魚に頼まれた任務は果たしたのだ。長い長い一日の終わりであった。




人魚の長編、これで終了です。一か月以上お付き合いいただき、ありがとうございました。

あれ? エルフ領には? はい。これから向かう予定です。


しかし申し訳ないことに!


年度末も近くになり、思ったより早く、先週から仕事の繁忙期に突入してしまい、更新が厳しい……。仕事が楽になるまでせめて週刊ぶらり旅で更新したいとは思っていますが、不定期になりそうな感じです。


近況等は時々活動報告にあげるかとは思います。皆様もお体大切に!




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