ゼロから始める国家作り
あらすじ
俺はある日、目を覚ますと見知らぬ土地にいた。
最初は異世界かと思ったが、どうやら太平洋に浮かぶ、誰にも見つかっていない島のようだ。その島の少女と空腹と引き換えに、原始人のような生活をしている島で、ゼロから国家作りをすることになってしまう。
今後、俺はこの選択をかなり後悔することになる。
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最近流行り(?)の国家づくりの内容です!
ある日、楽しい修学旅行が悪夢へと変わった。理由は至って簡単。山道で突然、飛び出して来た幼稚園くらいの子供を轢かないために急ブレーキをかけたが、そこがちょうど急カーブだったので、崖からバスが転落した。転落した衝撃でほとんどが亡くなったが、生き残った人もいた。その中に俺が入っている。でも、俺は自分の命のためにみんなを見捨てた。いや、みんなから逃げた。
でも、逃げてもおかしくないと思う。だって、生き残ったのは親しくない人たちだったから。それに俺の学校は進学校らしくて、頭がいい。だからこそ、生き残るためにどうすればいいかという知恵がある。絶対に実行に移さない方がいい知恵もある。そのうちの一つの狩りができなくても、栄養豊富なものが手に入る方法だ。ちなみにその知恵は方法というよりも裏知識みたいなものだ。
【栄養豊富なものは誰でも持っています。それは人肉です。気に入らない人がいればぜひ、その人を食べましょう】
そんな知識だ。そして、生き残った中で親しい人がいない俺がまんまとその標的にされたのだ。でも、死にたくない俺は逃げた。一応武術を昔に習っていたので、その技術を使い、逃げた。
遠くへ。もっと遠くへという意思で逃げ続けた。遠くを意識し過ぎた俺は近くに意識が向かなくて、崖から落ちた。はずだった。
気がつけば俺は木で造られた家で眠らされていたようだ。でも、夜に目が覚めたため辺りを見回しても全く見えない。灯りという人工物に囲まれて生活していた俺にはかなり厳しい状況だ。でも、幸いなことに満天の星空とまん丸な満月の光があるため微かに見える。
「目覚めた! ですね!」
「ん?」
突然、背後から声が聞こえたのでそちらは振り向くと俺たちと同じ黄色人種の少女がいた。見た目は中二である俺と同い年に見える。しかし、黄色人種の割には髪が水色で瞳が赤色とあり得ない組み合わせだ。ロウソクを持っているため彼女の姿がちゃんと見えた。だから、見えてはいけない物も見えてしまった。
「服! 服を着てくれ!」
「服、高価。衣類、ない」
「えっ? もしかして、ここは異世界?」
「違う。異世界。あり得ない。ここ地球。大きな海、ど真ん中、島」
「もしかして、太平洋?」
「たいへーよー?」
「違う。たいへいよう」
「たいへいよう?」
「そう。それが正解。ちなみに国名はなんだ?」
「こくめい?」
「もしかして、ないのか?」
彼女はコクコクと必死に頷いている。
「なら、ここは国家か?」
「こっか?」
「えっ? 国家もないのか? じゃあ、領地は? あー。領地じゃ伝わらなさそうだな。えっと……そうだな。国の敷地はあるのか?」
「国、ない。敷地、ある」
ということは国ですらないということか。それにどこの国にも属していない。となるとどこかの領地にしてもらうしかないな。
これからの島のことを考えていると、心でも読めているのか彼女は首をふんふんと左右に振っている。
アメリカとかなら肯定の意味になるが、日本語を一応とはいえ使っているし、否定の意味かな? まぁ、そうしとこう。
「どこの国にも属したくないのかな?」
「よそよそ。うちうち」
「えっと……よそはよそ。うちはうち。要するにこの島と国は違うということかな?」
またコクコクと必死に頷く。
「でもなぁー。どこかに属さないと色々と不便だし」
グゥー。
「………………」
空気を読んでくれ。俺の腹。
「空腹か?」
「あぁ、うん」
「わかった。狩ってくる」
「お、おう。がんばれー」
彼女は長い水色の髪を振り乱しながらも、走り去って行く。
いや、走んの速ぇな。てかっ、この島は原始人みたいな生活をしてそうだな。まぁ、国家がなくて周りが自然だったら、俺たちもこんな生活になるかもな。
「さて……。せめて大切な部分を隠すような葉っぱがあって欲しいな。おや? あった。見つかるの早ぇわ。まぁ、その方が下着っぽいの作れるしいっか」
俺は近くから大きな葉っぱを四枚取り、ツルも何本か用意する。
数分後に彼女が帰ってきた。
「イノシシ、狩った」
「あざす。俺の方は下着っぽいの作ってみた。着けてみてくれ」
「火、起こさないと」
「俺に任せておけ。さすがにそれくらいはできる」
「任せる」
彼女に下着っぽいのを渡してから、少し奥深くに入り、枯葉と枝と藁を複数。そして、火打ちに適したそうな石を二つ拾い、元の場所に戻る。
すると、彼女が下着っぽいのを着けるのに苦戦していた。その横で俺は石を何度も何度も打ち、火の粉を生み出して、すぐに藁に包んで、消えないように細心の注意を払いながら、息を吹きかける。その間に枯葉と枝を地面に山になるように積み上げていき、数分後に火が大きくなったので、そちらへ移す。
すると、有難いことにちゃんと火が起きてくれて、焚き火らしくなった。
ふぅ。まさか、こんなところでサバイバルの知識が役立つとはな。まぁ、色々知っていて損はあんまりないしな。
一仕事終えた感を出しながら、彼女の方を見ると未だに苦戦していた。
「俺が着けるからジッとしておけ。それと、触れられたくないところに触れられるかもしれないから、先に言っておく」
できる限り触れないように注意を払いながら、着けさせる。上下共にどういうわけか、いとも簡単に着けることができた。そして、奇跡的に触れずに済んだ。
「なんだろう? おちつく?」
「落ち着くか。よかった」
「みんなにも作って欲しい」
「みんな? この島はお前以外にいるのか?」
「千、近く」
「そんなにもいるのか!? 頑張ったら国作れるぞ」
「いいあん」
「えっ?」
「国作る。いい案。やってみたい」
「いや、やってみたいって言われてもほぼ不可能に等しいだろ。それに誰がまとまるんだ?」
俺の疑問に答えてくれたのかな? いや、ないな。あれれ? なんか指差されているんだけどな。きっと気のせい。そうに違いない。
「まとめる。お願い」
「俺が!? いや、無理だろ! 一介の中学生に過ぎない俺だぞ? 無理無理。絶対に無理。国家を作るのはかなり……というか絶対に無理。大人だったらまだわかるけど、ガキだぞ? 絶対に無理だな」
「食べる。あげない」
「うっ!」
それはセコい。空腹のやつにそれを言うのは反則だ。絶対に嫌というわけではない。むしろ、やってみたい。やってみたいけど、一体何百年かかるんだろう? 確実に俺は死ぬな。いや、この空腹を我慢しても死ぬ。
「あぁ、もうわかったよ! やればいいんだろ! やれば! でも、どうなるかは知らんぞ? 途中で投げ出すのは嫌いだから、しないけど寿命的にはそうなる可能性がほぼ百パーセントだから」
「ありがとう」
こうして俺は一から……いや、原始人みたいな生活だからゼロから国家づくりをすることになった。当たり前だけど、この時の選択を今後に何度も後悔することになる。
いかがでしたでしょうか?
授業の政治・経済で国家とは何かという話をしていると思いついた話です。楽しんでいただけたのでしたら幸いです。




