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Friend Weapon

不定期更新の作品の一話です。

気に入っていただければ幸いです。

と言いながらも投稿するのはまだまだ先になりそうですけどね。

 焦げ茶色の髪の少年と同じ高校の女子生徒が女子生徒の自宅のベットで寝ている。ちなみに二人は裸だ。事後だが、妊娠するような行為はしていない。していないというよりも少年の方にその度胸がなかっただけだ。


 なら、二人はどうして裸なのかというと妊娠するような行為では無いが、卑猥(ひわい)な行為をしていたからだ。少年はそんな行為を毎日のように取っ替え引っ替えで、色んな異性としている。もちろん今、彼の横で静かな寝息を立てている彼女もそのことを知っている。


 たまに仕事でそういう行為をすることもある。それらのお金は少年の生活費になっている。少年の場合は妊娠するような行為はしないので、それはもう、お金持ちの女性に人気だ。だから、こういう世界では少年は案外有名人なのだ。


「ん……んん?」


 ゆっくりとまぶたを開けて黒い瞳に突然、光が入ってこないように気をつけている。彼の目はキリッとしている。体を起こし、女子生徒のベット付近に置いている目覚まし時計で時刻を確認する。


 時刻は午前3時。時間の余裕が無い。

 女子生徒の両親は共働きで、しかも夜勤が多いと聞いていた彼だが、そろそろ帰ってくると予想がついた。


 何も言わずに帰るのは申し訳ないので、彼女の勉強机に置いてあった、メモ用紙に帰った旨を書き残し、彼女が寝ている枕元に置く。

 

 少年はその後、普通に玄関から出て行く。


          ♦︎


 翌朝、少年は家で現在通っている高校の制服に身を包む。通っている高校の制服は少しだけ、特別だ。

 なぜなら、色は黒色といたって普通だが、造りがかなり特別だ。改造したわけではないが、制服は学ランとブレザーの中間のような造りなのだ。


 ボタンはブレザーと同じで、二つか三つだが、色はワイシャツですら真っ黒だ。はたから見たら、ただの黒ずくめなのでかなり怪しい。ちなみにズボンも真っ黒。

 彼が通っている高校では女子生徒の制服は上は普通にブレザー。下はショートスカート。色は上が一緒だが、下が男子とは違い、黒と白のチェック柄になっている。


 最初は違和感がかなりあったが、二年生の秋にもなったら、違和感が全くない。むしろ、これじゃない方が違和感がある。


「よし、時間的に行こうか……おっと。忘れてた忘れてた」


 玄関から出ようとした瞬間に何を忘れてたのか、家に戻る。すると、彼は急いで洗面所に行く。


「さすが。今日もカッコいいな僕」


 少年はニヤけながら、鏡を見ている。


「おっと、いかんいかん。あまりのカッコよさに見とれてしまった」


 自分に見惚れながらも慌てて洗面所から出て行くがすぐに洗面所に戻る。そして、また鏡を見てニヤけ始める。


 それから数分後。


「あっ。さすがにこれは遅刻するかも。これも全て僕のカッコよさのせいだな」


 今度こそ慌てて、家を出る。


 少年の通学方法は電車だ。そのため少しでも遅れたら大幅に時間がズレてしまう。毎日のように遅れかけているのでそのこともちゃんと知っている。だから、いつものように駅まで走る。


 少年が住んでいるアパートから駅までは徒歩で10分程度の距離にある。ちなみに乗る予定の電車は今から5分後。


「まっ、僕だし余裕で間に合うだろうな」


 誰もいないので呟く。いや、誰かがいたとしても少年は呟く。だって、自分が好きだから。


 4分後に少年は本当にたどり着いた。定期券を改札口に入れると、目の前にいる女性が何かを落とした。少年は遅刻しそうだというのに落としたハンカチを拾い、女性の元へと行く。


「あの、すみません。これ落としましたよ」

「あっ! ありがとうございます! このハンカチはとても大切なモノなのです! ですから、本当にありがとうございます! わたしにできることでしたら、何だってしますよ!」

「いえいえ、お気になさらないでください。これは僕自身の善意ですから、お礼の言葉を頂けるだけで満足です」


 爽やかな笑顔で女性に言うと少し頬を(しゅ)に染めているのを発見する。


 ()ちたな。さすがは僕。もう、存在しているだけで恋心を抱かせてしまう。まるで罪だな。


 自分のことをそんな風に思いながらも、彼女が立ち去るのを確認して電子案内板を見る。そして、その横にある時計を見る。


 間に合ったのだ。少年は自分に(おぼ)れているような笑みを浮かべる。その笑みを隠しながら、駅のホームへと降りる。少年が乗る電車は3番ホールにある。階段を下りるとちょうど、その電車が到着したところだった。


「あれ? 珍しい」


 滅多に遅れることのない日本の電車が遅れたので、少しだけ驚く。降りる人が全員降りていたので、とりあえずは電車に乗り込むとアナウンスが聞こえてくる。


【本日はお乗りいただきありがとうございます。この電車は各駅停車です】


 アナウンスをする人の声の震え具合をから、近くの駅で人身事故があったのだということを何となくだが彼は理解した。


 座れる座席があったので優先座席だが、あったので近くに人がいないかと確認した少年は座席に座る。

 ちなみに少年が目指している駅は今、乗り込んだ駅から3駅挟んだところにある。つまり、4駅目だ。


 ゆっくりと加速していく電車に揺られる。それを心地よく感じていると少し距離があるはずなのにすぐに1駅目に着くと、ご老人が入ってきた。そして、明らかに座れる席を探している。しかし、今は埋まっている。優先座席も含めてだ。老人は杖をついているので、明らかに足が不自由そうだ。多分、無意識にだろうが老人が優先座席の前に来る。


 少年は席を立ち、老人の前に行く。


「どうぞお座りください」


 爽やかな笑顔で言うと老人は「ありがとう」と柔らかく微笑んで、席に座る。


「お気になさらずに。僕はまだまだ若いですから」


 少年は爽やかな笑顔のまま答えて、出入り口付近に行く。そして、今までと同様に笑みを浮かべながら心の中で自画自賛する。


【次は大本町(だいほんまち)。大本町です。扉は左側が開きます。ご注意ください】


 大本町とは商売が盛んな場所のことだ。そして、その近くには様々な中小企業のオフィスや工場があるので、降りる人が多い。しかし、少年の目的地の駅より奥に行ったら、大手企業のオフィスがかなりあるため、ただでさえ人口が多い大本町ではかなりの人が乗り込む。要するに乗車率はプラマイゼロ。いや、プラスの方が多いかもしれない。


 だから、今でも少し混んでいるがさらに混み合うことになる。世に言う満員電車の完成だ。


【大本町、大本町です。車内にお忘れ物がないようにご注意ください。本日はご利用いただきありがとうございました】


 アナウンスが流れると沢山の人がバラバラにだが、立ち始める。


 電車の扉が開くと沢山の人が出る。すごくガランとした光景になったが、人が乗り始めると一瞬で埋まる。少年自身も押し潰されていく。だが、少年が感じたことはいつもよりも少ないだ。いつもなら身動きが取れなくなるが、今は普通に身動きが取れる。


【扉が閉まります。ご注意ください】


 アナウンスが流れると扉が一斉に閉まる。


【次は大明(だいみょう)神社、大名神社です】


 アナウンスが流れる数瞬前に電車が進み始める。

 次はほとんど人が降りなくて、乗るのも本当に少数のみの駅だ。ちなみに少年と同じ制服を着た人が大量にいるので、今の乗客のほとんどが高校生だ。


 高校生にもなって騒いでいるものもいれば、一言も喋らずにスマホで遊んでいるものもいれば、ボケっとしているだけのものもいる。しかし、少年はそのどれにも入らない。いや、ボケっとしているが近い。


 少年は暇なので、どんな乗客が乗っているか観察する。スマホは充電はしてきたが、切れたら嫌だし、ボケっとしているだけでもつまらない。騒ぐなんて言語道断だ。そのため少年に残された暇の潰し方は人間観察しかないのだ。


【大名神社。大名神社です──】


 駅名以外はさっきと全く同じことを言っている。扉が開いたが、ものの5秒程度で閉まる。なぜなら、少年が見える範囲だが降りる者も乗る者も誰一人としていなかったからだ。


【次は奈加宮戸(なかみやど)、奈加宮戸です】


 そして、さっきまでと同じように電車が進む。

 ちなみに次が少年たちが降りる駅だ。しかし、ここから少し距離があるので人間観察に戻った瞬間にある光景を目撃してしまった。その光景とは複数の男が一人の少年と同じ高校に通っている女子生徒の制服の中に手などを入れている光景だ。


 さすがに見て見ぬ振りはできないので少年はその場所へと向かう。幸い普通に動けるほどのスペースがあるので、スムーズに進める。そのためすぐにたどり着けた。少年は気づかれないように女子生徒をこちらに引っ張ろうとするとタイミングよく電車がガタンと振動する。その反動で少年の方へと女子生徒が倒れてくる。


 人に見られたので、女子生徒の制服の中に手などを入れていた男たちは二人から離れていく。

 ちなみに今、女子生徒は少年の胸に顔を埋めている体勢になっている。


「大丈夫でしたか?」


 できるだけ優しい声と安心できるようなトーンで聞くと女子生徒は密かに泣き始める。幸い声を出していないので、少年が怪しまれることにはならない。


 少年は女子生徒を軽く抱きしめながら、元の位置に戻る。すると、女子生徒は顔を上げて、少年の顔を見た瞬間に目を見開き、顔を真っ赤にする。


「も、もしかして在月前備(ありつき せんひ)先輩?」

「僕のことを先輩と呼ぶということは一年生?」

「はい! ずっと会いたかったです! 在月先輩!」


 一年生の女子生徒が大きな声で少年──在月前備の名前を呼んだので乗客全員がギョッと見てくる。


 大きな声だったためではない。在月前備という名はほぼ全員が知っているような名前だからだ。彼のことを女性の乗客全員(年齢問わず)がうっとりとした、まるで好きな人に会ったかのような目。

 40代くらいまでの男性は畏敬と恐怖の目。

 50代よりも上の男性は慈愛に満ちた目。


 前備はそれほど有名人なのだ。別にテレビに出たとかではなく、今までやってきたことと人柄で有名人になっているのだ。


 人柄の場合は誰にも親切だからだ。

 やってきたことの例を挙げるならキリがないがあえて挙げるなら二つ。


 一つは妊娠するような行為の前までの相手をしていた。

 もう一つは彼は一人で無法地帯と変わっていた夜の商店街を更生させた。


 他にもまだまだあるが、有名にしたのは主にこの二つだ。


「先輩。あとで頼みたいことがありますので、昼休みに屋上に来てください」

「わかったよ」

「それと今ここであなたにして欲しいことがあります」

「何かわからないけど、時間がある限りは手伝わせてもらうよ」

「なら、今ここでわたしを汚してください」

「つまり?」

「ち、痴漢を承知の上でしていただきたいです」

「ごめん。さすがにそんなことをする度胸は僕にはないよ」

「そうですか」


【奈加宮戸。奈加宮戸です──】


 彼女が落ち込んだ表情を浮かべて話が終わった瞬間にタイミングよくアナウンスが流れたので、学生が一斉に動き出す。


「それでは先輩。昼休みに屋上で会いましょう」

「うん。わかったよ。それじゃあ、昼休みに屋上で」


 お互いに笑顔で言葉を交わしたのにもかかわらずになぜか、二人はバラバラに電車を降りた。


 まさか学校に行くまでにこんなにも僕のことを好きになってくれるなんて思っていなかったな。さすがは僕だ。あまりにもカッコよくて優しいからだね。


 相変わらず自分に酔っていた前備であった。


 駅から学校までの道のりでは何一つ出会いがなかった。しかし、それは当たり前だと前備は思っている。さっき駅で堕とした人も含めて校内の彼氏がいない女子生徒全員の好意が自分に向いていると思っているからだ。


 普通ならそれだけで満足する。しかし、前備の場合はそれだけで満足できずに新しい女子生徒が増えないかと期待している。


 校内に入ると彼は一瞬で注目的となっている。それもそのはず。電車内でのことを先に電車を降りた彼女がまるで言いふらすように校内に言い回っていたからだ。


 なんとなくだが、それを察した前備だが平然と振舞っている。だって、いつものことだから。


 やっぱり僕はどこにいたって注目されるんだな。まぁ、それが僕という存在だから仕方ないね。


 少しニヤケながらも自分の下足箱を開けると中には手紙らしきものが三枚入っていた。しかし、彼は内容を見てすらいないのに一瞬でラブレターだと確信する。


 いつものことだが、キチンと持っている茶色い学生鞄の中に入れる。靴を下履きから上履きに履き替えて、自分の教室に向かう。


 ちなみに彼の教室は三階にある。この学校の教師も生徒も共にキレイ好きなために塵一つ落ちていない廊下を少し進み、廊下と同じようにキレイな階段を上る。三階まで上り、少し進んでから左に向かうとすぐに彼の教室がある。教室の扉を開けると中には人が三人しかいなかった。その三人は前備が入ってきていることに気づかずに談笑している。ちなみに三人とも男子だ。


 談笑している場所の真横に彼の席がある。そのため会話が丸聞こえだ。


「なぁ、知ってるか。今日、ウチのクラスに転校生が来るらしいぞ」

「あぁ、知ってる知ってる。大和撫子らしいな」

「それなら俺も聞いた」


 横から聞こえてきた会話の大和撫子という単語を聞いた瞬間に前備は笑みを浮かべる。その笑みは完璧に堕とせることからの余裕の笑みだ。


 転校生についての情報はそこで終わった。


 前備は余裕を見せるかのように鞄の中から靴箱に入っていたラブレター三枚を取り出して、それぞれじっくりと読む。そして、その中に一つラブレターではなく仕事の依頼があった。指定している日時が驚くことに明日の放課後。そして、出会う場所が生徒会室となっている。差出人は生徒会長。


 もしかして、会長の知り合いかな? 金があるけど髪色を除いて見た目からして清楚だから相手が会長ではないのは確実だからね。


 前備が疑問に思ったのには理由がある。今まで、見た目からして清楚の人とはしたことがないからだ。大体は見た目からしてエロそうな女。そのため清楚そうな生徒会長とするという考えは彼の中にはない。


 ラブレター(仕事依頼も含む)を鞄にしまい、中から勉強道具などを取り出す。机の中の左に二から四限目までの教科を入れて、右に五と六限目の教科を入れている。そして、一限目の教科は机の上に置く。


 ガサガサしている音に気付き、談笑していた生徒たちがようやく前備の存在に気づく。


「おはよう」


 爽やかな笑顔のまま挨拶をすると男子生徒たちはかなり焦った様子で同じように挨拶を返す。


「いつの間にいたんだよ」

「転校生の話をしている辺りからだよ」

「全く気付かなかったぞ」

「君の目が悪いだけじゃない? 輝いている僕に気付かないなんて」

「また、始まったか。在月の病気」

「病気?」

「そう。そのナルシぶりが病気ってこと」

「そうかな? 人間は誰しも自分のことが好きだと思うよ。嫌いとか普通なら自殺するだろうしね」

「違いねぇ」

「そう言えばアニキ」

「僕はアニキじゃないよ」

「いいや、アニキだね。今度は何の伝説を残すつもりですか?」

「今のところは何も」

「そうですか」

「在月さん!」

「なに?」

「昨晩、隣のクラスの松宮さんの家から出てきたって目撃情報があったけど、アレは本当?」

「うん。事実だが」


 見つかっていたかと思いながらも平然と答えると男子生徒たちから尊敬の眼差しを向けられる。別に悪い気はしない。むしろ、女からは好かれていて男からは嫌われていたら無意味だと思っている前備にとっては、安心できる。


「はぁい。お前ら席に着けぇ」


 気がつくと時間が経っていたが、普段ならこんな時間に担任の先生が来ないため全員がギョッとしている。ちなみに担任の先生の性別は女性だ。前備とは卑猥な行為をする仲だ。


 さっきは彼氏がいない女子生徒全員と言ったが、彼氏もいなくて旦那もいない女教師全員とも卑猥な行為をする関係を持っている。


 それはさて置き担任の先生が、この時間に入ってきた理由をクラスの全員がなんとなくだが察している。そのため素直に先生の指示に従い、全員が席に着く。そして、珍しいことにこのクラスでは今、全ての席が埋まっている。つまり、少し早いにもかかわらずに無遅刻、無欠席ということだ。


「みんなも知っているだろうが今日、このクラスに新しい仲間が増える。さっ。入ってきて」


 先生がそう指示をすると「失礼します」と言う女性なのに涼やかな声が聞こえると、すぐに扉が開く。


 入ってきたのは女性としては長身で、まるで身長に比例するかのような長い漆黒(しっこく)(つや)がある髪。髪にも負けないほどの黒い瞳。多少だがつり上がっている目。そして、顔のパーツのバランスがとても良い。そこに清楚(せいそ)さなども相まって大和撫子(やまとなでしこ)という表現が一番しっくりくる。


 そんな転校生にクラスの全員が男女問わず、見惚(みと)れている。女子ですら見惚れさせるほどの容姿と雰囲気を彼女は備えている。


 黒板に自分の名前を書くという転校生の恒例行事(こうれいぎょうじ)的なことですら、彼女がやればとても絵になる。

 黒板に彼女と同じで美しい字で名前が書かれている。誰から見ても美しく見えるし、普通に読める。


「みなさんはじめまして。輝佐羅未央(きさら みお)と申します。これからよろしくお願いします」


 彼女は(うやうや)しくお辞儀をする。その行為ですら絵になる。彼女の一挙手一投足いっきょしゅいっとうそくが全て絵になるのだ。


 先生は座れる席があるか、教室内を眺めるが、さっきも言った通りに全ての席が埋まっているので「あっ!」という声を上げる。その事態に驚いたが、前備は立つ。


「先生。僕の席を彼女の席にしてあげてください。僕は立ったままで良いですから。それでも授業に集中できるので」


 爽やかな笑顔で先生に言う。


「あ、ありがとう。なら、輝佐羅さん。あの人が座っていた席に座ってちょうだい」

「はい。わかりました」


 先生と未央がそんな話をしている間に前備は自分の荷物を学生鞄に詰める。詰め終えるとちょうど未央が前備に近づいてくる。


「この席ですよ。どうぞ」

「ありがとうございます」


 二人とも笑顔で言う。その光景を見て、クラスの全員が「うっ!」と顔を真っ赤にして言う。


 かっ、カッコいい!!

 かっ、カワイイ!!


 今のクラス全員の心情はこんな感じだ。

 女性(男性を一部含む)が前備の笑顔を見て思い、男性(女性を一部含む)が未央の笑顔を見て思う。


 前備と未央はこの人は強敵だとお互いに思った。なぜなら、笑顔の裏に本性が隠されていそうだからだ。


 前備は少しだけ、未央から離れたところで壁に背を預けながら、近くの床に学生鞄を置く。すると、先生が近づいてきた。


「ごめんね。わたしの不注意で前備くんに迷惑をかけて」

「気にしないでくださいよ。迷惑なんて思ってませんから」

「本当?」

「はい。本当です」

「よかったぁー。でも、一時限目の休み時間中には必ず机を持ってくるね」

「なんなら、それを手伝いましょうか?」

「いいのいいの。せめてもの罪滅ぼしと思っているから」

「それなら任せます。でも、キツいと思ったらいつでも声をかけてくださいね」

「うん。ありがとうございます。そうさせて貰うね」


 小声でそんな会話を交わし終えると先生は後ろの扉から出て行った。


 はは。やっぱり、先生はチョロいな。まぁ、これも僕のカッコ良さと優しさがあってこそ実現するんだけどね。でも、今はそれよりも彼女をどうやって堕とすかを考えないとね。彼女はかなり手強いぞ。


 今までにない手強さを感じ取れたので彼は警戒した。


「はい。お前ら授業をするぞ。おや? どうしたんだ在月」

「色々とあったのです。僕のことは気にせずにいつも通りに授業を進めてください」

「まぁ、お前が言うならそうするが」


 一限目の授業の少し強面の先生が入ってきた瞬間に前備のことを見つけて気にかけたが、前備の先を促すような笑顔を受けて授業を開始した。


「まっ、優等生だから僕は。問題起こしたとは思われにくいんだよね」


 一番近くにいる人にも聞こえないほどの声で言ったが、どういうわけか未央が目だけを向けている。そのことに彼は気付けていない。なぜなら、彼女をどうやって堕とすかに熱中しているからだ。しかし、視線の種類を前備は感じ取る。


 ん? 敵意? この僕に? 一体どういうことだろう? (ねた)みとか(うら)みとかは向けられたことがあるけど、敵意はさすがにはじめてだな。一体誰だろう?


 不思議に思いながらも前備は授業ノートを取りながら、時には解答を発表したり書いたりしながら色々と考えていた。その主が未央をどうやって堕とすかだ。結局は一限目の間には答えが出なかった。


 これは難問だな。


 休み時間ですら前備は考えていた。すると、宣言通りに先生が机と椅子を持ってきてくれた。色々と言ってきたが、無意識で応答をしていると気がつくと休み時間も終わっていた。やはり答えは出ない。


 そして、二限目、二限目の休み時間、三限目、三限目の休み時間、四限目を全て使っても、何一つ答えが出なかった。


 昼休みになったので考えることをやめて、朝に駅で約束した通りに屋上へと向かう。屋上は危ないからという理由で普通は開いていないが、昼休みに屋上へ行くと扉が普通に開いていた。鍵が開いていたとかではなく普通に全開だったのだ。


 少し怪しく思ったが、罠が仕掛けられているとかはないので、普通に扉を通ると目の前でヤバい光景が広がっていた。それは複数の男──この学校で超が付くほどの有名な不良共が朝、駅で痴漢されていた一年生の服を剥いで、下着姿にさせられたからだ。そして、撮影会でもしているかのように不良共がスマホで写真を複数枚撮っている。


 写真を撮られている少女は金縛りにあっているかのように身動き取らずに涙を浮かべている。いや、流している。その光景を見た前備は昔の記憶がフラッシュバックする。その光景は二度と見たくない凄惨(せいさん)な光景。


 前備がそんな状態になっている最中に不良共の一人が少女へと近づいて、下着越しだが、豊満な胸を鷲掴(わしづか)みにして()みしだく。


「ウヒョー!! いいぜいいぜ。最高だぜ! この弾力柔らかさ、これぞ最高のおっぱいだぜ!!」


 女子生徒は声を上げないし、出さない。いや、上げられないし、出せないのだ。なぜなら、彼女は本当に恐怖のあまり金縛りにあっているからだ。だから、電車内でも金縛りにあっていた。目も動かせないので前備の存在も気付けていない。


「さて、次はダブル生で()ろうか。次はお前らも好きなだけ触っていいし、出していいぜ」


 揉みしだいていた男が飽きたのか、すぐに次の段階に進もうとする。その証拠に女子生徒の下着の上下に手を引っ掛けたからだ。しかし、そのためある存在がいることに気付けなかった。


「暴力制裁」


 前備は誰にも気づかれない間に足音を殺して、近づいていたのだ。しかし、今の彼の目はいつもの優しさが(にじ)み出ているような目ではない。逆の優しさが皆無の目だ。


 まずは女子生徒の下着に手を引っ掛けながら、ニヤニヤしている男の頬を思いっきり殴り飛ばす。書いて字の通りに殴ると吹き飛んで行ったのだ。その吹き飛びに二人ほど巻き込ませる。残り人数が三人となった。


 少し左右に動きながらも前備よりも明らかに身長が小さい男に近づき、頭頂に肘打ちをすると下に勢いがつくので、その勢いを利用して膝蹴りもする。見事に(あご)にクリーンヒットして気絶する。あと二人は首筋に思いっきり、チョップをして、残った一人には金的をする。それで、戦力を完全に潰した。


 前備は有言実行したのだ。暴力による制裁を加えたのだ。さっきのことが嘘のように彼に優しさが滲み出てくる。


「ごめん。怖い思いをさせて。大丈夫だった?」


 女子生徒に落ちていた制服を羽織らせて両肩に手を置いて聞く。


「先輩! お願いします! 早くわたしをこの世から消してください!」

「へっ? 何を言っているの? もう、怖いものはいなくなったって。多分、君はまだ汚されていない」

「いいえ、汚されてます! あの人らではなく別の存在に! ですから、早くわたしをこの世から消してください!!」

「一体なにを言っているんだ? もしかして、そういう幻覚でもあいつらに見せられたの?」

「幻覚なんて見ていません! 実際にわたしは汚されたのです! あの人らではなく別の存在に! お願いします! 早くわたしを消さないと大変なことに!」

「大変なこと?」

「…………」

「ん? どうしたの?」

「…………」

「もしもーし」

「…………」

「眠ったのかな?」


 前備は全く違うことを言っている。眠っていないと知っておきながらも。


 もしかして、あいつらに変な薬物でも打たれたか? それだったら、色んな意味でヤバいな。僕が隠し通さないと。


 真剣な表情でありもしなさそうな考えを浮かべていると下に向いていた彼女の顔が上がってくる。そして、普通に目が開いているのも確認した。


「やっぱり眠っているわけないよね」

「…………」


 彼の言葉には反応せずに彼女は自ら体を動かしているのを見て、普通に体を動かせていることに安心する。しかし、彼女は自ら手を動かして、上下両方の下着を脱いで、投げ捨てたのだ。


「えっ!? ちょっ!? まっ!?」


 スイッチが入っていない前備は自分の目を自分の手で隠し、そっぽ向く。


「なにをしているのかわかっているの?」

「…………」

「また、だんまりか」

「…………ヒヒ」

「ん?」

「…………イヒヒ」

「んん?」

「…………ヒャハハ」

「んんん?」

「ヒャハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!」

「っ!?」


 女子生徒の口から悪魔のような笑い声が聞こえてきたので、慌てて距離を取る。もちろん、目はすでに隠していない。そういう状況ではないと判断したからだ。


 すると突然、女子生徒の胸の谷間と股間の中央に軸が通っているかのように一本の光る線が現れる。その軸は長さを伸ばしていき、鼻の部分にも通り頭頂へと届く。


「一体なにが?」


 呟くが答えてくれるものなどいない。次の瞬間に何の前触れもなく全身の皮膚と眼球だけが飛んでくる。もちろん、その中には血が混ざっているためほとんど視界が真っ赤になっているような状況だ。


 飛んできた皮膚を全て避け女子生徒の方を見ると全身が赤くなっている。眼球もないので完全にホラーな光景だ。


『イヒヒヒヒャハハハハハハハハハ!!』


 悪魔のような笑い声をまた上げると女子生徒の姿にコウモリのような羽根が生える。そして、吹き飛んだはずの皮膚と眼球が元に戻る。

 結果的にはコウモリのような羽根が生えただけで、あとは女子生徒のままだ。しかし、服装は胸に付いている突起の部分と股間だけを隠す服装になる。それは服装と言うよりも衣装だ。


 すると、唐突に悪魔の手元に断頭台に付いているようなギロチンがどこからもともなく生まれて、握られている。そのギロチンを舐めると当たり前のように舌が切れて血が出てくる。口を開けると地面に落ちた血を見て悪魔がニヤリと笑う。


 少し不気味な光景を呆然と見ておくことしかできない。しかし、見ること以外で何かができたとしても絶対にやらない。自分の命が一番大事だから。自分さえ助かれば周りなどどうなってもいいと思っているから。自分が好きだから。そのためこの場での彼の選択肢は一つしかない。それは逃げることだ。


 前備は屋上から逃げるために校内に続いている階段がある方へと向かった。

読破ありがとうございます!

1万文字を超えているのでかなり長いのにお読みいただきありがとうございます。

そして、お疲れ様です。


続きはまたそのうちに

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