裏切られた彼女と裏切った僕
あらすじ
小学生の頃に僕は彼女を裏切った。そして、イジメた。彼女がいる時は全く後悔はしなかったけどいなくなった瞬間に後悔をした。
その後悔を引きずりながら僕は高校二年生になった。そんなある日、裏切られた彼女と裏切った僕は出会った。
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今回のジャンルはヒューマンドラマです。
僕にはとても大切で大好きな幼馴染がいた。異性だが、別にそういう目では見ていなかった。ただ、友達として大好きだった。でも、僕は彼女を裏切った。それも裏切ってはならないところで裏切ってしまった。
僕が彼女を裏切ったのは小学六年生の時。僕と彼女はそんな時期になってもずっと遊んでいた。それは楽しい楽しい時間だった。でも、気がつけばそんな楽しい時間は終わっていた。
あの日はいつも通りの生活だった。本当にどこにでもある普通のいつも通りの生活。でも、あの時の彼女はいつも通りではなかった。朝からずっとイライラしているように見えたのだ。一人っ子の僕はそれが何かもわからずにいつものようにちょっかいをかけた。
「ねえねえ。昨日の宿題わかった?」
「少し黙っていて」
この時に僕は今日の彼女に気を使い話しかけるのをやめればよかった。しかし、僕はバカだからそんなことは頭に浮かんですらいなかった。
この日の僕はそれでも彼女に何度も何度もちょっかいを出されていた。そうしていたらいずれは構ってくれると信じていた。でも、そんなことはなかった。
いつまでも無視され続けて反応したとしても拒絶とかの否定の反応だった。そして、放課後。さらに僕は教室で彼女にちょっかいを出した。
「ねえねえ。今日、うちで遊ばない? そうすればみんなも喜ぶしね」
「ほっといて。お願いだから今日はほっといて。君の顔を見ているとイライラしてくるの」
今までで一番の拒絶の反応を受けた僕は頭に血が上ってしまった。
「ふざけるなよ! 僕のおかげでどれだけ君が助かっていると思っているの!」
「そんなお節介いらないのよ! わたしがいつそんなお節介をしてと頼んだ?」
「黙れ! 君は僕がいないと何もできない弱い人間なんだから!」
「もう、わたしに関わらないで!」
彼女は叫ぶように言い、僕の頬を思いっきり叩いた。すでに頭に血が上っている僕はそんな彼女に応戦をしてしまう。
彼女の腹を思いっきり膝で蹴ってしまったのだ。さすがの僕でもやり過ぎたと思ったが、彼女は僕の胸ぐらを掴んできて頭突きをしてきた。
「いってぇな!」
僕は頭突きを返す。それが原因で完全に取っ組み合いの喧嘩になってしまう。周りの子供たちは皆、まるで見せ物かのように楽しんでいる。それだけならまだよかったが、この学校の先生でさえ僕たちの喧嘩を教室の外で見ても見て見ぬフリ。そのことを見て知った僕はさらに怒りが増す。この怒りは彼女へ向けたものじゃないが、僕は彼女に対して怒っているのだと勘違いして怒りを彼女にぶつけてしまった。
でも、彼女は亡くなった父の姿を見て、泣いてはダメだと勝手に錯覚しているために一切に泣かない。小学生の喧嘩はどちらかを泣かすまで続くものだ。かくいう僕たちもそういうルールを持ち合わせていた。僕も男は泣いてはダメだと思い、今まで一度も泣いたことがない。
おかげで二人の喧嘩はいつまでも止まらない。そこでその喧嘩を見かねた一人の少年が止めに入ってきた。卑怯なことに僕はそこで冷静になり拳を止めた。彼女も冷静になったが拳を止められなかった。そんな拳が彼を吹き飛ばす。彼女は空手を習っているために体格が大きな相手とも普通に闘うからかなり強い。だから、同い年の同じ体格の彼を吹き飛ばすなど造作もなかった。
いつもなら吹き飛ばされて「痛てて」で済む話だが、今回は違った。彼が吹き飛ばされた先か悪かった。それは掃除箱だ。この学校は経費削減のためとか言って鉄のままだし固定など全くされていない。そのため彼の上に掃除箱が降ってきた。
かなり大きな音を立てたのでさすがに先生も見て見ぬフリをができなかったので慌てて少年の元へと駆けつける。先生が抱きかかえた少年は頭から血を流していた。恐怖心に駆られた僕はそこで彼女を裏切った。
「ぼ、僕は悪くないですよ! 彼女が彼を吹き飛ばしたのです! 僕は一切悪くない! 喧嘩をふっかけてきたのも彼女の方だ!」
「本当か?」
僕の言葉に反応したと先生は彼女に聞くが、やはり彼女も恐怖心を抱いてか一言も話さなかった。それをいいことに僕は「みんなも見たよな!」と同意を求めるとみんなも頷いてくれた。
僕はこの頃クラスの中で中心だったために、みんなは僕の味方についてくれた。その時の彼女の驚いている顔は今でも覚えている。
止めに入った少年は意識不明の重体だと翌日聞かされた。先生の話によると親御さんはかなり怒っていた。でも、その怒りには覇気が足りなかったらしい。そのことを聞いた僕たちはあることに対して一丸となった。なってしまったのだ。
そのあることとは彼女をイジメることに対してだ。僕がメインとなって彼女をイジメていた。イジメられ始めた彼女の顔は絶望に染まっていた。
まずは手始めに彼女の持ち物を捨てたら、引き裂いたりした。そして、みんながそれを真似する。僕は色々なテレビを見ていたのでこの中では一番知識が多かった。それはいいことの知識もだし、悪いことの知識もだ。だから、僕がまずお手本を見せてその後にみんなが真似てイジメる。という悪循環が生まれた。僕は家に帰ってからもネットなどでそういう知識をたくさん仕入れて、たくさん教えた。
しばらく経ってから、僕は彼女へのイジメから手を引いた。すでに遅いのに僕は加害者になりたくなくて手を引いたのだ。全ての罪をみんなに着せるために。彼女は僕がイジメるのを苦になってやめてくれたと思っていたようだ。
さらに時間が経ち二学期になった。彼女へのイジメは一学期の頭の方から始まっていたのでかなり長いこと続いている。そんな時に彼女にある異変が起きた。それは彼女の手首には刃物で切り裂いたかのような痕があったのだ。知識があった僕はそれを見て一瞬にしてリストカットだと理解した。
ここで僕はまた最低な考えを抱いてしまった。しかも、それを他の人たちにも共有した。でも、今回の最低な考えは全て僕が実行する役だ。保身のために他の人たちにも共有したのだ。
リストカットの痕を見た日から僕は謝罪をして、彼女とまた仲良くし始めた。少しだけ時間が経ったが、彼女は僕とだけは前と同じように関わり始めた。だが、イジメはまだ続く。普通イジメは仲良くしていた奴も同じようにイジメることになるが僕の場合は多少なイジメで済んだ。
服を裂かれたり、所持品を捨てられたり、大事にしているものを捨てられたり、水をかけられたり、階段から突き落とされたりはした。でも、これはまだ軽い。僕も彼女もイジメは大人に報告しなかった。しても無意味だと判断したからだ。
ちなみに彼女の場合は元から可愛いので彼女のイジメは小学生の度を超えていた。彼女に対するイジメは精神的にも肉体的にも酷いイジメだ。
例えば刃物で切りつけられたり、みんなに宣伝するかのように朝礼中に着ている服を裂いたり、トイレに閉じ込めて放尿シーンをネットにアップしたりなどした。これも全て僕が植え込んだ知識。でも、ネットにアップする際は親とかにバレたらまずいので個人情報を守るため顔と本人を特定できそうなものはモザイクをかけた。これも僕の植え込んだ知識。
それはもう、みんなに楽しんでいた。先生たちも見て見ぬフリだ。さらに酷い先生ならイジメに加担していたり、放尿シーンなどを高額で販売している人もいた。でも、一番最悪なのは僕だった。
ある日、僕は再び彼女を裏切った。助けを求められたが先生たちのように見て見ぬフリをした。直接的にイジメには加担しなかったものの間接的にイジメに加担した。それも一生かかっても拭えないかもしれない精神的な方だ。それ以降、僕は彼女との関わりを一切絶った。
三学期になった瞬間に耐えきれなくなったのか彼女は転校した。しかし、親にはイジメのことは言ってないようなので転校したことだけを僕たちに告げられた。そこでようやく僕は自分がやってきたことを本気で後悔した。本当にどうにもならないほど後悔した。だから、彼女が今後幸せな一生を歩むことを願った。
でも、僕はその後に地獄を味わうことになった。その地獄とは中学に上がった時だ。僕は普通に近くの中学に通った。当たり前だが、小学校が同じ人もたくさんいた。それがダメだった。中学一年生の二学期が始まった頃にイジメに積極的に加担していた少年に「放課後に校舎裏に来て」と言われた。
小学生の頃を後悔している僕は面倒ごとに巻き込まれるとしても、問題は起こされたくなかったし、起こしたくなかったので素直に彼に従い放課後になったので校舎裏に向かった。そこで僕は殴られた。蹴られました。刺されましたし、斬られもした。それを聞きつけた小学六年生の頃のクラスメイト全員から僕に対するイジメが始まった。仕返そうと思えば倍返し以上にできた自信があったが、あえてしなかった。
これは自分が犯してきた複数の罪への罰だと思った。どうやら彼らはイジメる対象がいなくなっていたのでイジメに飢えていたらしい。彼らをそのようにしたのも僕自身なので素直に受け入れた。反撃をしてこないのをいいことに彼らは本当に楽しそうにイジメてきた。肉体的にも精神的にも。だからこそ僕は中学校でできた友達との関わりを断ち、甘んじてイジメを受け入れた。
もちろん誰にも言わないし、言えない。そして、そのイジメのおかげで本当に彼女に申し訳ないことをしたと思った。だからこそ今度こそ彼女を助けるために家で肉体的に痛めつけた。ゴリマッチョにはならないほどに痛めつけた。そのおかげで家族にはトレーニングをしていたら怪我をしたという嘘を言えることになった。
僕はそれから会うことはないだろうけど二度と彼女を裏切らないと決めた。
それにしてもなんか重い。
あまりの重さに顔を上げると目の前には今、通っている高校の教室が広がっていた。
なんだ。さっきまでのは夢か。それにしてもなんで重かったんだ?
「よっ! おはようさん。そんなに寝不足だったのかよ?」
「誰?」
「おおーう。容姿端麗で将来有望な俺のことを忘れたのか? なあ、みんな!」
シーン。うん。いつも通りだ。
僕は高校になってイジメは無くなった。そもそも、運がいいことに中二の冬に引っ越すことになってこの逢出町に来た。
「ねぇ、四宮くん」
「なんだい? 我が友アル」
「誰がアルだよ。僕にはちゃんとした有馬瑠疎という日本人らしい名前があるんだよ」
「えっ? 日本人らしい? どこが? ねぇ、総司」
かなり暗い雰囲気を漂わせているが赤髪で緑の瞳を持っている岡山総司くんがコクリと頷く。彼は声を出したことがないので彼の声を聞けば苦しみ続けて死ぬと言われる都市伝説があるほど無口だ。
いかにも自己主張が激しい金髪で茶色の瞳の四宮淳くんは正反対にしか見えない彼と知り合いだ。僕はその二人の真ん中のような性格を装っているのでかなり落ち着く。
「それで何が聞きたい? 一回100円!」
「お金取るんだね」
「冗談だよ! 俺たち友達だろ?」
「ありがとう」
笑いながらもお礼を言うが、四宮くんは妙に不満そうな顔をしている。
「どうしたの?」
「いや、相変わらず心ここに在らずという感じで、いつでも消えそうだよな」
「そうかな?」
「そうだよ。今日だった一時間目からずっと寝て起きないから死ぬんじゃないかと心配したぞ」
「そんなに寝てたんだ僕。あっ。言われてみればお腹すいている」
「お前の分の弁当は我が食べた」
「そう」
「いやいやいや。そこで怒れよな。ホントお前って怒りの感情をなくしているよな」
「表に出していないだけだよ」
「うわっ! こわっ! なにそれ。こわっ!」
「まぁ、いいじゃん。よし! 一緒に帰ろうぜ」
「今日は遠慮しておくよ。お弁当を食べてから帰るし」
「そうか。わかった。なら、俺は総司と帰る。じゃな。また明日」
「うん。また明日」
軽く手を振り、二人の姿が見えなくなったところでお弁当を食べ始める。
怒りの感情をなくしているか。まあ、あんなことをしてしまったし怒りの感情が浮き上がってくるのが滅多にないのは確かだね。今頃は元気にしているのかな?
僕は彼女へと想いを馳せる。
「はっ!」
気がつくとお弁当をいつの間にか食べ終わっていて、寝てしまったようだ。
まるで太っている人のような生活だな。……ん?
僕の机の上に紙が置かれていたので手にとって読んでみる。
『あたしは忙しいからもう帰るけど戸締りしておいてよね! していなかったら明日殺す!』
……はは。殺す宣言か。らしいっちゃ、らしいな。それにしても今日の日直だったのかこれは悪いことしたな。
日直からの手紙だったので微かに笑う。ちなみに日直の名前は荒野汐音。僕とは小学校から同じで中学の頃に僕をイジメていて、小学の頃は彼女をイジメていた少女。
高校の入学式の時に会って、何があったのかかなり変わっていて出会い頭に謝罪をしてきた少女。大して怒りなどなかったのですぐに許した。
彼女もなんだかんだ言っても僕の被害者なんだし。
ちなみに彼女は委員長を勤めるほど真面目になっている。僕が許したと言っても引け目を感じているのか僕には全く話してこない。
この手紙を機会にまた話せるといいな。まずは謝罪しないと。
特に何もすることがなかったので言われた通りに鍵を閉めて、教室を出た。職員室に鍵を返してから下足室で靴を上履きから下履きに履き替えて、僕は学校を出た。
僕の家はこの高校から半径二キロメートルの範囲にあるので徒歩だ。そして、いつも通りの道を通る。もちろん今、通っている住宅街もいつも通りの道だ。しかし、いつも通りではないことが起きていた。
一人の男がどこかの学生の女子生徒の腕を引っ張り、無理矢理どこかへと連れて行こうとしていた。
さて、鍛えた成果を見せる時だね。
不謹慎ながらも少しワクワクしながら二人の元へと駆ける。そして、すぐに昔の彼女のように男を殴り飛ばす。男は文字通り飛ばされていた。どうやら、それだけで気絶したようだ。
横から物を落とした音が聞こえてきたのですぐに拾い上げ持ち主であろう女子生徒に笑顔で渡す。
しばらく待ってもなかなか受け取らなかったので何があったかと思い真顔に戻すと涙を流している少女がいた。その少女の涙は夕陽でキラキラと輝いていた。ちなみに少女の髪は長い艶のある黒色で瞳も黒く輝いている。
そして、年齢は僕と同い年くらいか。…………てっ、えっ?
思わず目を見開いてしまう。なぜなら、そこには僕が小学生の頃イジメていた幼馴染の護山ありすがいたからだ。
この話は今のところはこれにて終了です。人気でしたら連載するかも!




