ヤカミの歌舞に酔いしれた夜
ブックマークや評価ポイントありがとうございます。
とてもうれしいです!
急いで洞窟に戻り、土魔法で封じていた扉を開けた。
洞窟の中に入り、村人たちが避難している洞窟の奥の部屋を目指す。
「襲撃してきた敵は倒しました。村と周辺の安全も確かめてあります。集会所でキクムさんたちが待っているので行きましょう!」
俺が声をかけると、村人たちはぞろぞろと洞窟から出て集会所に向かった。
そして婆さんだけが残った。
「おぬしには驚かされてばかりじゃ。よう村を救ってくれた」
婆さんが頭を下げている。
「この村では世話になったし恩返しですよ」
苦戦することもなかったし、この程度ならなんてことはない。
「キクムさんたちが食事を用意していると思います。さあ、行きましょう!」
婆さんは、何度も頭を下げながら、俺の後をついてきた。
そして、集会所に着くと、キクムさんたちが炊き出しを用意していた。
芋の汁がみんなに配られている。
「オオナムチさん」
スセリが笑顔で手を振っている。
その隣でヤカミがやさしくほほえんでいた。
「俺も一品ふるまおうかな」
万宝袋から鉄板を出し、土魔法で台を作ってその上に置いた。
「ミナ、薪を集めてきてくれ」
「あい」
「姫様、それならこっちです」
家臣団たちがあわててミナの後を追いかけた。
「さてと」
万宝袋からテマで倒したレッドギガントボアの猪肉を取り出して、焼きやすい大きさに切り分けていく。
この肉はまだものすごい量あるんだよな。
香草と塩を練りこんで叩く。
肉をやわらかくして臭みを取るのだ。
「あい」
ミナと家臣団が薪を集めてきたので、鉄板の下に入れるように指示した。
「さあ、焼肉だ!」
火魔法で薪を燃やし、熱された鉄板に猪の脂を広げた。
「うまそうな匂いだ」
ジレが笑顔でやってきた。
こういうときは行動が素早いんだなw
「焼くぞ」
猪肉を焼いていく。
ジュージューと音がして、鉄板の上を脂の玉が躍り跳ねる。
「婆さん!」
俺は少し離れたところにいた婆さんを呼んだ。
「なんじゃ?」
「こういうのは年長者からだ。やわらかく焼いてあるから食べてくれ」
婆さんの皿に、小さく切った猪肉を入れてやる。
「熱いから気をつけろよ」
「わかっとる」
婆さんは肉を口にいれて、むぐむぐと咀嚼している。
ごくりと飲み込むと、目を大きくして言った。
「なんとうまいのう。これはうまい」
村人たちが集まってきて、あっという間に列を作った。
「ようし、張りきっちゃうぞ!」
よくわからないテンションになってきて、鉄板の上からも火魔法で炙って、ものすごいいきおいで肉を焼いて配った。
みんな大騒ぎで肉を食べている。
すると、キクムさんが一段高い台に登った。
「みんな聞いてくれ!」
婆さんもいつの間にかキクムさんの隣に立っている。
全員の視線がキクムさんに集中した。
「海から襲ってきたのは魚人間のフィッシュマンだ。それはすべてそこのオオナムチが倒した! オオナムチは村を救った勇者だ!」
そう言って肉を焼いている俺を指した。
「あ、ど、ども」
突然の紹介に、コミュ障の俺が顔を出す。
一瞬置いてから、村人たちが大きな歓声をあげた。
「オオナムチ、こっちへ来て一言頼む。それとその姫たちを紹介してくれ」
俺はルウに焼き肉をまかせて、スセリとヤカミを連れて台へと歩いて行った。
「みなさん、こんにちは!」
「こんにちは!」
俺の緊張した挨拶にも、素直な村人たちは全力で返してくれる。
こういうのは慣れてないけど、あたたかい視線に包まれて、少しずつ緊張が解けていくのを感じた。
「フィッシュマンを殲滅することができてよかったです。村を出る前に海岸のほうも調べておきます」
「村に住まないのか!」
村人の中から声が飛んだ。
「今回は村に住むために来たわけではありません。いろいろと報告に寄りました」
村人たちががっかりした顔になる。
こうして好意を示してもらえるのは、照れるけどすごくうれしいものだ。
「スセリ、ヤカミ、自己紹介して」
俺がたまらず丸投げすると、スセリとヤカミは笑顔で登壇した。
「われはワ国スサノオ大王が息女、ワカスセリヒメノミコトと申します。オオナムチ様の正妻として傍に仕えることになりました」
村人たちはすぐには理解できなかったようで、ぽかんとした顔をしている。
「ワ国スサノオ大王の娘ぇ!?」
いつも冷静なキクムさんが尻餅をついて台から落ちた。
「わたくしはイナバ国王が娘、八上姫と申す者です。オオナムチ様の妻になります」
ヤカミの美しさに、村人たちは声を失っている。
「こ、これがイナバ富国の美姫、八上姫様ぁ?」
キクムさんは顎がはずれそうなくらい口を開けている。
族長としての知識から、そのすごさ、そして現状のありえなさがわかるのだろう。
「おい! ムイチ、どうなってる? なんだ?」
キクムさんが尻餅をついたまま、俺に尋ねてきた。
かなり混乱している。
「いやあ、スセリとヤカミを妻にして、次期ワ国大王になることになりました」
「ええええええええええええ!??」
「なんじゃと!?」
これにはさすがに婆さんも驚いたようだ。
「あ、いや、次期ですし、今日は無礼講ってことで!」
跪こうとする婆さんたちを慌てて止める。
「まあ、そういうことでワ国内を、視察と挨拶にまわってるところなんです」
「なにが、なにがどうなった? どうなればこうなる?」
「俺にもよくわかりません」
いやほんと、実際のところ俺も、なぜこんなことになっているのかわからないのだ。
村人たちは、スセリとヤカミの美しさに見とれている。
「まあ、そういうことで、フィッシュマンの脅威がなくなったと判断できるまで、この村にはワ国兵士を20人ほど常駐させるように手配します。もちろん兵士たちの食料や住居などは村には負担させません。村はずれに兵舎を建てる土地を貸してください」
「な、そんなことができるのか?」
「次期大王ですから」
「そ、そうか」
キクムさんが事態を測りきれないで、ひきつった笑顔を浮かべている。
「まあそういうことで、今日は広場で宴にしませんか?」
「わかった。そうしよう」
キクムさんは立ち上がった。
「今夜は宴だ! 広場に酒を持って集まれ!」
「うおおおおおおおおおおお!」
村人たちが豪快に叫んで集会所を出て行った。
「ひさびさにヤカミの歌が聴きたいな」
「ええ、いいですよ」
◇◇◇◇◇
一時間ほど準備して、にぎやかに宴がはじまった。
「みんな、飲め! 歌え!」
この感じ、なつかしい。
酒と料理がみんなにふるまわれている。
「あい」
舞台ではミナが剣舞を舞っている。
東西南北と中央に邪魔外道を斬り祓う神聖な舞だ。
家臣団が太鼓と鐘を叩いている。
日が落ちて薄暗くなってきた。
広場の中央に大きな火が焚かれ、その炎に照らされてヤカミがステージに立った。
目を閉じて立っているヤカミ。
その美しさに大歓声だ。
しかし、ヤカミが目を開けて手を上げると、誰もが黙ってヤカミに注目した。
ヤカミが舞い出すと、ゆらゆらと揺れる炎が影を動かしていく。
幻想的な光景に、誰一人として目を離せず、声一つあげることができない。
あふれる感動に、次の瞬間を追うのに精一杯なのだ。
ただひたすらにヤカミに魅入られていく。
「サッ」
掛け声とともに、ルウが太鼓を叩き出した。
タンタタ、タンタタ、軽快なリズムを刻む。
ヤカミが跳ねて、太鼓に合わせて動きが速くなっていく。
天と地、その間にヤカミ、世界がここに凝縮されていく。
頭が熱くなり感動で涙がこぼれる。
失神して倒れている者がいるが、誰一人ヤカミから目を離すことができない。
ヤカミが歌い出した。
歌声が魂を揺さぶってくる。
みんな泣いている。
泣きながら笑っている。
いやあ、これはダメだ。
俺も感動の海に溺れるしかない。
俺の隣でスセリも泣いている。
歌が終わり、ヤカミが礼をすると、地震のような大歓声がステージのヤカミに向けられた。
これはこの村では伝説になるだろう。
この日の宴も夜遅くまで続き、俺たちはミナの家に泊まった。
いつも読んでいただいて、本当にありがとうございます。




